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【戦術分析】「完ぺきだった」クリスティアーノ・ロナウドはもう存在しない――自分を見失うCR7と情けないマンチェスター・ユナイテッド

チャンピオンズリーグ(CL)ラウンド16セカンドレグ、マンチェスター・ユナイテッドはアトレティコ・マドリーに本拠地オールド・トラッフォードで0-1と敗れた。

ファーストレグを1-1で終えていた彼らだが、アトレティコの堅守を効果的に崩せず。これまで幾度となくディエゴ・シメオネのチームを粉砕してきた頼みのクリスティアーノ・ロナウドも、2試合を通じて沈黙。41分のレナン・ロディの1点に沈み、2試合合計1-2での敗退を余儀なくされた。昨夏C・ロナウドにラファエル・ヴァラン、ジェイドン・サンチョといったビッグネームを次々に獲得した彼らだが、5シーズン連続の無冠は決定的となっている。

以下に続く

そんな失意の一戦を、スペイン『as』試合分析担当ハビ・シジェス氏はどのように見たのだろうか? 同氏はC・ロナウドについて「多くの面で完ぺきだったあのフットボーラーは、もう存在しない」と断言する。そして、そんな背番号7を生かせないチーム状況について紐解いていく。

文=ハビ・シジェス/スペイン紙『as』試合分析担当

翻訳=江間慎一郎

「マンチェスター・ユナイテッド」の名からかけ離れた姿

ときにフットボールの試合は、選手とチームの置かれている現状を正確に反映する。アトレティコ・マドリー戦で、クリスティアーノ・ロナウドはあらゆる場所から攻撃を仕掛けようとしていたが、それは彼とマンチェスター・ユナイテッドがうまくいっていないことを雄弁に物語っていた。

ポルトガル人FWはすべき以上のことをして、そのために自分を見失っていた。彼がいるべき場所はペナルティーエリアの中であり、唯一そこにだけいればいい。そこから離れたクリスティアーノはもはや、ただの柔い選手である。多くの面で完ぺきだったあのフットボーラーは、もう存在しない。オールド・トラフォードで再び7番をつける彼は、時間の流れにできる限り抵抗しながら、その飽くなき執念によってゴールを奪えばいいだけの選手だ。

37歳のクリスティアーノが、無謀にも過去の栄光を取り戻そうしたのは、ユナイテッドが弱かったためでもある。彼はチームのサポートを一切受けることができなかった。今のユナイテッドはあまりにひどく、ついにどん底まで落ちてしまったようだ。アトレティコとの対戦では、ほんの少しでも本来の姿を見せることが期待されたが、そのパフォーマンスぶりは「マンチェスター・ユナイテッド」という名からはかけ離れたものであり、これまで培ってきたクラブ文化を冒涜すらしていた。彼らはチームでないどころか、何も持っておらず、何者でもなかった。

戦術的敗因

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ユナイテッドはスペイン首都での1stレグで、間違いなく値した敗戦を免れた(1-1)。創造性を欠いたことでアトレティコのプレッシングをかわせず、攻撃の選手たちはほとんど守備で貢献せず……それでもアントニー・エランガがアトレティコのミスに乗じて同点ゴールを決め、2ndレグに向けて希望を灯している。しかしオールド・トラフォードを舞台にしても、何も変わりはしなかった。

序盤は悪くなかった。ユナイテッドはアトレティコの5バックを前に、ブルーノ・フェルナンデス、フレッジ、エランガが3センターバックの両端とウィングバックの間を突くことでGKヤン・オブラクを動揺させている。とりわけ効果を上げていたのは右サイドで、アトレティコはディフェンダーというよりアタッカーのロディが彼らの攻撃を許してしまっていた。だが、そうした時間も長くは続かない。ユナイテッドはディエゴ・シメオネの罠にはまってしまった。

アトレティコはアントワーヌ・グリーズマンとジョアン・フェリックスが中央、またはサイドに流れて攻撃の起点になったが、ラファエル・ヴァラン&ハリー・マグワイアのCBコンビの対応は目も当てられないものだった。アトレティコのFW2枚がパスを受ける際、先んじてボールを奪うような試みをせず、サイドに出て行っても何の解決能力も持ち得ず。ユナイテッドはこうした構造的問題を、今季ずっと抱え続けている。たとえスコット・マクトミネイ&フレッジの2ボランチが戦術的安定をもたらせる存在だとしても、数的不利とフットボールの技術的劣勢は如何ともし難い。トップ下&サイドハーフの守備貢献もやはり足りず、攻撃から守備へのトランジションで保たれるべきバランスが崩れてしまっていた。ユナイテッドの敗退は、そこから始まっていたのだ。

守備がみすぼらしいものであれば、少なくとも良質な攻撃を実現したいところだが、こちらも負けず劣らずみすぼらしい。彼らの攻撃は創造性が皆無だ。マクトミネイ&フレッジは、ゲームをつくるためのクオリティーが欠如している。パス出しが遅く、攻撃の方向づけができず、中央での崩しのバリエーションもない……。またユナイテッドの退屈な攻撃に刺激を与えられる選手がいたとすれば、それはブルーノ・フェルナンデスだったろうが、アトレティコ相手には力を発揮できず。エランガ&ジェイドン・サンチョの両サイドハーフも、ポジショナルな攻撃において何も生産性がなかった。

ユナイテッドは選手交代をしても意味がなかったどころか、よりプレーが悪化している。マーカス・ラッシュフォードを投入しても彼の存在を感じさせないようにプレーし続け、ポール・ポグバについても同じことが言えた。フランス人MFは素晴らしい才能を持っているが、メンタリティーとプレーに臨む姿勢がいつも足りない。こうして彼らのプレーアイデアは、優位性も何もない単調なクロス攻撃だけに限られることになった。中央から相手を崩す術も持たず、それでクリスティアーノを生かそうとしても、どうにもならないのは明白である。

「“クリスティアーノ”にしてやれないチーム」

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クリスティアーノは、その輝かしいキャリアの中で最たる獲物にしてきたアトレティコ相手に(これまでに25点を決めてきた)、厳しい現実を突きつけられてしまった。シメオネは彼がサイドから反対のサイドまで積極的に動き回ってプレーに関与することを特に気にしていなかった。ペナルティーエリア内にいないクリスティアーノが、これまで自分たちを苦しめてきたクリスティアーノになり得ないことを理解していたからだ。そしてユナイテッドは、クリスティアーノをクリスティアーノにしてやれない情けないチームに成り下がってしまった。

時を同じくして、リオネル・メッシも点取り屋ではなくゲームメーカーとしての側面を押し出し始めているが、それは私たちがイメージする彼の姿である。しかしクリスティアーノは、メッシとは違う。彼がフットボール界の伝説になった最たる要因はそのフィニッシュ力であり、今なお衰えず持ち続けている能力も、それにほかならない。願わくば、私たちが知っている彼の姿のままでキャリアを終えてほしいところだが……。

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