Cristiano Ronaldo JuventusGetty/Goal

“C・ロナウド効果”:ユヴェントスにピッチ“外”でもたらしたもの

「クリスティアーノ・ロナウドがトリノにやってくる」というニュースを知ったときのジョルジョ・キエッリーニのリアクションが、それを物語っていた。

「僕たちはとてもワクワクしているよ」

レアル・マドリーから1億1200万ユーロでこのストライカーが加入するとのニュースが最初に流れた時、クラブ主将は熱狂的にこう語った。

以下に続く

「僕たちはみんな、彼とともに働けることを楽しみにしている。選手やコーチだけじゃない、マーケティングマネージャーも、クラブ全員がね」

経済学と商学の学位、そして経営学の修士号を持つキエッリーニは、これがスポーツ面にとどまらない大きな動きであることをすぐに理解した。

C・ロナウドはバロンドーラ―であり、世界最高の選手だ。だがクラブ会長アンドレア・アニェッリは、自身がその職に就いてから、C・ロナウドは財政的な利益増大を考慮に入れて契約を交わした最初の選手であることを後に認めている。

結局33歳アタッカーの獲得にかかった総額は、移籍費用、給与、税金を合計すると3億4000万ユーロ(約407億円)。このディールをまとめるという決定を、ほかにどう説明できるだろうか?

それほど“C・ロナウド効果”は決定的なものだった。

「ユヴェントスは、2010年にアニェッリが会長の職に就いて以来、年々成長を続けている。だが、欧州レベルでトップクラブになるためには、セリエAの枠を越えてアピールを広げなければならない。そのことを彼らは良くわかっていた」と、『ラ・ファイン・デル・カルチョ・イタリアーノ(イタリアフットボールの終焉)』の著者でもある『イル・ソーレ・24・オレ』のマルコ・ベリナッツォは『Goal』に語った。

「ユーヴェはレアル・マドリー、バルセロナ、マンチェスター・ユナイテッドのような強大かつグローバルな人気、そして巨額の予算を持つメガクラブと並ぶ地位に立とうとしている」

「ただ、こうしたクラブと渡り合うためには単に強いチームだけではなく、ソーシャルメディアに多くのフォロワーを持つ、影響力を持つ選手がチームにいることが重要となる。プレーのクオリティとともに人気も伴えば、クラブはより大きな収益を上げることができる。この点で、C・ロナウドはユヴェントスがその両方の目的を達成するのに最適な選択肢だったわけだ」

■激増するフォロワー

Cristiano Ronaldo Juventus Bellinazzo social media PSGetty

そしてC・ロナウドは、これまでのところいずれの点でもチームを失望させていない。

今年2月に34歳になった彼は、ユーヴェがスクデットを獲った昨シーズンは21ゴールを奪い、イタリアでのデビューシーズンで最優秀選手賞に選ばれた。チャンピオンズリーグでも突出した貢献をした。アトレティコ・マドリーと対戦したラウンド16、その2ndレグでハットトリックを決めてチームの劇的な逆転勝利と準々決勝進出をもたらした。

5度のバロンドール受賞経験があり、今年も『Goal50』で4位に入選したC・ロナウド。だが、彼は間違いなくピッチの外でも大きなインパクトを残した。

それも、ピッチ内以上に一瞬で。

彼の“ビアンコネーリ”への移籍が公式に発表されてからの24時間、つまり7月10日から11日の間に、ユーヴェのあらゆるSNSアカウントは計220万人以上のフォロワーを獲得した。

そして、この右肩上がりは以降17カ月間継続している。

ユヴェントスの『インスタグラム』のフォロワー数は980万人から3,350万人に急増。『YouTube』では登録者数が73万人から233万人以上にまで増加している。他にも『Facebook』アカウントは750万人の新規フォロワーを獲得。『Twitter』ではイタリア語版アカウントだけでフォロワーが170万人増加した。昨年9月にユーヴェがポルトガル語版アカウントを立ち上げたのは、当然偶然などではない。

最も注目すべきは、中国の『微博(ウェイボ)』におけるアカウントのフォロワー数の増加だ。20万人だったフォロワーは、233万人にまで激増。10倍以上だ。

この世界的な人気ひとつだけで、C・ロナウドがいかにユヴェントスにとって価値ある存在かがわかる。

Cristiano Ronaldo Juventus phoneGetty

このポルトガル人アタッカーは、世界で最も『インスタグラム』のフォロワーを抱えている人物である。これは彼が世界で最も有名な存在だということを意味する。

先週末、ローガン・ポールとKSIという2人のVlogger(ビデオブロガー)が、ステープルズ・センターでプロボクシングの試合に出場し、『Youtube』ボクシング選手権のベルトをかけて戦った。この出来事は重要なことを示唆している。

2019年のユヴェントス株主総会でアニェッリが指摘していた通り、スポーツの定義が変わりつつあるのだ。

「エンターテインメントの分野では、eスポーツをはじめとする新たな動きが活発で、ますます力強いものとなっている」と会長は語った。「これらは、考慮すべき事柄となっている」

「デジタルな活動は我々にとっても戦略的なものだ。グローバルの次元でポジションを維持する上で基本的なものだからだ。ミレニアル世代、そしてZ世代は我々にとって重要な存在であり、その市場機会を掴まなければならない」

もはや言うまでもないことだが、このインフルエンサーの時代にユヴェントスは最も影響力ある男と契約を結んだ。

C・ロナウドの加入は、新たなフォロワーにクラブの扉を開き、またクラブに対しては新たな市場の扉を開いて見せた。

■倍増するスポンサー契約料

Cristiano Ronaldo Juventus fan maskGetty

ユヴェントスは、当然だが、彼の到着以前からそのブランド力を高める施策を続けていた。

「ユヴェントスは、イタリアのフットボールシーンではこれまで以上の経済的成長が見込めないことを理解しているんだ」ベリナッツォが語る。

「4万人収容のスタジアムは、チャンピオンズリーグ基準で言えば物足りない。昨シーズンは値上げを巡り抗議を受けたこともあり、チケット売り上げはこれ以上増やすことができない。リーグが管理するテレビの放映権収入も頭打ちだ。イタリアではリーガ・エスパニョーラやプレミアリーグほど国際的な人気を博していないことから考えると、これ以上の増収は見込みにくい。これらの壁がイングランドにいるライバルクラブ並みにユヴェントスが収益を上げることを妨げている」

「それゆえ、これらのことを考慮に入れると、クラブが経済的成長を見込めるのは国際的なレベルでのみということになる。この点で、北米やアジアでのマーケットを広げるために、C・ロナウドのようなグローバルなアイコンが必要となる」

「当然ながら、ユヴェントスは既にこうした外部のマーケットにアピールするために動き続けてきた。例えば、ロゴをよりモダンなデザインに変更した。今シーズンもユニフォームに変化があった。伝統的な黒と白の縦縞と決別したのだ。これはアメリカの人々が、ユーヴェ伝統の縦縞を野球やアメフトのアンパイアを連想しがちだという点に起因している」

「さらに今シーズンは、アジア時間帯の人々が合理的な時間に試合が見られるように、午後3時キックオフの試合を増やしている」

「経営陣はクラブの国際的な魅力を高めるために、こうした施策をとってきた」

Cristiano Ronaldo Juventus bannerGetty

これらの施策は概ねうまくいっている。“ユーヴェ・ブランド”はかつてないほどに投資家からの注目を集めている。

1月、ビアンコネッリは『アディダス』とのスユニフォームサプライヤー契約を更新。7年契約で、契約金は前回の倍以上となる3億5700億ユーロ(427億円)にも上る。

そして先月には『JEEP』とユニフォームスポンサーのパートナーシップを延長。新契約は4200万ユーロ(約50億円)。更新前の契約金は“わずか”1700万ユーロ(約20億円)だった。

また、ユヴェントスが結んだ新たなパートナーシップが大きな注目を集めている。たとえば『コナミ』のケースを見てみよう。

日本を代表するエンターテインメント複合企業『コナミ』は、C・ロナウドがトリノへ向かうという報せが流れたその時、ビデオゲーム“プロ・エボリューション・フットボール(PES)”シリーズ(※日本ではウイニングイレブンでおなじみ)で、クラブ使用の独占権を確保すべく、ユヴェントスと協議を行っているところだった。

「我々にとって素晴らしいことだった」と、『コナミ』でブランドとビジネス開発を担当するシニアディレクターのジョナス・リガードは『Goal』に語る。

「我々はすでに多くの利点があると伝え、クラブに対して共に働きたいと伝えていた。ここにC・ロナウドが加わるということは、メディア露出やプロジェクトの重要性という点で大きな付加価値を与えてくれるものだ」

ユヴェントスは、明らかにC・ロナウドの存在から恩恵を受けている。

■切迫する“欧州スーパーリーグ”

Cristiano Ronaldo Juventus fansGetty

だが、それはビアンコネッリが何の問題も抱えていないと言う意味ではない。

「C・ロナウドの給与、税金、償却費(4年契約の移籍金をカバーするため年間支払いとした金額)などで、ユーヴェが年間で支払う費用は8500万ユーロ(約101億円)にも上る」。ベリナッツォは続ける。

「自分のユニフォーム売り上げを自分のために支払うというのはナンセンスにも聞こえるが、彼の存在はマーケティング面で大きな追い風をもたらし、ユニフォームのスポンサーとサプライヤーとの取引といった面でも、その価値を倍増させた。チケット売り上げも7000万ユーロ(約84億円)の収益増となっており、これはどう考えても彼の存在あってこそのことだ」

「つまり、C・ロナウド効果はホンモノなんだ。誰もが認めるところだろう」

「ただし、ユヴェントスにとっての問題は初期段階では収益だけでなくコストも増大しているということだ。C・ロナウドの移籍1年目、クラブは移籍市場で1億5000万ユーロ(約180億円)以上のキャピタルゲインを獲得したにもかかわらず、4000万ユーロ(48億円)の損失を計上していた」

「これは賃金法に関わる収支不均衡の兆候だ。さらにCL準々決勝でアヤックス相手に敗退したことで、この不均衡は2000万~3000万ユーロ(約24億~36億円)程度悪化した」

「つまり、C・ロナウド獲得による商業的利益を最大化するためには、欧州の舞台で勝ち進むことがクラブにとって重要になってくる。なぜなら、イタリア国内では同程度の収益をあげることなどできないからだ」

「アニェッリが欧州大会の拡大、つまりユーヴェのようなトップクラブの収益をさらに増やすため、より統合されたトーナメントとなる“スーパーリーグ構想”を積極的に推し進めている背景にはこうした事情がある」

「イングランドのクラブはその背後にプレミアリーグの支援があるため、こうした努力はさほど必要ではない。レアル・マドリーとバルセロナはすでに巨大なブランドとなっている。こうした中では、ユーヴェはバイエルン・ミュンヘンに似ているね。だから、彼らはより大きく、かつリッチなヨーロッパの大会を求めているんだ」

つまり、ユヴェントスにとってはC・ロナウドは手段にすぎない。アニェッリの最終目的は“欧州スーパーリーグ”の実現だ。少なくとも、2024年以降にはこのトーナメントを開催したいと考えている。

それまではC・ロナウドという武器を商業面、スポーツ面の両方で最大限に活用していくだろう。彼の存在があるだけで、ユヴェントスは多くのトップ選手にとって理想のクラブとなる。昨夏、引く手あまただったオランダ人DFマタイス・デ・リフトがそうだったように。

アニェッリが以前語った通り、彼らは今、25歳の“ネクスト・ロナウド”と契約する立場にいるのだ。33歳ではなく――。

■途中では引き返せない道

「C・ロナウドは最初の一歩にすぎない」ベリナッツォは言う。

「彼との契約は素晴らしいものだ。だが、これだけにとどまらないだろう。ユーヴェは昨シーズン営業赤字を抱えていたが、つい最近3億ユーロ(約359億円)の資本調達が認められた」

「これはアニェッリ政権下で二度目の資本調達だ。最初は2011年で1億2000万ユーロ(約144億円)ほどのものだった。今回の3億ユーロの増資は、イタリア市場では信じられない規模だ。これは明らかに、マーケティング戦略を積極的に展開するだけでなく、C・ロナウドのチャンピオンとしての力を移籍市場にも積極的に投入するためのものだ」

「だがこうした巨額の支出は、何人かの選手を売却するかたちで相殺する必要がある。夏の市場で見たように、言うだけなら簡単な話だ」

「ユーヴェは移籍ウィンドーの最終局面で数名の選手の売却に失敗した。その結果、選手の給与と償却をめぐり、5億ユーロ(約599億円)もの労働コストを負うはめになった。こんなコストを維持することなどできない。だから、ユーヴェは高い給与の選手たちをいち早く手放す必要がある」

C・ロナウドもいずれは売却される一人になるだろう。ただ、それが今ではないことは明らかだ。彼を獲得した最大の目的、チャンピオンズリーグを手にしていない今ではない。

「クラブはやがて多くの興味とファンがある中国などの国に彼を売却する可能性もある」とベリナッツォは考える。

「それは関わるすべての人にとって悪くない移籍だ。だが、C・ロナウドを獲得した時点で、ユーヴェは途中で引き返せない道を歩み始めたのだ。これはもう取り消すことはできない」

「ユヴェントスは成長を続け、勝ち続けなければいけない。この2つはリンクしている。そしてC・ロナウドは、その両方のためにクラブに不可欠な存在だ」

この移籍は、ユヴェントスのヨーロッパを制するというロマンチックな夢を叶えるためのものではなく、世界に進出するためのマーケティング戦略の一部だったのである。

そしてそれを実現するためには、経営学の修士号は必要ではない――。

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