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“神秘的な”レアル・マドリーを支えたベンゼマの「天才性」…チェルシーを支配した一戦を紐解く

チャンピオンズリーグ(CL)準々決勝ファーストレグ、チェルシー対レアル・マドリーは、アウェイのレアル・マドリーが3-1で勝利を収めた。

現欧州王者のホームに乗り込んだレアル・マドリーは、21分、24分と立て続けにカリム・ベンゼマが2ゴール。1点を返されたものの、後半開始早々にミスを見逃さなかったベンゼマが、CL2試合連続ハットトリックを達成。そのまま守りきり、3-1で準決勝進出へ大きく前進した。

以下に続く

スペイン『as』試合分析担当のハビ・シジェス氏は、レアル・マドリーについて「CLとの関係性は一度科学の研究対象となるべき」とし、「レアル・マドリーという名はどんな相手であっても縮こまらせてしまう」と指摘した。では、レアル・マドリーの何がチェルシーを「縮こまらせた」のだろうか?

文=ハビ・シジェス/スペイン紙『as』試合分析担当

翻訳=江間慎一郎

魔法の夜

レアル・マドリーとチャンピオンズの関係はあまりに特異なものであり、一度科学の研究対象となるべきだ。フットボールというスポーツで、これほど互いが強く引かれ合う関係性は、ほかに存在しない。マドリーは欧州カップ戦で魔法の夜を数えきれないほど過ごしてきたが、今回のチェルシー戦もそのコレクションの一つにしている。

カルロ・アンチェロッティがトーマス・トゥヘルとの駆け引きに勝利し、カセミロが今一度チームを一枚岩とし、トニ・クロース&ルカ・モドリッチがゲームを管理し、フェデ・バルベルデが決定的な役割を果たし、ヴィニシウス・ジュニオールが最高のバージョンを取り戻し、カリム・ベンゼマがカリム・ベンゼマだった。現在、ベンゼマと同じカテゴリーにいる選手、彼ほど自チームに影響を与えられる選手は存在しない。

レアル・マドリーが上回った理由

Valverde real madrid(C)Getty Images

マドリーはスタメンを組んだ段階から試合を優位に進めていた。0-4の惨敗を喫した先のクラシコでは、そのゲームプランに批判が集中したアンチェロッティだが、今回はバルベルデを先発させることでトゥヘルを上回っている。ウルグアイ人MFは3-2で勝利したスペイン・スーパーカップ準決勝のバルセロナ戦のように、マドリーにとって大きなプラス要素だった。

激しいアップダウンを誰より繰り返せるバルベルデは、マドリーがボールを保持しているときには4人目のMFとしてチェルシーの高めに設定されたDFラインに襲いかかり、チェルシーがボールを保持しているときには右サイドバックのように振る舞った。またマドリーのトランジションでは、ドリブル及びマークを外す動きで、セサル・アスピリクエタの背後を突いている。その愛称を「パハリート(小鳥)」から「アルコン(ファルコン)」に進化させたウルグアイ人MFは、トゥヘルがなぜか左で起用したアスピリクエタよりずっと速く、ずっと彼の動きに蓋をしていた。攻撃時に右ウィングか右サイドハーフ、守備時に右サイドバックとなるバルベルデがいることで、マドリーは12人でプレーしていたも同然だったのだ。

この夜のマドリーは、ボールを持っても確実なチームだった。アンチェロッティはチェルシーの仕掛けるプレスにうまく対応し、ベンゼマとヴィニシウスが彼らの圧迫から逃れてスペースに走れるよう仕向けている。マドリーは左サイドで、クロースを通じて攻撃を構築。ドイツ人MFはチェルシーのプレスに重大な欠陥があったためにほとんどフリーとなっていたが、トゥヘルは何度も同サイドから攻め入られていたにもかかわず、結局は修正を施すことがなかった。

エンゴロ・カンテはクロースがパスを受けることを常に許容していたが、そんな彼もチェルシーの戦術ミスの被害者である。というのもメイソン・マウント、クリスチャン・プリシッチ、カイ・ハヴァーツは、ミリトン、ダヴィド・アラバ、ダニ・カルバハル&フェルラン・メンディの両サイドバックと、マドリーの最終ラインを追い回すことにこだわり過ぎていた。このためにマドリーは中盤の4選手(カセミロ、バルベルデ、モドリッチ、クロース)を集めることが可能となり、最終的に勝負を左右することになる数的優位性を享受している。

チームの操縦桿を握ったクロースは、ベンゼマ&ヴィニシウスとプレーを分け合った。ベンゼマはチアゴ・シウバかアントニオ・リュディガーを持ち場から離れさせる意図もあって中盤まで下がり、ゲームメイクに関与。一方ヴィニシウスは、アンドレアス・クリステンセンを相手にやりたい放題だった。サポートのために下がってきたと思えば、そのまま縦に突破してデンマーク人DFを置き去りに。来季バルセロナに加入するクリステンセンは効果的な守備をまったく見せられず、後方に走れないだけでなく、相手に先んじてボールをカットすることもできなかった。トゥヘルの3バックシステムはマドリーにとって優位に働いていたが、修正が入った後半、ヴィニシウスはリース・ジェイムズとのスピード勝負を強いられて輝きを失うことになる。

ベンゼマの天才性と「神秘的な」レアル・マドリー

benzema chelsea real madrid(C)Getty Images

マドリーの集団プレーの素晴らしさは、ベンゼマの天才性に支えられていた。PSG戦で歴史的なハットトリックを達成したばかりのカリムだったが、それだけで満足してはいなかった。ヘディングで決めた2ゴールはもちろんのこと、その卓越した技術は美術館で飾られるべき代物だ。彼はペナルティーエリア内だけでなく、エリア外も支配していた。多くの対戦相手はベンゼマにミスリードへと誘われる。チェルシーの両CBのように、ふらっとどこかに行ってしまう彼に付いていけば、マドリーのほかの選手が容赦なく空いたスペースに入り込んでくる。チェルシーでは、ベンゼマほどではないにしても、ハヴァーツにそうした芸当が可能だ。そう、ハヴァーツはリース・ジェイムズとともに、この夜のチェルシーを叩き起こした選手だった。

メンディのヘマを頂点に後衛が目も当てられなかったチェルシーだが、攻撃については目を見張るものがあった。ベルナベウでの逆転を夢見られるほどに。リース・ジェイムズがヴィニシウスのカバー能力の欠如に付け入り、ハヴァーツがライン間での創造的プレーとフィニッシュを引き受けたチェルシーは、後半ほぼすべての時間帯でマドリーを押し込んだ。4バックのシステムも、マテオ・コバチッチとハキム・ツィエクに賭けたのも功を奏して、マドリーの中盤の背後に何度もボールを送り(カセミロの守備の読みは素晴らしかった)、サイドからも攻撃を仕掛けていった。

対して、すでに自分たちの仕事を終えていたマドリーは、カセミロを3人目のセンターバックとして凌ぎ切ることを目指した。ボールを持つことができず、後方に引き過ぎてはいたが、それでもペナルティーエリア内での良質な守備、GKティボー・クルトワの確実さ、ロメル・ルカクの頼りなさ(トゥヘルがなぜレギュラーで使わないのかを存分に示していた)のおかげで、自分たちにふさわしい3-1というスコアを、最後まで維持している。

この夜のマドリーは両ペナルティーエリア内だけでなく、ゲーム自体も支配していた。最初はマドリーらしい天才的閃き、次に守備という労働によって。チャンピオンズでの彼らは神秘の存在であり、レアル・マドリーという名はどんな相手であっても縮こまらせてしまう。現欧州王者チェルシーはベルナベウでのセカンドレグで、奇跡や運に頼らなくてはならない。が、それらは間違いなく、欧州を13回制覇したマドリーの領分である……。さて、あまりに月並みな言葉での締めではあるが、「どうなるか見てみよう」か。

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