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【戦術分析】「圧倒された60分間」からどう逆転したのか?レアル・マドリーを「不滅とする」CLの舞台

レアル・マドリー対パリ・サンジェルマン(PSG)、チャンピオンズリーグ(CL)ラウンド16最注目の大一番は、劇的な結末となった。

敵地でのファーストレグを0-1と落としていたレアル・マドリーは、本拠地サンチャゴ・ベルナベウでも再びキリアン・エンバペのゴールを許し、絶体絶命の状況に立たされる。しかし後半、大エース、カリム・ベンゼマが圧巻のハットトリックを達成。3-1で勝利、2試合合計3-2で逆転でのベスト8進出を決めた。

以下に続く

この大逆転劇を、スペイン大手紙『as』の試合分析を担当するハビ・シジェス氏はどう見たのだろうか? レアル・マドリーは開始から60分間はPSGに「好き勝手やられた」としつつも、カルロ・アンチェロッティ監督の交代策、そして「レアル・マドリーであること」が前提であったと指摘する。

文=ハビ・シジェス/スペイン紙『as』試合分析担当

翻訳=江間慎一郎

「レアル・マドリー」という前提

レアル・マドリーは永久に不滅だ。この前提がなければ、PSG相手の逆転劇は理解しようがない。

欧州カップ戦を舞台とするマドリーには唯一無二のアイデンティティーがある。彼らはいかなる状況にも適応して、最後には自分たちの方が上であることを見せつけてしまうのだ。流行のオイルダラーを前にして古きフットボールが強さを誇示したわけだが、変わらないものだってあるということだろう。

「好き勝手やられた」60分間

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フットボリスティックな観点からすれば、マドリーは何度となく敗退に近づいていた。現実的にはPSGの方が上であり、マドリーは試合開始からの60分間を何とかして生き延びて、狂気的な残り30分間につなげたのだった。

カルロ・アンチェロッティはPSGとの1stレグ直後に取り入れることにしたハイプレスを、今回の一戦でも駆使しようと試みた。出場停止のカセミロに代わりフェデ・バルベルデが出場したことも好都合ではあったが、シーズン序盤に機能させることをあきらめたハイプレスに一朝一夕で効力を備えさせるのはやはり難しい。

マドリーが高い位置で形成したブロックは明らかに構造不足で、守備の穴がどうしても目立った。PSGは前からの圧力にも動じることなく、マルコ・ヴェッラッティがゲームをつくり、ダニーロとレアンドロ・パレデスが簡単かつ効果的なプレーを見せ、そこに下がってくるリオネル・メッシも加わった。そうしてマドリーの最初のプレスを攻略すれば、道は一気に広がる。トニ・クロースは結局アンカーには不向きで、その両脇をネイマールとメッシが突き(基本的にフリーでボールを受けられた)、そしてキリアン・エンバペが1stレグに続いてダニ・カルバハル&ミリトンの間を再三にわたって突破……。PSGは道に迷ったマドリーを完全に圧倒していた。

この60分間、マドリーは攻撃も機能していなかった。かろうじて良かったのはルカ・モドリッチの精力的なゲームメイク、カリム・ベンゼマのペナルティーエリア内での奮闘くらいのもので、サイド攻撃は完全に沈黙。左サイドのヴィニシウス・ジュニオールは突破力を欠いて(後に決定的な活躍を見せる)、右サイドはカルバハルが何の役にも立たず、マルコ・アセンシオが簡単なボールコントロールすらミスしていた。右サイドはマドリーの墓場となり、カルバハルのミスからネイマール(クロースは遠くにいた)、エンバペとボールをつながれて失点を許している。

PSGはまさに好き勝手やっていた。いつどんなときにも、このノックアウトラウンドの決着をつけられたはずだった。メッシとネイマールはライン間で“らしい”プレーを見せ続け、エンバペもそのドリブルとマークを外す動きでマドリー守備陣をかき回し続ける。その後に起こることなど、誰にも想像することはできなかった……。

勝って、勝って、また勝つ

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アンチェロッティがエドゥアルド・カマヴィンガとロドリゴを投入すると、マドリーは完全に変わった。両選手はこれまでと別次元のフィジカルをチームにもたらし、モドリッチをトップ下に押し上げて、一つのサイドを制圧できるようになった(その後に出場したルーカス・バスケスも一役買っていた)。マドリーの1点目の場面で、確かにジャンルイジ・ドンナルンマは軽率だったが、ベンゼマの信念の追い込みがなければミスは生まれなかった。マドリーの信念――不撓不屈のメンタリティーこそが、この逆転劇の狼煙を上げたのである。

1-1となってから、どこまでも優勢だったPSGは一気に劣勢となった。気づいてみれば彼らは、ひたすらに「逆転は可能」と信じるレアル・マドリーのテリトリー内にいたのだ。

PSGはリアクションを見せることなく、過去の彼らみたいに、ただただ縮こまっていく。マドリーはそんなPSG相手にハイプレスが機能し始めて、ほとんど望んでもいないのにベンゼマ、モドリッチ、バルベルデ、カマヴィンガの足元に勝手にボールがこぼれてくるような有様だった。

そうして突破力と冷静な判断を備えたヴィニシウス、いまだ若さあふれる肉体とそれに相反する究極の技術を併せ持ったモドリッチのお膳立てから、ベンゼマが繊細なボールタッチでゴールを奪っていって逆転を達成。PSGは前線3枚が後ろに下がらず、チームとしての形をなさなくなり、終了のホイッスルが吹かれる前にすでに試合から退場していた。

マドリーのようなチームは、後にも先にもマドリーしかいない。チャンピオンズは彼らの伝統を重んじ、彼らを不滅のものとする大会だ。すなわち、マドリーは勝って、勝って、また勝つのである。

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