20240105-ichifuna-gunji-rikuAtsushi Tokumaru

「悪い見本」と言われた過去を超えて。市立船橋のエース郡司璃来が高校選手権で見せる変化

■「凄い時は凄いんだけれど…」

 ヤンチャなサッカー小僧から名門のエースとしての風格漂う選手へ。清水エスパルスへの加入も内定している市立船橋高校のFW郡司璃来(ぐんじ・りく)は、最終学年で臨む全国高校サッカー選手権大会にて、その成長ぶりを印象付けている。

 元よりその技術や創造性、運動センスは高く評価されてきた。1年生から名門で出場機会を掴んだだけでなく、印象的なゴールを決めてきた実績もある。波多秀吾監督が「教えられないモノは間違いなく持っている」と評したように、特別なタレントだったのは間違いない。

 ただ、安定したパフォーマンスを見せてきたかというと、そうでもない。関係者が揃って「凄い時は凄いんだけれど……」と首を捻っていたように、ムラっ気があったのは否めない。目を見張るようなスーパーゴールを決めたかと思えば、試合中に集中が切れてしまったような様子を見せることもあった。

以下に続く

 今だから言える話だが、他の高校の指導者が、そんな郡司のプレー態度を映した映像を「悪い見本」として選手に見せて、「こういう風になってはダメだ」と言って聞かせたなんてことまであったほどだ。

 ただ最終学年を迎えた今季、そんな郡司の様子は少しずつ変わっていた。2年生で思うような結果が出せなかったことも結果的に幸いしたのだろう。練習へ臨む様子も変わり、自主練への取り組み方も変わった。高円宮杯プレミアリーグEASTでは劣勢の試合も多くなる中で18試合12得点を記録。数字の面でも変化を印象付けたが、試合への入り方も変わっていた。

 全国高校サッカー選手権大会の準々決勝(4日/県立柏の葉公園総合競技場)は、そんな郡司の変化を象徴するようなゲームだった。

■マンマークに遭うもイライラを我慢

20240105-ichifuna-gunji-rikuAtsushi Tokumaru

前半から名古屋高校のDF太田のマンマークに遭い、オフ・ザ・ボールを含めての対応で徹底して試合から消された。シュートは0本で、「前半は何もできなかった」と本人が悔やむ通りの内容。名古屋にしてみると、「郡司についてはほぼ狙いどおりだった」(名古屋・大久保隆一郎コーチ)。

「昔の自分だったら、あそこですぐにイライラしてしまっていたと思う」

 この流れを郡司はそう振り返る。常に郡司へセルフコントロールの重要性を教え諭してきた市立船橋の波多監督からは「イライラするなよ」という声も飛んでいたが、郡司の返答は「わかってます」。

「相手が自分をイライラさせようとしてきているのもわかっていた。ハーフタイムで一度落ち着いて考えて後半に入れた」

 結果、巡ってきたワンチャンスでマークするDFを出し抜く動き出しから、決勝点となるゴールを叩き込む。相手DFの視界を意識しつつ、オフ・ザ・ボールの駆け引きで上回り、シュートを流し込んでみせた。

「今年の前半戦の自分だったら、まだダメだったと思う。イライラしちゃっていた」と本人は笑って言う。プロ入りを決め、「プロにふさわしい選手になる」ことを意識する中で、あらためて自分をコントロールして結果を出すことを学び、実践するようになった成果だ。

 今大会は4試合でシュート7本ながら5得点。驚異的な決定力を見せ付けているが、イライラしてしまうようなもどかしい試合展開であっても、自分を見失わずに一瞬の隙を突けるようになった成果の賜物と言えるだろう。

 次戦は夢に見た国立での準決勝。相手は青森山田高校。高円宮杯プレミアリーグで何度も競り合ってきた相手だけに、肌感覚としてその力も分かっている。当然、厳しく警戒されるであろうことも。ただ、だからこそ、3年間の成長を示すチャンスでもある。

 準々決勝には清水のサポーターも駆け付け、来季チームに加わるストライカーのプレーに熱い視線を送っていた。準決勝となれば、その注目度もさらに上がるだろう。そして、青森山田相手の試合が簡単なものになるはずがないこともわかっている。そしてだからこそ、燃えている。

「しっかりと自分たちのプレーをして、次の試合も勝ちたいと思います」

 優勝へ。市船の10番は、どんな戦況になろうとも、虎視眈々とゴールを狙い続ける。

FW 10 郡司 璃来(ぐんじ・りく)
2005年8月3日生まれ、千葉県千葉市出身。176cm/72kg。JSC CHIBA→市立船橋高校、24シーズン清水加入内定。U-16日本代表候補、U-17日本代表、U-17日本高校選抜候補、U-18日本代表。

取材・文=川端 暁彦

広告