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【徹底分析】「森保は日本をさらなる高みへと引き上げる」…欧州での“日本評”を覆すチームをスペイン大手紙副編集長が紐解く

日本代表は1日、カタール・ワールドカップのグループE最終節でスペイン代表と対戦。ボールを圧倒的に握られながら前半のうちに失点し、難しい展開を強いられたが、後半に途中出場の堂安律と田中碧がネットを揺らして逆転に成功。2-1で勝利を収めている。

この結果を予想する人は多くなかっただろう。コスタリカに敗れ、ドイツ、スペインとワールドカップ優勝経験国相手に2度逆転劇を収めた。これは同一大会におけるアジア史上初の快挙だ。このような形でのグループE首位通過は、世界中で衝撃を持って伝えられている。

これまで日本代表を4年以上前から追いかけ続けているスペイン大手紙『as』の副編集長であるハビ・シジェス氏は、今大会の日本代表は「ヨーロッパでの表面的な日本評を覆そうとしている」チームであると表現する。そしてその立役者は、これまでも彼が評価し続けてきた森保一監督であると――。彼が見たスペイン代表戦、そしてラウンド16で対戦するクロアチア代表戦で必要なことは、どのようなものなのだろうか。

以下に続く

文=ハビ・シジェス/スペイン紙『as』副編集長

翻訳=江間慎一郎

■森保監督の手腕

フットボールは何にも増してよく分からない事象である。日本は唯一勝ち点3を計算できたコスタリカに敗れ、しかしドイツ、スペインに勝利して(どちらも逆転で)、“死のグループ”を首位で突破した。彼らは今大会の語りぐさとなるチームだ。そのゲームプランは日本人選手の本質とは対局に位置する、あまりに守備的なもの(そして時おり戦術的でもある)であるが、森保一はもう疑問視される監督ではなくなった。彼は日本を、さらなる高みにまで引き上げる可能性すら手にしている。

スペインがあまりに消極的で、表面的なパス回しだけに終始したこと含めて、日本の勝利には多くの要因があった。森保は1-5-4-1のシステムを採用。センターバックがスペインのインサイドハーフにプレスを仕掛ける形を取りつつ、スペインの圧倒的なボール保持は気に留めなかった。ただ、本当にそれで良かったのかは議論の余地がある。スペインは中盤の単純な数的優位によって試合を物にしようとしていた。

前半、日本は守田英正の背後を取るガビにうまく対応できず、DFとMFのライン間に位置するダニ・オルモとアルバロ・モラタへのパスも塞げなかった。センターバックたちは自由に前へ出ていき、守田と田中碧の背後はあまりに無防備となっている。だがスペインはそのスペースを突き、深みを取ろうとはしていなかった。というのも彼らのほぼ全員が、ボールを足元にほしがっていたのだ。唯一ガビだけがウィングバックとセンターバックの間を突いていたが、実際、そのアグレッシブかつ効果的な動きがモラタのゴールにつながった。フットボールにおいてゴールライン近くまで進行するアクションは、相手のDFラインを後退させて混乱を引き起こし、それによりマークのズレなどが生じる。それこそがスペインの得点場面で起こっていたことだった。

前半の日本からはほとんどニュースが届かず。ただ彼らはスペインのビルドアップでミスを誘い、ゴールを狙っていた。これは森保の見事なプランである。彼は守備ブロックこそ低く設定しながらも、スペインのビルドアップでは前からプレスを仕掛けて圧迫しろと命じていた。スペインがリスクを冒してGKウナイ・シモンからパスをつないでいくことを理解していたためである。日本は後ろを向いてボールを受け取ようとするセルヒオ・ブスケツ、圧が加えられている状況でのボール処理を苦手とするシモンに全力で迫って、そこから活路を見出そうとしていた。とはいえ、日本のプレーは新たな逆転劇を予感させるほどでもなかった。前半は対戦相手にほぼ脅かされることのなかったスペインの“正しくも不十分な”パフォーマンスが何より強調されている。

■堂安律と三笘薫の投入

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ハーフタイム後、日本が堂安律と三笘薫を入れたことで、試合の流れは一気に変わった。彼らは日本のベストプレーヤー2人だ。ミスを恐れることなく、あらゆるアクションで生粋のファイターであることを感じさせてくれる。どちらもレギュラーにふさわしく、森保が起用するタイミングはズレているように感じるが、途中出場でも価値があることは間違いない。

堂安と三笘がハンドルを握った日本はすべてが大胆になり、スペインを包囲して屈服させた。まず48分、7人で仕掛けたプレスから堂安律が同点弾を記録すると、51分にはロングフィードを起点としたセカンドボールでマークが甘くなったところを突いて田中碧が逆転弾を決めている。この逆転劇はフットボール的というよりも、情熱的な攻撃から実現されたもの。要は堂安&三笘が先導した、「気持ち」による勢いである。

森保はリードを得た後、再び後方でブロックを形成させている。日本の5バックはピッチの横幅を覆い、中盤の選手たちは横にも背後にもスペースを与えず、また途中出場の浅野拓磨はサイドからもう一方のサイドまで駆け抜けてスペインのパスコースを狭めた。片やルイス・エンリケは、日本の堂安と三笘のようにスペインで最も火がついていたモラタとガビをピッチから下げている。それ以降に日本が感じた恐怖は、終盤のダニ・オルモの決定機のみにとどまり、そこではGK権田修一が頼もしい姿を見せた。

■覆し続ける「日本評」

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森保は自チームの守りについて大きな手応えを感じているに違いない。スペイン戦でもドイツ戦でも、日本のゲームプランのベースは同じだった。それは、ポゼッションを忘れて自陣に引いてタイミングを待ち、守備から攻撃のトランジションの爆発力、前線の大胆不敵な男たちに賭けるというもの。彼らは“アンチフットボール”と形容されるリスクすら孕んだそのプランでポジティブな結果を収め、欧州における“思いやり”ある、表面的な日本評を覆そうとしている。

日本は欧州で「足元の技術を中心とした才能が揃っている代表チーム」であり、特定のコンテクストでは危険な存在になり得ると紹介されてきた。一方で、そのポテンシャルを遺憾なく発揮するためには、競争心が欠けているとも――。しかし今回のワールドカップで、彼らの受け止められ方は明確に変化している。少なくとも、過小評価する対戦相手はもういないだろう。

ベスト16のクロアチア戦、日本はコスタリカ戦のような誤った一歩を踏んではならない。森保はおそらく、ここまでの成功体験から1-5-4-1を再び使用し、後方での守備ブロック形成及び、リスタート時のハイプレスからゴールを狙うだろう。そのプランは、クロアチアとの相性も悪くないと言えば、まあ悪くない。彼らもまたボールを欲するチームなのだから。ただしクロアチアは前傾姿勢になり過ぎるドイツやスペインよりは用心深い。さらに先のことを言えば、ベスト8で対戦する可能性があるブラジルも、唯一無二の攻撃的なポテンシャルがありながら、その戦い方はリアリスティックで、手堅い。

つまるところ、日本がこれから臨む挑戦は、ここまでとまったく同じものにはならない。だが森保には一つのゲームプランがあり、そこから大きく離れることがなければうまくやれるはずだ。どれだけ素晴らしい、称賛すべき“自分らしさ”があろうとも、結局、最後に正しさを証明するのは結果である。日本はもうすでに、他国にポテンシャルを褒められるのではなく、手にしている結果から本当の危機感を覚えさせるチームだ。何か足りないものがあるとすれば、堂安か三笘を初っ端から起用することか……いや、ここまでの結果からすれば、もしかしたらその指摘も正しくはないのかもしれない。

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