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これがネイマールの最後なのか?天国から地獄へ…「賛否両論」のスターが抱えた痛みと涙

■天国から地獄へ

ネイマールにとってすべてを変える夜、彼の「レガシー」を確固たるものとする夜になる――はずだった。

長い間彼は偉大なレジェンドたちと比較され続けてきた。だが、それと肩を並べることもなかった。「何かが足りない」批評家たちは言う。それが何なのか、誰もが知っている。なぜなら、その才能やゴールだけでなく、トロフィーで定義されるからだ。ブラジル人にとっては、それがワールドカップ。レジェンドたちは少なくとも1度そのトロフィーを手にしている。だが、ネイマールはまだそれに近づいてすらいない。

あの夜のあの瞬間、クロアチアDFの間を縫うように進み、ボールをネットに流し込んだ時、誰しもが「これを待っていた!」と思った。彼のキャリアを決定づける瞬間であり、“セレソン”が20年間遠ざかる金のトロフィーを手繰り寄せた瞬間だった。伝説であるペレの77ゴールに並び、それはネイマールがワールドカップで待ち続けてきた自分の「レガシー」を確固たるものとする瞬間だったのだ。

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だが、それはものの数分ですべてが狂ってしまった。レジェンドに限りなく近づいたネイマールが抑えきれない涙を流すほど、事態は急速に、それも残酷に進んでしまった。これほどまでに天国から地獄へと突き落とされることはあるのだろうか? ストーリーが激変する中で、彼の「レガシー」はどう定義することができるだろうか?

■痛み

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国民的英雄になってからクロアチアの偉大な勝利が確定するまで、時間にして約20分。このスポーツは、いったいどこまで残酷なのだろう。

クロアチアの勝利が確定した後、ネイマールの涙は止まることはなかった。しばらく立ち上がれず、少しして歩き出した。華麗なゴールを決めた時には歓喜の輪を作ったチームメイトたちも、この時ばかりは彼を慰めることはできなかった。

この痛みは、もちろんブラジル全国民が抱えている。しかし、彼だけが感じる痛みもある。レジェンドを追いかけているのは彼だ。毎日毎日、伝説と戦い続けているのだ。それだけに、今回の敗戦は新たな痛みを伴っている。

他のものは簡単に思い出せる。2014年ワールドカップでのケガ、2015年コパ・アメリカの出場停止。2018年ワールドカップの敗退、2019年コパ・アメリカの欠場……。

だが、今回の痛みは過去最大のものだろう。

伝説的な物語になることは決まっていた。闘病中のペレが見守る中で、彼と肩を並べた。今、ブラジル人で彼よりゴールを決めたものはいない。それは誰もが納得できるものだ。あのゴールは美しかった。

だがそのゴールは、眠れる獅子を呼び起こしてしまった。そして逆に、ブラジルの選手たちは眠りについてしまったかのようだった。追いつかれた彼らは襲いかかるクロアチアに恐怖を覚え、PK戦への道を譲り、最終的に屈している。

ネイマールはPKを蹴ることもなかった。この惨状はさらに心を痛めるものだ。ロドリゴとマルキーニョスが失敗する姿を見守ることしかできなかった。ブラジルを背負って立つこの男は、この夜を救うためには無力であると感じることしかできなかったのだ。

そしてこのPKの失敗1つひとつは、公平にせよ不公平にせよ、彼の脳裏に焼き付く事になる。彼の国際舞台における「レガシー」は複雑なものであり、本人曰く、それを修復するチャンスはもうあまりないのかもしれない。

彼は昨年、『DAZN』のドキュメンタリー番組で「(カタール・ワールドカップが)最後のワールドカップになると思う」と語った。「これ以上サッカーと向き合う心の強さがあるかわからないから、最後だと考えている。だからこそ、小さい頃からの夢を実現するために、良いプレーをするために、母国を勝利に導くために、何でもする」と。

しかし、それは叶わなかった。その代わりに、母国でトロフィーを手にすることができなかった2014年と同じように、多くの涙が流れている。そして試合後、彼はこう語った。

「代表チームへの道を閉ざすつもりはないが、100%戻ることを保証するわけでもない。何が自分にとって、そして代表チームにとって正しいことなのか、もう少し考える必要がある」

■最後の大会か、それとも…

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「彼はレジェンドなのか?」

サッカー界における彼の地位はサポーターや批評家が判断する。ゴール、美技、遊び心、タイトル、ダイブ、シミュレーション、PSGへの移籍、涙、そのすべてが複雑である。現代のトップスターで、ネイマールほど意見の分かれる選手もいないだろう。それもすぐに変わることはない。

ワールドカップのトロフィーを手にすれば、それを否定することはできなかったはずだ。今回は彼にとって最高のチャンスだったかもしれない。この“セレソン”は、かつてないほど全ポジションに才能が溢れていた。しかし、サッカーはそう簡単ではない。どんな巨人でも倒れることはある。

結局、彼の涙は最後まで止まらなかった。駆け寄って慰めてくれたイヴァン・ペリシッチの息子にハグした際は気丈に振る舞っていたが、その後でもこみ上げるものを抑えられず、暗い地下のトンネルへと消えていった。

果たして、ネイマールはもう1度挑戦する力を、意欲を、持つことができるのだろうか? ブラジルだけでなく世界中の国々が彼にそれを求めるのは、公平なことなのだろうか?

最後の一歩、物語を変える最後のチャンスに彼が再び立ち上がれるかどうか、我々は見届けたい。だがもしこれが最後なのだとしたら、なんと悲しい別れなのだろうか。

取材・文=ライアン・トルミッチ

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