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「優れた方が勝つのではない。レアル・マドリーが勝つのだ」…サッカーを「根底から揺るがす」優勝劇を西紙分析担当が紐解く

2021-22シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)決勝戦。リヴァプールとレアル・マドリーによる欧州サッカー最高の一戦は、1-0でレアル・マドリーが制し、史上最多14度目の欧州制覇を達成した。

これまで決勝トーナメントではいずれも1勝1敗と苦しみながら勝ち上がってきたレアル・マドリーだが、決勝戦も例外なく、リヴァプールにペースを握られる時間が続く。結局シュート数は「4:24」であり、攻撃面のスタッツはほぼリヴァプールが上回った。それでも、守護神ティボー・クルトワのビッグセーブと59分のヴィニシウス・ジュニオールのゴールにより、ビッグイアーを獲得している。

スペイン大手紙『as』で試合分析を担当するハビ・シジェス氏は、今回のレアル・マドリーの優勝を「フットボールを根底から揺るがす出来事」と断言する。その理由は一体なんなのだろうか? リヴァプールとの決勝戦、そしてレアル・マドリーの強さを紐解く。

以下に続く

文=ハビ・シジェス/スペイン紙『as』試合分析担当

翻訳=江間慎一郎

優れたほうが勝つのではなく…

courtois(C)Getty Images

チャンピオンズカップ/リーグで長い歴史を築いてきたレアル・マドリーだが、今季ほど凄まじいシーズンはこれまで存在しなかった。この決勝でもマドリーは、相手を上回ることなく勝利している。冷静にデータ(リヴァプールのシュート本数は24本で、マドリーが4本)など振り返れば、ユルゲン・クロップ率いるチームが絶対に勝つべき一戦だっただろう。だが、そんなことマドリーには関係がないのだ。彼らが大会を通して持ち続けた自信、精神力、魂は、あらゆるフットボールの上を行く。優れた方が勝つのではなく、マドリーが勝つのである。

試合のシナリオに驚きは何もなく、リヴァプールが主導権を握ってマドリーが彼らを待ち受けるという予想できた展開に。リヴァプールは得意のハイプレスによって流れを引き寄せていた。ジョーダン・ヘンダーソンとチアゴ・アルカンタラがマドリーの両CBまたはティボー・クルトワを追いかけ、ファビーニョが中央でフリーになる選手に付き、イブラヒマ・コナテ&フィルジル・ファン・ダイクも中盤まで上がってくる。マドリーはこのプレスを回避すべく、トレント・アレクサンダー=アーノルド&アンドリュー・ロバートソンの裏を狙うヴィニシウス・ジュニオール&フェデ・バルベルデ目掛けてロングボールを出して、うまくいけばゴール前まで近づくことができた。が、それでもリヴァプールの方がゲームを巧みに読んでいたのは間違いなく、ポゼッションを封じられたカルロ・アンチェロッティのチームは確かに苦しんでいた。

リヴァプールはチアゴがオーケストラを指揮し、ヘンダーソンがダイナミズムを与え、A=アーノルドがトニ・クロース&ヴィニシウスの間に位置することで試合のツボを押さえた。サイドに開くモハメド・サラーとルイス・ディアスへのサイドチェンジ含め、彼らは見事にボールを動かしている。だが今季、最後の最後まで死力を尽くしてきた影響はやはりあったようだ。決勝直前まで緊張感ある戦いを強いられてきた彼らのパフォーマンスは何か凝り固まっていて、プレーの選択と実行に難があったのは否めない。それでも執拗なサイドからの切り崩しや、サディオ・マネがライン間、カセミロの両脇、CB&SBの間を突くことで決定機は十分に迎えていたのだが、マドリーには奇跡的なセーブを連発するクルトワがいたのだった……。

リヴァプールに押されながらも無失点を維持し続けたマドリーは、ルカ・モドリッチ&クロースを通じて反撃に出た。ここ最近のチャンピオンズの歴史において、彼ら以上に重みのあるMFは存在しない。クロアチア&ドイツ人コンビは後方に下がってボールを受けてマドリーの攻撃を構築していったが、クロップのチームはトランジションで効果的なプレーができるほどフレッシュな状態ではなく、自陣に押し込まれることは不都合この上なかった。マドリーは最終的にオフサイドとなった前半最大の決定機もあり、全体的にリヴァプールに押し込まれていたとはいえ、自分たちがリードしてハーフタイムを迎えていても何らおかしくはなかった。

穴はあるし隙もあるが…

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後半も流れは変わらない。より創造的なプレーを見せたのはリヴァプールだったが、マドリーは彼らのプレスを回避する術をすでに心得ていた。モドリッチが相手選手たちを引きつけ、両サイドバックが中央に入り、ヴィニシウス&バルベルデがサイドに開いてリヴァプールの守備ブロックを横に広げる。決勝点も、このやり方で生まれた。

モドリッチが3選手を引きつけながら意表を突く左足の縦パスを中央に絞っていたダニ・カルバハルに出し、カルバハルからすぐそばのカセミロ、カセミロから大外のバルベルデにボールをつなげる。バルベルデがその縦への推進力を生かして右サイドを駆け抜け、彼の送ったグラウンダーのクロスをオフサイドポジションのベンゼマがスルーして、ファーのヴィニシウスが押し込んだ。このゴールで強調したいのは、モドリッチが自陣で相手を引きつけるなどリスクを負えば負うほどにその創造性を輝かせ、マドリーのチャンスにつなげるということ。そしてヴィニシウスが、A=アーノルドのいつも隙だらけの背後をしっかりと狙っていたということだ。

ビハインドを負ったクロップは、ミスが多かったルイス・ディアスをディオゴ・ジョタと交代させ、さらには中盤の人数を減らしてロベルト・フィルミーノを起用するなど何とか同点に追いつこうとする。だが、いずれにしてもマドリーは、今季を通して見せ続けてきた断固とした態度で守り切ってしまうのだ。

彼らが失点する可能性は十分に、これでもかというほどにあった。クロス攻撃ではいつもファーの守りが甘く、DFラインを高くしたときに送られたロングボールから、サラーの千載一遇の決定機を許す場面もあった。しかし、それでもマドリーは自分たちのミスに罰せられることがない。それは運でもあり、クルトワでもあり、他選手の実力でもあるのだろう。例えばカセミロのペナルティーエリア内でのカバーは10点満点で、カルバハルとミリトンの相手に張り付くような守備も素晴らしかった。終盤になるとリヴァプールはサラーのプレーが冴え渡っていたが、しかしフィニッシュの精度は1点を決めるほどではなかった。

サッカーを根底から揺るがす優勝

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ベンゼマがバロンドールを懸けてこの一戦に臨んでいたならば、手中に収めたも同然だ。が、彼以外にも金のボールを勝ち取るべき選手は存在している。そう、クルトワである。マドリーが彼なしで欧州王者になることは決してなかった。過去には、彼が本当にマドリーの正GKにふさわしい選手か論争が起こったが、何と無意味なことだったのだろう……。

マドリーの奇跡な軌跡の優勝は、フットボールを根底から揺るがす出来事だった。フットボールではより優れている方が成功をつかむ。1試合だけでなく1大会を通してならば、そうでなくてはならない。しかし今季のマドリーが例外をつくってしまった。彼らは1大会を通して相手より劣っていても、どんな形でも勝ってしまうのである。

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