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「なぜレアル・マドリーが憎いのか?」バルセロナ番記者が恐れるマドリディスモの増殖とうずく古傷【CL決勝特別コラム】

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バルセロナ記者が綴るレアル・マドリー

2021-22シーズン、レアル・マドリーはラ・リーガ優勝を果たしただけでなく、チャンピオンズリーグではここ9年で5回目の決勝進出。28日のファイナルでは、リヴァプールと激突する。

しかし、今季のCLでの歩みは決して順調ではなかった。特に決勝トーナメントでは、パリ・サンジェルマン(PSG)、チェルシー、マンチェスター・シティとすべてのラウンドで1敗しており、内容で上回った試合は多くなかった。だがそれでも、最後に歓声を上げているのはレアル・マドリーであり、奇跡的な逆転に次ぐ逆転劇で、ビッグイアーまであと一歩のところまで迫っている。

今季のレアル・マドリーについて、90分からの2ゴールと延長戦でマンチェスター・シティを打ち破った準決勝の後、スペイン大手紙『マルカ』は一面で「神よ。降臨なさって、どうか説明してくれませんか」との見出しを打った。あらゆるメディア・解説者、そしてファンたちはみな口を揃える。この逆転劇は「説明できない」と。

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そんな「説明できない」逆転劇の前に何度も涙をのみ、最もそれを羨んできたクラブの1つがバルセロナだ。そしてバルセロナ出身であり、カルチャーマガジン『パネンカ』でバルセロナを担当するルジェー・シュリアク氏は、何度も何度も「腹部に強烈なパンチを喰らってきた」という。そんな彼が、レアル・マドリーに対する“悲痛な思い”を綴る。

文=ルジェー・シュリアク/Roger Xuriach(スペイン『パネンカ』誌)

翻訳=江間慎一郎

「アシ! アシ! アシ・ガナ・エル・マドリー!」

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1979年のモリノン。このスタジアムの主であるスポルティング・ヒホンは、ラ・リーガ優勝を争うライバル、レアル・マドリーを迎えて熾烈な戦いを演じていた。優勝の行方を決定づける試合は激しさを極め、マドリーのイシドロ・サン・ホセ、スポルティングのフェレーロがついには足だけでなく手も出してしまった。

双方ともに暴力行為を働いたのは明らかで、どちらにもレッドカードが提示されて然るべき状況。しかしながら、審判は何を思ったのかフェレーロだけを退場とした。ガスが充満していくような息苦しい試合展開の中、この判定はモリノンに集った人々の不満に火をつけるマッチとなり、大爆発を引き起こしている。

そのときのことだった。スペインでは有名過ぎるあのチャントが誰かの口からついて出て、史上初めてスタジアムに響き渡ることになったのは。そう、「アシ! アシ! アシ・ガナ・エル・マドリー(マドリーはこうやって勝つ)!」である。

怒りの感情から突発的に生まれたこのチャントは、すぐさまスペイン国中で歌われることに。最初はもちろん、マドリー贔屓の判定があって、被害を受けたと感じた他クラブの人々が声を張り上げていた。だがしかし、マドリーの人々はそんな憎悪の感情すらいとも簡単に飲み込み、消化して、自分たちのエネルギーにしてしまう。そうして白い人々は、自分たちが劇的な勝利をつかんだとき、人差し指を立てながら誇らしげにこう歌うようになったのだ。「アシ! アシ! アシ・ガナ・エル・マドリー!」、と。

「なんでそうなるんだ!?」、スポルティングを中心とした他クラブの人々がそんな突っ込みを入れてもお構いなし。「マドリーはこうやって勝つ」のである。

「これがマドリーだ」

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さて、もしこれを読んでいるあなたが私と同じくアンチ・マドリディスタ(反マドリーファン)ならば、こう警告しておく必要がある。この文章を読み進めれば「腹部に強烈なパンチを喰らうことになる」と。

マドリーファンにならないことを選択した愛おしい人々よ、残念なことに、彼らはここ12年で10回もチャンピオンズリーグ準決勝に到達してしまったのだ。もし、この2022年に成人(18歳)になった君ならば、物心がついて間もない6歳から、春になればいつも同じ景色を見てきたことだろう。暖かな陽気、咲き乱れる花、活動し始める様々な命、欧州最高峰の舞台でまた頂点に立とうとしているレアル・マドリー……。実際、彼らは5回も頂点に立っている――皆、ついてきているか? 私の腹部はえぐられている。

ギリシア哲学における経験主義のように、フットボールの世界で“マドリーがチャンピオンズ決勝で負けない”のは、すでに分かりきっていることだ。彼らはここから数時間後に通算14回目の欧州王者に輝いて、マルセロがビッグイヤーを掲げていることだろう。私が生きてきた40年近い歳月の中で、彼らが負けた姿など一度も見たことがない。反対のことが、どうやって起こり得るというのか?

マドリーはチャンピオンズが創設されたときから大会の王であり、そこに異論を挟む余地はない。そして今世紀、もっと言えば史上最高のバルセロナが現れた後に彼らが成し遂げてきたことは、まさにずば抜けている。私たちが“リオネル・メッシの時代”と呼称する(したい)今世紀初頭のフットボール史に、マドリーはずいぶんとケチをつけてきた。メッシがここ10年でたった1度しかチャンピオンズで優勝していないなど、あまりにも屈辱的だ。しかもメッシがいなくなったバルセロナとは違い、マドリーは2014~18年の4回のチャンピオンズ優勝で中心的役割を果たしたクリスティアーノ・ロナウド、セルヒオ・ラモスが退団しても、再び優勝に近づいているのだからやり切れない。今季ノックアウトラウンドはスコア以外の数字では基本的に負けていて、逆転劇の説明がつかないのだから、なおさらだ。

「マドリーなんて運だけだろ」、ただマドリーを批判したい人々は彼らが逆転劇を繰り返す理由についてそううそぶく。「そこにあるのは歴史だよ」、不可侵な出来事や神秘性を愛する人々はそうロマンを口にする。「レジリエンス(困難な状況にも適応して生き延びる力)さ」、心理的アプローチでその秘密を解明しようとする人々は得意げな顔で語る。

ではマドリディスタたちにとっての正解は、一体何なのだろうか。彼らはいつも一番説明になっていない言葉を使う。すなわち、「これがマドリーだ」と。クラブの『ツイッター』公式アカウントでさえ、チェルシー戦の逆転勝利では「私たちはレアル・マドリー・クルブ・デ・フトボルです」とつぶやいた。彼らマドリーは世界で唯一、形容も何も必要としていないフットボールクラブだ。

恐るべきマドリディスモの増殖

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今季のマドリーは、チームとしての特殊性を最も反映していたように思える。2021-21シーズンのマドリーは、消耗の激しい第二次政権を送ったジネディーヌ・ジダンが去り、再びカルロ・アンチェロッティがチームの手綱を握るところから始まった。監督人事についてクラブが頭を悩ませた様子はなく、カルレットがエヴァートンでどうだったかは関係なかったようだ。ジダンのほかにはラモスとラファエル・ヴァランがクラブを去ったものの、エデル・ミリトンの覚醒、そしてダヴィド・アラバの加入がマドリディスタたちの涙を拭った。アラバはセンターバックの穴を埋めただけでなく、キャプテンマークを巻かないキャプテンとしてもチームを引っ張り、ラモス退団で皆がその手に握っていた鎮痛剤を捨てさせている。

もっと大変なことが起きたのは、攻撃面である。カリム・ベンゼマはキャリア最高のシーズンを送り、クリスティアーノ・ロナウド、エデン・アザール、ガレス・ベイルの“補完材料”というレッテルを捨て去った。34歳の彼に加えて、36歳のルカ・モドリッチも今が全盛期のようだ。選手寿命が飛躍的に伸びている昨今、ベンゼマとモドリッチはトップレベルのフィジカルを保つだけでなく、経験と精神力とマドリディスモ(レアル・マドリー主義)を異常なまでに培っている。それはもう、奇跡的な逆転劇を平然と信じてしまえるほどに。ベンゼマの(PSG戦で)ジャンルイジ・ドンナルンマのミスを誘発したハイプレスではその走り込む姿に不気味さすら感じさせたし、モドリッチは切迫した状況でも針の穴を通す精度のアウトサイドパスを楽しそうに出してしまう。もちろん彼らのメンタリティーはヴィニシウス・ジュニオール、ロドリゴ、フェデ・バルベルデ、エドゥアルド・カマヴィンガら若手たちにも影響を与えており……、今現在、恐るべきマドリディスモの増殖が起こっている。

今、マドリーほどに「不可能が普通に可能」と信じているチームは存在しない。PSG戦、チェルシー戦を経験してもなお、シティ戦で後半終了前にベルナベウを後にしようとしたマドリディスタたちがいたが、彼らは歴史的瞬間に立ち会うことができないという罰を受けることになった。その点ではバルセロナやアトレティコ・デ・マドリーの信奉者の方が、よく分かっているかもしれない。「彼らを虫の息にして、そこで笑みを浮かべてしまえば、逆に殺されることになるのだ」と。今のマドリーが相手であれば、逆に殺される確率は100%……私たちが過去につけられた古傷が、たまらなくうずいている。

今回のチャンピオンズ決勝で、マドリーと相対するのはユルゲン・クロップのリヴァプール。強烈なエモーションを約束してくれる対戦だ。“レッズ”にとってはここ5年間で3回目の決勝となり、すでにマドリー相手に敗戦する屈辱は知っている。とにかくリヴァプールは、マドリーをラスト1秒のところまで追い詰めたとしても笑みを浮かべてはいけない。口元を少しでも緩めれば結末はいつも同じ。「アシ! アシ! アシ・ガナ・エル・マドリー!」となる。「なんでそうなるんだ!?」と言っても意味はない。そこに説明は必要ない。マドリディスタが求めるのは説明でも、どちらのプレーが勝利に値したかでもなく、勝利そのものなのだから。

著者:ルジェー・シュリアク(Roger Xuriach)

1983年生まれ、バルセロナ出身。スペインのスポーツ新聞『スポルト』、サッカーマガジン『ドン・バロン』で記者としての活動をスタートし、生まれたときからソシオ(クラブ会員)を務めるクラブを追い続けた。今は成熟を果たし、『パネンカ』を中心に政治とスポーツを絡めた記事を執筆。禁じられた情熱であるテレビゲームの記事を書きながら、スパイクを脱ぐことを夢見ている(禁じているのは、もちろん妻である)。

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