20240107-aomoriyamada-oumiKenichi Arai

高校選手権決勝、近江は「黒ひげ危機一発」で「ラスボス」青森山田と真っ向勝負

■蹴り合いの展開で勝算はない

20240107-oumi-highschool-soccerKenichi Arai

 近江高校・前田高孝監督は「ラスボス」と位置付ける青森山田高校との試合を前にした心境を、「山王工業に挑む湘北」と人気漫画『SLAM DUNK』に喩えた。

「桜木花道はいるし(スーパーサブとして結果を残してきたMF山本諒のこと)、木暮くんもいる(ベンチに回っている副主将のDF里見華威のこと)」とした上で、「でも三井寿と流川がいないんだよなあ」とぼやいて、「それじゃ勝てないじゃないですか」という報道陣のツッコミを誘っていた。

 この決勝前日の取材対応、「めっちゃ緊張している」としながらも、前田監督は本来のノリを崩さず、話が真面目な雰囲気になると笑いを取りにいくというムーブを繰り返していた。選手として過ごしたアルビレックス新潟シンガポール時代の恩師であり、高校サッカー指導者としても「恩人」であると言い、かつて富山第一高校を率いて日本一を経験している大塚一朗氏(現・モンゴル代表監督)のこともひたすらイジり倒し、「ちょっと良い話」を聞きたかったであろう記者たちを煙に巻いていた。

以下に続く

 元清水エスパルスのFW……なのだが、そうしたプライドは微塵も感じさせないし、選手にも現役時代の話はまったくしないと言い切る。ただ、このノリと雰囲気作りが、全国大会で勝ち進んだ経験のないチームに、うまくフィットしていたのだろう。決勝を前にして、選手たちの雰囲気が至って普通だったのも、指揮官のオーラがいつも通りだからこそだと感じられた。

 そんな雰囲気の中で前田監督が少しだけ本気をのぞかせたのは、青森山田について語ったとき。結局、最後はおちゃらけたのだが、この部分は“マジトーン”だった。

「みなさん、青森山田と言えばセットプレーかロングスローとおっしゃいますよね。でも、それだけではない……というか、それ以上のものが強い。いままでは漠然とした『青森山田』というイメージだったんですが、決勝で当たるということになって、本気で青森山田の映像を観たら、なんかもう『凄い』ですよね。雪国で鍛えられて寮生活を送って覚悟も決まっている」

 高円宮杯プレミアリーグの映像もチェックし、あらためて青森山田の強さも実感させられたと言う。

「青森山田は誰を警戒するというわけにもいかない。どこからでも違う種類の手榴弾を投げてくる。いかにそれを避けて、時には早く投げ返していくかしかない」

 そう語った前田監督は、「こっちがマイボールのときは“黒ひげ危機一発”になる」と、ハードプレスが身上の相手に対し、3バックのメリットを活かしたビルドアップを得意とする近江の真っ向勝負を予想する。ボールを狩りに来る相手に対して、いかにいなして運べるか。これは金山主将や西村といった後ろの選手が揃って「ポイントになる」と強調する。蹴り合いの展開で勝算はないからだ。

 黒ひげを刺されることなく、運び出せるか。「流川と三井がいない」と言った前田監督だが、プレスを食い破ってボールを運ぶ、宮城リョータは複数いると思っていそうではあった。

■過去5大会4度の決勝進出

20240107-aomoriyamada-sugasawa-highschool-soccerKenichi Arai

「ラスボス」と言われる青森山田。過去5大会で4度の決勝進出というのは、サッカーのカップ戦が本質的に水モノの要素を持っていることを思うと、本当に驚異的な戦績である。カップ戦に特化したチームではなく、リーグ戦でも結果を出し続けている点も特筆に値する。

 DF菅澤凱は「青森山田に来て本当に強くなれた」と胸を張る。ガンバ大阪ジュニアユース時代は試合に出られず、「本当に悔しいだけだった」というところから一念発起して青森へと旅立ち、「最高の仲間と出会えた」「ここで変わることができた」と笑顔で言い切る。まさに前田監督が言うところの「覚悟が決まっている」境地に達した選手がズラリと揃うチームである。

 結果を占うのは難しいが、試合の構図を予想するのは容易い。やはり焦点は近江のビルドアップに対する青森山田のプレッシング。「黒ひげ危機一発」を楽しむ湖国の技巧派集団と、北の横綱による最後の戦い。当事者である選手たちは存分に楽しんでもらいたいし、観ている側にとっても何とも面白い試合になりそうだ。

取材・文=川端暁彦

広告