主役だったはずが、気づけば舞台に出演することすら許されなくなった。
レアル・マドリーに所属するガレス・ベイルの状況はまさしくそうしたもので、暗転へと移ろいゆく2017年として記憶されることだろう。
ベイルの存在は“白い巨人”の中において薄くなりつつある。ウェールズ人のウインガーは2013年に当時世界最高額の移籍金でトッテナムからサンティアゴ・ベルナベウにやってきた。移籍当初は良かったものの、今は急速に低下の途を辿っている。
加入当時まで話を遡ることにしよう。
当時、レアル・マドリーはブラジルの若きスター候補生であったネイマールをバルセロナに奪われるという状況下にあった。そこでクラブはベイルをトップターゲットと定め、スパーズに1億ユーロ(約132億円)を支払うことで目標を達成した。
「もしネイマールを獲得できていたら、ベイルを狙うことはなかっただろう」
レアル・マドリーの会長、フロレンティーノ・ペレスがそう認めていたとおりだ。
Getty Imagesそしてこのビッグディールはベイルにとって大きな足かせとなってしまった。マドリーはベイル獲得のために、クリスティアーノ・ロナウドの9,400万ユーロ(約124億円)よりも高い値段を払った。当然、プレッシャーや批判を集めることにつながった。
デビュー戦となったビジャレアル戦ではゴールを決めたものの、序盤戦は常にフィットネスの問題を抱えていた。その影響もあってか、ピッチにおけるパフォーマンスは周囲を納得させるものでも、リスペクトされるものでもなかった。
スペイン人ジャーナリスト、サンティアゴ・セグローラは「ベイルはサッカーの仕方を知らない。彼は走り方を知っているだけだ」とスペイン紙『マルカ』に揶揄していたほどだ。
もっとも、彼はシーズンの最後になって帳尻を合わせに成功する。コパ・デル・レイ決勝はバルセロナを破る素晴らしいゴールを決め、チャンピオンズリーグ決勝のアトレティコ戦でレアルにラ・デシマをもたらしたのだ。シーズンを通してみれば、評価すべき選手であったか定かではないながら、ヒーローの一人として初年度を終えることになった。
「信じられなかった。最初のシーズンであんな結果を残すことができるのは、まさに夢がかなったようなものだ。これが僕がレアル・マドリーに来た理由なんだ」
24歳のベイルは無邪気に喜びを語っていた。
それから3年が経過した。
マドリーは2016年にミラノでアトレティコを破り、今年6月にはウェールズでユヴェントスを破った。驚くべきことに、4年で3回もビッグイヤーを掲げる機会に恵まれたのだ。
しかし、ベイルは満たされたのだろうか。
かの有名な優勝トロフィーを地元カーディフで掲げることはベイルにとって一つの夢であった。しかし、決勝で彼は顔見せした程度に過ぎず、試合の行方が決まっていた残り13分に交代選手として出場しただけだった。
出場わずか27試合で9ゴール。彼が2013年にマドリーにやってきて以来、最低とも言えるケガ続きのシーズンであった。
Getty Imagesマンチェスター・ユナイテッドが彼の獲得を熱望していたこともあり、今夏は移籍のうわさが飛び交っていた。実際にマドリーは初めて現実的にベイルの放出を検討したようだ。
イスコが素晴らしいプレーを見せ、マルコ・アセンシオが存在感を強めたことで、もはやベイルはマドリーにとって不可欠ではなくなった。その上、彼は今なおケガの問題を抱え続けている。
少年たちからブーイングを浴びせられ、復帰間近と見られていたところでハムストリングを負傷し、欠場を余儀なくされた。ベイルにとってはまたも失望をもって語られるシーズンとなりつつある。
かつてレアル・マドリーとトッテナムで監督を務め、スパーズ時代にベイルを指導したファンデ・ラモスは『Goal』のインタビューで「どんなサッカー選手にとっても、ケガというのはハンディとなる」と話して教え子を擁護する。
「彼はとても爆発的で、パワフルな選手だ。だから時にそのエネルギーが彼自身を害し、ケガを招いているのだろう。持ち前の爆発力が筋肉に影響を与え、ケガを招きやすいのは事実だ。骨折よりも厄介なケガと言える。そして、そのほとんどがアクシデントのような形で起こる」
しかし、疑問に挙げられるのはケガをすること自体ではなく、繰り返すことだ。確かにケガをしがちな選手はいる。ただ、ベイルの場合はふくらはぎ、股関節、大腿の負傷と負傷部分が複数箇所にわたり、かつ再発に苦しんでいるのだ。
レアルでかつてキャプテンを務めていたフェルナンド・イエロ氏は、『Goal』のインタビューで「彼はF1カーのようで、完璧にチューンアップされている必要がある」と話し、こう続ける。
「誰もが彼の兼ね備えたものを見れば、素晴らしい選手で最高のポテンシャルを秘めている選手だということがわかる。ただ、レアルにいる数年間であまりに多くのケガを負ってきたのは事実だ。彼の技術、フィジカルをもってすれば、すぐにパフォーマンスもついてくるはずなんだけどね」
ベイルの絶え間ない負傷癖に関してはスペインでもあらゆる話が浮かび上がっている。メンタル面が問題に繋がっていると語る者もいれば、彼が好む左サイドではなく右サイドでのプレーを強いられているからケガをしていると推測する者もいる。
では、識者はどう考えているのか? ファンデ・ラモスは前者の理由である可能性を否定する。
「メンタルの問題でないのは確かだろう。私が思うに、彼はとてつもないパワーを発散する選手であり、ウォーミングアップ不足や寒い日という条件によってアクシデント的なケガをしてしまうんだ。それは単に災難であり、運が悪かったとも言えるものだよ。防ぎようのないものでもあるのだ」
「スピードやパワーに溢れた選手が最高のパフォーマンスにあるとき、ちょっとしたコンタクトが問題を引き起こすことがあるのだよ」
Getty Images今シーズン序盤、レアル・マドリーはベルナベウでバレンシアと対戦し、2−2のドローに終わった。ベイルはブーイングを浴び、ファンが苛立ちをぶつける標的となった。
しかし、ああいったスペースの限られた試合でベイルが輝くことが難しいという事実は、簡単に動かせるものではない。彼はスペースがあってこそ生きるタイプの選手で、ディフェンスラインを深く敷くチーム相手には効果的とは言えないのだ。現在、アームバンドを巻くDFセルヒオ・ラモスもこう主張する。
「レアル・マドリーには(ルカ)モドリッチ、イスコ、(トニ)クロース、(カリム)ベンゼマのような技術的に非常に優れた選手がたくさんいる。だが、おそらくガレスの最大の特徴はパワーなのだろう」
「彼が良いパフォーマンスを発揮するには、スペースが必要だ。ところがどうだろう? レアル・マドリーと対戦する多くのチームはとてもコンパクトで、スペースを消してくる。だから、彼が最も輝くスピードとパワーを披露することができないんだ」
「おそらく彼は先に挙げたような精巧な技術を持った選手ではない。そうしたプレーが常に彼にマッチしているとは限らないのだと思う」
2017-18シーズンここまで、ベイルが挙げた3つのゴールが、リーガ開幕戦のデポルティーボ・ラコルーニャ戦、チャンピオンズリーグでのドルトムント戦、そして右サイドを駆け上がって決めたレアル・ソシエダ戦と、すべてアウェーゲームで生まれたものであることは偶然ではない。相手のホームゆえにスペースが生まれ、ベイルにとってプレーしやすい状況になるとラモスは説明する。
「レアル・ソシエダ戦で見たように、彼は50m駆け上がったあとに素晴らしいゴールを決めた。これまでもそうした特徴を生かして多くのゴールを決めてきたよね」
「スペースがある状態、あるいはカウンターアタックでは彼を止めることはできない」
ラモスはベイルが他の選手とは異なるタイプであるとしつつ、活かす術はあると確信しているようだ。
「選手にとってより快適で、ストロングポイントを伸ばすことができる環境、状況に置かれるべきだよ。そうした状況であれば、彼は本当に止められない存在になるはずだ」
「彼にモドリッチやクロースのようなプレーを求めることはできない。なぜなら彼は異なるキャラクターの選手だからだ。それは『モドリッチにガレスのように走れ』とは言えないのと同じことだよ」
ファンやマドリーのメディアはスペイン人のイスコを支持する傾向にある。これもベイルのマドリーでの生活を難しいものにしていると推測できる。ベイルはスペイン語を話せないことでも不要な批判を受けている。8月終わりにスペインのテレビ番組の中でのビデオブログにおいて、プレゼンターのジョゼップ・ペドレロルは明確な悪意を持って嫌味なジョークを飛ばした。
「もし誰かが1億ユーロで来たとしたら、ベイルは売却されるべきだ。そして彼に“thank you”と言おう。なぜなら彼は”gracias”といっても理解できないだろうから」
一方で、ラモスはこう反論している。
「間違いなく問題ではない。彼は完璧にスペイン語を理解しているし、彼の友達や周囲の人間とはスペイン語でうまく話しているんだ。メディアや公の場で話さなければいけない時には、スペイン語では話さない。しかし、チームメートや監督といった彼に話しかける人間のスペイン語を完璧に理解しているのだから、言葉の件はまったく問題にならない」
そして、ピッチ内外で問題があるにもかかわらず、ラモスはベイルがレアルにとっていまなお重要な選手であると信じている。
「彼がアノエタ(ソシエダの本拠地)で見せたように、相手チームが自陣を出ることでスペースが生まれるような状況こそ、ガレスは輝くんだ」
ベイルが治療台にいる時間が長くなっているというのは大きな懸念事項ではあるが、代理人はケガに関する質問が禁止されたあるインタビューの中で、ベイルはなんの問題もなく、マドリーでの暮らしがハッピーであることを繰り返し主張している。
10月に『マルカ』が報じられたところによると、ベイルは彼がマドリーに移籍してきて以来3分の1と言える66試合(現在では73試合)を何らかのフィットネスの問題により欠場している。
Getty Imagesかつてレアル・マドリーでゴールキーパーとしてプレーしたパコ・ブヨは『Goal』に対し、ベイルが「運が悪い」としつつ、解決すべき問題であると主張する。
「メディカルスタッフは解決策を見つける必要がある。そうすることで彼の欠場が最小限に留められ、ピッチの上で最高の時間を過ごすことになる。これはレアル・マドリーのメディカル・チームにとっても、選手自身にとってもペンディングされてきた問題だ」
「(加入した当初)ベイルは自分の力でレアル・マドリーに居場所を築いた。しかし、今改めてそれをやらなければならないんだ」
パコ・ブヨが語るとおり、ベイルが今後も白いユニフォームを着続けて戦うためには、ケガや戦術、ファンとの関係性といった様々な問題を乗り越える必要がある。さもなければ、2017年はベイルのキャリアにとって「終わりの始まり」になりかねない。
文=ベン・ヘイワード/Ben Hayward