■「不完全燃焼」だった初戦
悔しくなかったと言えば、嘘になるだろう。
AFC U23アジアカップの第1戦、先発していた山本理仁(シント=トロイデン)は、わずかな時間でピッチから退くことになった。CBの西尾隆矢が退場したため、代わりのCBを入れるために交代を余儀なくされたのだ。
交代ボードに自分の背番号が出た時には、「俺かぁ」と思ってしまったのも無理はない。
この指揮官の判断について、山本は理性で納得している。
「後ろは間違いなく高さも必要なので(CBを新たに投入して)固めないといけないし、(山田)楓喜は一発セットプレーがあるし、(細谷)真大も代えられない。(平河)悠も強度を出していて、(松木)玖生もジョエル(藤田譲瑠チマ)も強度が出る。そうなると、やっぱり勝っている状況もあって、僕を外すのが妥当なのかな、という。あとで考えて、そう思いました」
大岩監督からは謝られたと言い、「僕も本当にチームとしてパリに行くためにここに来ているので、飲み込まないといけないし、特に何か思っているわけじゃない」と言う。ただ、個人として「不完全燃焼の試合だった」のも間違いない。「20分しか出てないのでやれますよ。次っすね、僕は」
冗談のスパイスをまぶしながらのコメントに、確かな決意がこもっていた。
■「日本のキャプテン」を託されて
2024 Asian Football Confederation (AFC)そして迎えたUAEとの第2戦、山本は左腕に腕章を巻き、チームの先頭に立って入場してきた。大会を前に副主将に指名されていた山本は、先発から外れた盟友のMF藤田譲瑠チマ(シント=トロイデン)からキャプテンマークを預かる形になっていた。
「やっぱり恥ずかしいプレーはできない」
日本のキャプテンとして臨むパリ・オリンピックを懸けての公式戦は、やはり少し特別なものだったらしい。
「今日はロングボールが多くなるって予想されていましたし、やっぱりそこで『戦う』というところは自分の中で意識してました」
一般的に山本はファイタータイプのMFというより、エレガント系の選手と思われている。沈着冷静にボールをさばき、ゲームの流れを読んで組み立て、鋭いキックからのアシストを得意とする。そんなイメージだ。
実際、技巧派タイプには違いないのだが、強度を出すということに関しても、特にプロ入り後は意識して取り組んできた。球際でのタフネスは明らかに以前の彼ではないし、何より本人が「最低限」というワードで形容するチームのためのハードワークは、以前よりわかりやすく発揮されるようになっている。
この試合もそうだった。接触プレーから逃げることなく、「まずは入りのところでなめられないように一発ガツンと行くところを意識していた」と言うように自ら率先して体を張ってプレー。UAEに中盤の主導権を最後まで渡さなかった。
■クリティカルなアシストも……
2024 Asian Football Confederation (AFC)そして27分には先制点を見事にアシストしてみせた。CKがファーへと流れてきたところで、しっかりと「止めて・蹴る」の技術を発揮。DF木村誠二(鳥栖)のヘディングゴールへと繋げた。
「(CKの形は)デザインしたものではなかったですが、流れてきそうだったので、良いポジションは取れていた。自分の持ち味を出して、結果的に得点つながって良かったです」(山本)
結局、この1点が決勝点となり、日本はUAEに快勝。グループステージ突破を決めることとなった。
試合後、山本は第1戦で出場時間の短かった選手たちが意地を見せる高パフォーマンスで快勝を飾ったことについて、「みんなが気持ちを出せた試合だし、誰が入ってもやれるようにしてきた、積み上げたものを出せた」と素直に喜びを表した。
ただ、「個人」としては「まだまだ」と言う。
「(ミドルシュートを)打てた場面もありましたし、ワンタッチのところで『ズレたな』とか、細かいところですけど、僕の中でそういうところは納得していない」
ハードワークは当たり前。アシストは当然のプレー。それだけでは満足できないのが山本理仁だ。世代を代表する技巧派MFは、細部に強くこだわる。だからこそ、次の試合ではまた違った輝きを見せてくれる予感もする。
次の相手はアジアのライバル、韓国である。
「みんな気合いが入っていいんじゃないですか。わかりやすいし」
そう言ってニヤリと笑った職人の「足」に、日韓戦でも期待しておきたい。
【取材・文=川端暁彦】