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久保建英、ソシエダ「完全移籍」の“本当の意味”…育成愛する指揮官の下での起用法は?

「ビジネスチャンス」は副次的なもの

これこそ、三度目の正直である。久保建英がついにバスク州ギプスコア県都のサン・セバスティアンにやって来た。レアル・ソシエダが3度目の試みで、その望みを叶えたのだ。

レアル・マドリー加入シーズンにはマジョルカにレンタル移籍して、成功をつかんだ久保。ソシエダはその次のシーズンに彼の獲得を試みたが、そのときはビジャレアルに先んじられてしまった。ソシエダにとってそれは「ただ獲得候補の一人を獲得し損ねた」というわけではない。ジョキン・アペリバイが明らかにしていた通り、久保はその夏にソシエダからマドリーに出戻ったマルティン・ウーデゴールの後釜として、喉から手が出るほどほしい選手だったのだから。

ソシエダはその次の夏も久保を求めて彼の関係者とずいぶん交渉を進めたが、選手本人は本来戻るべきではない幸せだった場所、つまりマジョルカへ戻ることを選択した。そうして迎えた2022年の夏。三度目の、夏。交渉の近い場所にいるレアル・マドリーの人間はこう言った。「もしラ・レアルが本当に彼をほしいならば、今回は間違いなく連れて行けるだろう」。その言葉通り、久保は今度こそ青白のユニフォームをその身に纏うことになった。背番号は、「たまらない人にはたまらない」14番だ。

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ソシエダのスポーツディレクターを務めるロベルト・オラべにとって、久保は2人目のアジア人選手獲得になる。レアル・マドリーとラ・リーガ優勝争いを繰り広げて世界中にその名を知らしめた直後の2003年夏、オラべは韓国人FWイ・チョンスを獲得して皆を驚かせた。が、結局そのリスクある賭けは失敗に終わり(イ・チョンスは1ゴールも決めずソシエダを去った)、オラべは「マーケティングのためによく分からないアジアの選手を獲得した」という汚名とともに、一度職を追われている。

それから10年以上が経ち、再びクラブの強化責任者となったオラべは、再びアジアに向けた扉を開いた。だが今度は誰にとっても、信用も期待もできる補強である。久保の獲得がビジネスチャンスであることは、ソシエダ自体も隠す気はしない。けれども、それはあくまで副次的なもので、彼を引き入れた理由は純粋にスポーツ面だけにある。そのことを何よりも証明しているのは、アジア市場開拓に興味などなくても、気持ちが高まっている私やソシエダのサポーターだ。

起用法はいかに?

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久保は、選手としてのキャリアにおける理想的なタイミングでソシエダに加わった。彼の新たな監督イマノル・アルグアシルは、自分自身も選手として育ったソシエダの下部年代で指導者としてのキャリアも構築。選手の育成をとことん愛する人格者だ。選手たちに対して厳しい要求を課しながらも、愛情で包むことも忘れない。とりわけ難しい時期を過ごしている選手を、自己責任だからと放っておくようなことは絶対にしない。彼はそうやってウーデゴール、アレクサンデル・イサク、ミケル・オヤルサバル、ミケル・メリーノ、マルティン・スビメンディらを一流の選手まで磨き上げたのだ。温かいのはイマノルだけでなくサポーターも一緒で、久保はこれから家族ようなクラブの一員になるのである。

イマノルの使用フォーメーションは2つ。最も使っているのは1-4-3-3で、昨季終盤にチーム最大のスターであるオヤルサバルがシーズン絶望の重傷を負うと、中盤ダイヤモンドの1-4-4-2も使用するようになった。久保は入団会見で、自身のプレーポジションが右ウィングになると予想していたが、基本的にはそうだろう。オラべもイマノルも、サイドでの連係及び突破と、右から中央に切れ込む選手という前提で彼の獲得を決めたのだから。ただ攻撃的なフットボールを実践するソシエダで、久保がこれからインサイドハーフとして開花する可能性も十分ある。チームの右インサイドハーフを務めるのはダビド・シルバ(奇しくも日系人の血を引いている)だが、日本人MFはこのフットボール界の生ける伝説から、様々なことを吸収していけるはずだ。一方4-4-2の場合、久保はダイヤモンドの先端、つまりトップ下でより自由にプレーできるかもしれない(こちらもシルバとポジションが重なる)。

レアル・マドリーと合意した条件

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最後に、ソシエダとレアル・マドリーの交渉のプロセスについて記しておこう。過去2回にわたって久保の獲得を試みてきたソシエダは、今夏も彼の獲得を目指すならばレンタルでなく完全移籍で引き入れる心積もりだった。対して、ソシエダと極めて良好な関係を維持するマドリーは、久保がまだ完全に加工されたわけではない、これからどこまで輝くか分からない宝石と捉え、完全移籍には難色を示していた。そして私が交渉の関係者から聞いた両クラブの合意内容は、ソシエダの要望に準じるものだった。

  1. 久保の選手としての権利はレアル・ソシエダに100%帰属。ソシエダが久保を放出する場合、レアル・マドリーに許可を得る必要はなく、その意向を彼らに知らせるだけでいい。
  2. マドリーは久保の金銭的な権利を50%保有。ソシエダが他クラブに久保を売却する場合、移籍金の半分を手にする。
  3. マドリーは久保の優先交渉権を手にしている。ソシエダが久保売却を決定して他クラブから獲得オファーを受け取った際、ソシエダはそのことをレアル・マドリーに知らせて同等以上のオファーで久保を買い取る意思があるかどうかを確認する。

レアル・マドリーの選手という看板を捨て去り、ソシエダと2027年まで契約を結んだ久保。もったいないと感じる人もいるかもしれない。しかし、覚悟を固めるのも、決断を下すのも、責任を背負うのも、久保本人にほかならない。入団会見で彼は、流暢なスペイン語でこう語ったのだった。

「レンタル移籍には良い面も悪い面もあります。悪い面は、たとえ100%の力を出しても『どうせレンタルだろ』と考えられてしまうことです。今季はそうではなくなりますし、より腰を据えることができますね。僕はポジティブに考えていますし、このクラブのために尽くしたいと思っています」

サン・セバスティアンと言えば、スペイン随一の絶景を誇るラ・コンチャ海岸が有名だろう。入団会見の直前、久保はその海岸を一望することのできるミラマール神殿で、ソシエダのユニフォーム姿を初めてお披露目した。すべては、ここからだ。久保はもう、余計なプレッシャーに苛まれたり焦ったりする必要がない。もちろん時間というものは有限だが、2027年まで契約を結んだソシエダでは、一歩一歩を大切にして進んでいけばいい。コンチャ海岸の砂浜を踏みしめて歩き、足跡をつくっていくように。

文=ミケル・レカルデ/『ノティシアス・デ・ギプスコア』(レアル・ソシエダ地元メディア)

翻訳=江間慎一郎

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