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【戦術分析】「森保は自身と瓜二つの日本代表をつくり上げた」…監督がもたらした「戦術的エッセンス」を西紙分析担当が紐解く

日本代表は、ワールドカップ(W杯)アジア最終予選のオーストラリア戦に2-0で勝利。7大会連続7回目の本大会出場を、敵地で見事に決めてみせた。

苦しい戦いも予想されたオーストラリア戦、日本代表はチャンスを作りながらも決めきれず。そのまま試合は終盤に突入する。しかし、84分に投入された三笘薫がヒーローとなった。89分に値千金の決勝ゴールを奪うと、後半アディショナルタイムには圧巻の個人技から2点目をマーク。日本代表をカタールへと導いた。

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日本代表の最終予選を追いかけているスペイン大手紙『as』の試合分析担当、ハビ・シジェス氏は、森保ジャパンの戦いぶりを称え「基本的に文句のつけようがないチーム」と絶賛した。今回のオーストラリア戦を紐解き、森保監督がもたらした「戦術的エッセンス」を解説する。

文=ハビ・シジェス/スペイン紙『as』試合分析担当

翻訳=江間慎一郎

正当な勝ち点3

ほぼほぼ90分まで、まったく意味が分からなかった。長きにわたったW杯アジア最終予選の中でも最高の試合を演じている日本が、なぜ本大会出場を決められないのかが。彼らはオーストラリアを相手にどこまでも、果てしなく優勢だったが、それを明示するまでにずいぶん長い時間を要することになった。それでも、彼らは必要としていた勝利をつかみ取った。これまで一度も勝ったことのなかったオーストラリアとのアウェー戦で、正当な勝ち点3を手にしたのである。

日本はアジア予選の出だしで派手に転び、自分たち自身を見つけ出して立ち上がり、グングンと加速しながらこのオーストラリア戦まで駆け抜けた。今回の一戦では途中出場の三笘薫が勝利とW杯出場を導いたわけだが、しかし日の丸の下にいるのは彼だけではない。そこには見事なチームが、選手たちが、希望が存在している。そして、もちろん監督だって。森保一は厳しい批判を浴びせられながらも、疑いを晴らすだけの取り組みを行なってきたのだ。

ハイプレス、速攻、ポジショナルな攻撃

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オーストラリアの地で、日本は最高のバージョンを披露している。酒井宏樹、冨安健洋、大迫勇也が不在だったものの、そのゲームプランに制限がかかることはなかった。誰がピッチに立っても、フットボール的パラメータの振れ幅がほとんど変わらない。これは絶対に強調しなければいけないことだろう。彼らが提示するプレーアイデアは選手名を超越したところで成り立っており、山根視来、板倉滉(11月と同じく)、浅野拓磨は不在だった3選手とまったく同じ役割をこなしていた。日本はいつもの1-4-3-3を使用していたが、ここ最近になって同システムで安定性、ダイナミズム、縦への速さ(バーティカル性)を獲得している。中盤のトリオ(遠藤航、田中碧、守田英正)は今一度大きな輝きを放ち、右サイドの伊東純也、左サイドの南野拓実のプレーも充実していた(リヴァプールFWはゴールと喧嘩さえしなければ……)。日本は規律立ったチームであり、しかも攻撃で深みを取れ、アグレッシブにボールを奪える集団となった。

スコアが動いたのは、確かに試合の終わりだった。が、日本は開始1分からオーストリアを凌いでいた。一体、何をしたのか? オーストラリアが抱える問題、創造性の欠如をうまく突いたのだ。オーストラリアのシステムは守備時が1-4-4-2で、ボールを保持するとリスク回避のためにDFライン3枚でビルドアップをしたが、日本陣地まで攻め入ることができなかった。それは日本のプレスに穴がなかったためだ。1-4-3-3の日本は伊東、浅野、南野がオーストラリアのDF3枚、山根と長友佑都が両サイドハーフに圧力をかけ、さらに中央の守田と田中(後方で遠藤がカバー役)が背を向けてボールを受けるメットカーフ、ステンスネスに襲いかかった。オーストラリアはこのプレスを前にほとんど息ができず、日本が高い位置からボールを奪っていった。

森保のチームが唯一苦しんだのは、長友が無謀な形で相手選手からボールを奪おうとしたときのみだった。この左サイドバックが経験豊富なのは間違いない。が、以前のようなスピードは失われている。日本の混乱は彼の背後から生まれていたが、しかし吉田麻也がフルスティッチを押さえ込むことで問題を解消していた。

プレスが機能すれば淀みない攻撃も実現できる。オーストラリアがボールを失う度に日本は高水準のトランジションを見せた。オーストラリアの中盤が2枚しかおらず、最終ライン3枚も対応が遅れる状況で浅野、南野、伊東はミドルゾーンで速攻をサポート。反転して、前を向き、適当なサイドにボールを運ぶ。守田と田中は異なる高さを取り、遠藤が起点となるパスを出して、日本はいくつもの選択肢を持つ縦に速いプレーを楽しんでいた。技術、機動力、後方からペナルティーエリアに飛び込んでいく様子……と、彼らの速攻は相変わらず高いレベルにあった。

日本は速攻ほか、ポジショナルな攻撃に改善が見受けられた。アジア予選の途中では攻撃が見え透いていた時期もあったが、今はそうではない。オーストラリアのDFラインが高い位置を取っていたために、その後方のスペースにロングボールを出す決まり事はあったものの、下がり目の位置で守備ブロックを形成されるときにも、どう攻めるべきかを理解していた。伊東と南野が内に絞れば両サイドバックがゴールライン近くまで上がり、伊東がサイドに開けば守田か田中がペナルティアーク近くまで進んで相手DFを引きつけたり縦への突破を狙った。後方からペナルティーエリアに飛び込む動きも頻繁で、そこから壁パスなどでゴールまでの道をつくっている。日本はボールを保持しても明晰であったし、持ち味の高い技術を存分に発揮していた。

森保監督がもたらしたもの

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そして三笘の出場によって、日本の優勢ぶりはついにスコアに反映された。ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズ所属ウィングは、フィニッシュフェーズでの直感力と個人技でもって、はたせるかな日本の勝利を明確なものにするとともに、森保の決定に関する矛盾も浮き彫りにしている。三笘のような選手がなぜほとんどプレーできないのだろうか? 堂安律、久保建英も出場機会をほぼ与えられていないのはなぜなのだろうか? 彼らの個人技はコレクティブなクオリティーを超えたところにあり、ここまでに出場が求められた場面もあったはずだが……。

森保は批判に動じない人物のようで、スタメンがサポーターに受け入れられなくても関係ないようだ。彼は彼自身と瓜二つの日本代表をつくり上げたように思える。そして、先のサウジアラビア戦や今回のオーストラリア戦のようなパフォーマンスを実現し続けるのであれば、彼の日本代表は基本的に文句のつけようがないチームだ。

W杯出場という目標を達成した森保は、ここから同大会ベスト16の壁を乗り越えることが求められる。日本はもう感覚や見かけだけで生きていてはいけない。結果を必要としている彼らは、現在のハイプレス、速攻、ポジショナルな攻撃を機能させ続ければ、成功を収められるはずなのだ。そう、森保がもたらした戦術的エッセンスには価値がある。自分たちより上の相手と対戦するとき、引きこもって守る時間帯があっても、その価値は変わらない。規律を持って機動力と技術を生かすという、日本の然るべきアイデンティティーに影響を与えない限りは……。

森保は首尾一貫していないフットボールを捨てさせ、どこが相手でも安定して競い合える材料を日本にもたらした。前述した通り今の日本には見事なチームが、選手たちがいる。監督もいる。彼らの灯した希望が、これまでのような一過性のものにならない可能性も、十分にある。

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