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【戦術分析】「プランで上回ったのはシメオネ。抗ったのはペップ」2人の戦術家によるCL最高峰の戦い

チャンピオンズリーグ(CL)準々決勝ファーストレグ、マンチェスター・シティ対アトレティコ・マドリーの一戦は、ホームのマンチェスター・Cが1-0で制した。

試合は戦前の予想通りマンチェスター・Cがボールを支配すると、アトレティコは前半途中からシステムを1-5-5-0へと変更。ストライカーをも2列目へと下げ、徹底的に守備を固めていった。それでも70分、ケヴィン・デ・ブライネが均衡を破り、見事な決勝点を手にしている。

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今回のアトレティコが採用した1-5-5-0の守備的な戦い方は、あらゆるメディアで大きな話題となった。しかし、スペイン『as』で試合分析を担当するハビ・シジェス氏は「狙い通りの試合にしていたのはアトレティコの方」と指摘する。今回は、ジョゼップ・グアルディオラとディエゴ・シメオネという世界屈指の指揮官による戦いを分析する。

文=ハビ・シジェス/スペイン紙『as』試合分析担当

翻訳=江間慎一郎

両極のスタイルのぶつかり合い

勝利は邪悪な効果だってもたらす。勝つことはすべてを単純化し、敗者の方にもあった正しさを抹消してしまう。これから数日間は、マンチェスター・シティの勝利によってジョゼップ・グアルディオラが持て囃され、あまりにも守備的だったとディエゴ・シメオネが批判されるのだろう。そんなのは、まったく正しいことではない。シティがアトレティコを1-0で下したこの試合で、シメオネのプランはグアルディオラのものを上回っていた。だがシティは、フィル・フォーデンとケヴィン・デ・ブライネの純粋な才能が、アトレティコの素晴らしき堅守を穿ったのである。

グアルディオラとシメオネ、両極にあるスタイルのぶつかり合いは、今回の一戦でまた新たなエピソードを生み出した。ペップは試合前、アトレティコが巷で言われているほど守備的ではないと称揚していたが、そんな発言があってもシメオネは用意していたプランを1ミリも変更しなかった。アルゼンチン人指揮官はまず1-5-3-2を使用して、その守備的なアイデンティティーを発揮。アトレティコは自陣に閉じこもって、シティが利用し得るあらゆるスペースを埋め尽くそうと試みた。

対してグアルディオラはナタン・アケを左アイドバック、フォーデンを控えとして皆を驚かせている。アケはその守備的な特徴から登用されたと考えられ(マルコス・ジョレンテに手を焼いていたが)、フォーデンは途中出場でも、いや、途中出場だからこそ効果を発揮できたためだった。

狙い通り進めたシメオネ

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立ち上がり、シティはうまく試合に入り込んでいる。1-4-3-3のシステムで、リヤド・マフレズとラヒーム・スターリングがワイドに開き、イルカイ・ギュンドアンとベルナルド・シウバがアトレティコの中盤の背後を狙う。一番動き回っていたのはデ・ブライネで、彼の中央右寄りでのプレーはアトレティコにやりづらさを感じさせていた。ジョアン・カンセロがフリーで右サイドをオーバーラップするとき、アトレティコの左サイド(ロディ)は調子を狂わされ、ヘイニウドの先を読む守備で苦境を切り抜けるのが精一杯。オーバーラップするカンセロはデ・ブライネと連係して、マフレズに注意を払わなければならないロディを混乱させながらサイドで深みを取っていた。この状況をまずいと思ったシメオネはシステムを1-5-3-2から、ジョアン・フェリックスを左サイドに置く1-5-5-0に変更。カンセロはJ・フェリックスに対応させて、守備的な戦術はこれ以上ないほどさらに守備的となった。

アトレティコのシステム変更は、シティが唯一確保していた攻撃のルートを封じることに成功している。シメオネの決断には正当性があった。グアルディオラは試合後、「先史時代も、現在も、ここから10万年間も、5-5ブロックへの攻撃は非常に難しい。スペースがないんだよ」と語っていたが、実際的にこうした守備を崩し切るのは、どんなチーム(まずシティですらそうなのだから)にとっても難しい。5選手を2ラインに並べて守備ブロックをつくれば、中央のスペースをまったく空けることがなくなるどころか、サイドから逆のサイドにスライドする必要もなくなる。相手にしてみれば深みを取ってどうにかしたいところだが、DFラインとGKの距離感が近いためにそれもかなわない。アトレティコの狙いはシティを消耗させ、観客を焦らせることにあった。守って、守って、守って、シティと客席の動揺を誘い、何度か仕掛けられる速攻から点を決められた御の字……この目論見は、ほぼ完璧だったと言えるだろう。

とはいえ、グアルディオラが無理して攻撃をさせなかったのも、また確かだ。圧倒的なポゼッション率を記録していたシティではあったが、リスクを冒すことはほとんどなく、ボールを持っていない選手の動きも少なかった。ペップはアトレティコが仕掛ける速攻で危険にさらされるのを警戒していたようだ。ただ、実際にアトレティコがボールを奪ったとして、あれだけ後方に下がっていれば、トランジションで相手を危険にさらすのは難しくもある。彼らがシティを脅かしたのは後半立ち上がり、M・ジョレンテがアケの背後のスペースを突いていたときだけだった。だがアトレティコにとっては0-0でも良い結果であることを忘れてはいけない。シメオネの目標は、自分が両手を上げて煽れば世界屈指の熱狂が生まれる、メトロポリターノに生きて帰ることだったのだから。狙い通り試合を進めていたのは、シメオネの方だった。

試合を決めたフォーデンとアトレティコの徹底

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しかしながら後半の途中、アンヘル・コレア、マルコス・クーニャ、ロドリゴ・デ・ポールを投入したシメオネは、システムを1-5-4-1に変したが、そこからディレクションが狂ってしまう。そしてシティは、フォーデンが残る問題を片付けている。この21歳の攻撃的MFは、あらゆる状況で輝ける並外れた選手だ。限られたスペースでボールを受けて反転することができ、サイドに流れればドリブル突破を狙え、チームの行き詰まった攻撃を活性化させられる。シティは彼がいたからこそ、アトレティコの錠前を破壊できたのだった。

あのゴールは、本当に象徴的な場面だった。フォーデンはジェフリー・コンドグビアの左側にあるスペースでロドリに縦パスを要求。ボールを受けるとすぐ反転して、DFラインを抜け出そうとするデ・ブライネとタイミングを合わせながらドリブル。アトレティコはこの試合におけるチーム最高の選手、ヘイニウドがフォーデンに襲い掛かろうとしたが、実行に移したときには時すでに遅し。スルーパスは、すでに放たれていた。パスに反応したデ・ブライネはフェリペを簡単にかわすと、右足のグラウンダーシュートでGKヤン・オブラクも破っている。このゴールの仕掛け人は、間違いなくフォーデンだった(彼を途中出場させたグアルディオラも当てはまるが)。どんなに難しい場所からも活路を見出す、類い稀な才能の持ち主。シティはその後、デ・ブライネが2点目を決めるチャンスを迎えたが、それもフォーデンのサイドからの仕掛けがきっかけだった。

こうしてビハインドを負ったアトレティコだったものの、シメオネは戦術を変えようとしなかった。自分のゲームプランが機能していると考えていたためである。その考えは、正しい。シティはボールこそ支配していたが、狙い通りの試合にしていたのはアトレティコの方だった。シティによるアトレティコ陣地の植民地化は偽りだった。それこそシメオネが望んでいたことであり、チームは誇りを持って守備に取り組んでいた。今一度、アトレティコは自分たちが劣っていることを認め、そう認められることを武器にしたのである。

アトレティコはまたも抵抗軍となり、シティの攻勢に耐え続けた。その一方でグアルディオラも、シメオネの徹底してスペースを与えない守備に抵抗し続けていた。どちらも、それぞれの観点から、自分の方が勝者だったと感じることができる。そう、スコア上の支配者だけが絶対的に正しい世界なのであれば、フットボールに価値などはないのだ。

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