20221114_Kashif_GF(C)GOAL

【NXGN Jリーグ】FC東京で頭角を現したバングーナガンデ佳史扶。躍動を支える戦術的重要性/記念コラム

 アルベル監督下でポジショナルプレーを導入し、チームを構築していった2022シーズンのFC東京。10月度の明治安田生命J1リーグ全4試合では、バングーナガンデ佳史扶が左サイドバックとして出場し、とりわけ攻撃面でチームに活力を与えた。

『GOAL』では、「NXGN Jリーグ2022」の10月度月間最優秀若手選手に佳史扶を選出。FC東京に密着し続けているジャーナリストの後藤勝氏が、気鋭DFの成長の道のりと戦術的な重要性を分析する。【取材・文=後藤勝】

■お手本は「最後まで追い越せなかった」

 小川諒也がヴィトーリアSCへと移籍したその直後のJ1第19節アビスパ福岡戦(7月2日)、FC東京の両サイドバックは中村帆高と長友佑都が務めていた。しかし開始直後、中村にアクシデント。アルベル監督は左にいた長友を右へと移し、前半10分から佳史扶を左サイドバックとして投入した。小川の後継者として左利きの佳史扶が名乗りを上げた瞬間だった。

以下に続く

「(小川)諒也くんにはかなわない」

 性格もあるのだろうが、フィジカルの強さを含めてまだまだ先輩には及ばないという謙遜を何度も聞いた。佳史扶の言葉を鵜呑みにすれば、とうとう追いつけないまま小川は海外へと旅立ったことになる。

「トップを意識し始めたときからずっと目標であり超えなければいけないと思っていた選手。新しい戦術も諒也くんのプレーを見て、最初真似てから自分の色に変えていくみたいな感じでやっていたんですけど、そういうお手本の選手を最後まで追い越せなかった」

 とはいえ、自分なりに研鑽は重ねてきた。コロナ禍に見舞われた2020シーズン、長澤徹コーチ(現京都サンガF.C.)の指導のもと、居残りでクロスの特訓を重ねた。「一日100本蹴ってもメンタルが揃っていないと意味のない練習になる」と言われ、精神面を同時に鍛えながら、自在にボールをコントロール出来るよう修練に励んだ。中に合わせようとするあまりにフォームが整わずふかしてしまったり、球威が弱くなってしまったりしていたが、狙った場所へと蹴ることでそこに中の選手を呼び込むという意識で取り組んでいた。

■“ビルドアップ最終出口”を担う

20221114_Kashif(C)Getty images

 出場機会が増えると、試合のためにコンディションを整えながら、量ではなく質を追い求めるようになった。本数は少なくとも、その練習の中で質を高める。特に今シーズンに関して言えば、前に出ることさえ出来ればそこからは佳史扶の独擅場と言ってよかった。

 問題はチーム戦術の中での生かし方だ。今シーズンの東京はポジショナルプレーの概念を導入し、あらかじめ立ち位置をある程度決めつつボールを保持してチャンスメイクの機会をうかがうサッカーに取り組んでいる。ゴールキーパーとセンターバックを中心にボールを回すことになるが、相手の組織を通り抜けることが出来ないと得点に結びつかず、ただボールを保持しているだけになってしまう。特に相手のハイプレスが厳しいときは、ビルドアップの出口を探すのに苦しんでいた。第32節湘南ベルマーレ戦(10月8日)はその典型だった。

 湘南に敗れたその翌節、順延分の第25節セレッソ大阪戦(10月12日)が反省を生かす場になった。ヤクブ・スウォビィク、森重真人、木本恭生がボールを回し、相手の前線を自陣に引きつける。その間に、佳史扶が相手に気づかれないよう、するすると左サイドを静かに前進する。

 そして1本のパス。忍者のごときステルスオーバーラップで抜け出した佳史扶がゴール前へと切り込んでいく。東京は佳史扶を“ビルドアップ最終出口”とすることで、ボール保持のあとの前進というプロセスを獲得し、そしてゴールに結びつけることが出来るようになったのだ。

 対戦相手にしてみれば、佳史扶を気にすれば東京の最終ラインへの寄せが甘くなり、最終ラインに寄せれば佳史扶をフリーにしやすくなる。この厄介さを考えても、佳史扶がいることの戦術的な意味は明白だ。彼は東京のサッカーに組み込まれるべき存在となったのだ。

 それでも遙か遠くの大先輩を見据えてか、背番号49の進化は止まらない。圧倒的にボールを支配しながら1点差で敗れた第33節名古屋グランパス戦(10月29日)のあと、佳史扶はアルベル監督が褒めた守備面についても「スタートポジションや裏への対応、失点につながったマテウス選手へのファウルのような低い位置での守備は、強引に行き過ぎました」と反省し、自身が合うようになってきていると認めるクロスについても「そこはもっと突き詰めていきたいです」と言い、手綱を緩めなかった。そこにネクストジェネレーションの旗頭となるだけの理由があるという気がしてならない。

取材・文=後藤勝

■プロフィール

DF 49 バングーナガンデ佳史扶 Kashif BANGNAGANDE
2001年9月24日生まれ。176cm、74kg。東京都出身。利き足:左。FCアビリスタ-FC東京U15深川-FC東京U18を経て、2020年にトップチーム正式昇格。J1リーグ通算26試合1得点。J3リーグ(FC東京U23)通算25試合。リーグカップ通算12試合。(11月14日時点)

▶【dポイントが貯まる・使える】ドコモスポーツくじでWINNER予想!今なら1口200円のクーポンをプレゼント

広告