ドイツサッカー界は最近2度の国際大会で残念な結果に終わり、再興の途上にある。そして、チーム内で失われたポジションが復活することが期待されている。
ヨアヒム・レーヴ監督が2014年ブラジル・ワールドカップを制したとき、メスト・エジルとマリオ・ゲッツェがチームの中心となっていた。2人が異なるタイプの10番としてプレーし、「ディー・マンシャフト」(ドイツ代表の愛称)はブラジルW杯で栄冠を手にした。
トーマス・ミュラーはまだチームで輝きを放っているが、エジルの技術力の高いドリブルやゲッツェから放たれる一瞬の創造性は代表チームから姿を消してしまった。
だが、最近のU-17欧州選手権では、次の10年間この失われたポジションを埋めてくれそうなニューフェイスが何人か登場している。
パウル・ヴァナーはバイエルン・ミュンヘン最年少出場記録を持つ選手だ。背が高くスレンダーな体格を持つ16歳は、エジルにそっくりだ。
イスラエルで行われた同大会において、そのヴァナーの隣でプレーしたのがトム・ビショフだ。ビショフは3月にブンデスリーガデビューを果たし、ホッフェンハイムの最年少出場記録を塗り替えている。
長身とはいえない176センチで、印象的な攻撃センスを持つ16歳は、長年ゲッツェに例えられ、ドイツのファンから注目されてきた。ヴァナーをはじめ、2005年生まれの才能に恵まれた世代の選手たちは、実力でのし上がっている。
U-17欧州選手権では、今大会王者となったフランスと準々決勝で戦い、PK戦の末に敗退してしまったが、ビショフにかかる期待は大きい。
「彼には高い創造性や素晴らしい左足があり、サッカーをプレーする喜びを体現している」
「フィニッシュ能力が高いから、相手ゴールに近ければ近いほどエキサイティングで危険なプレーができると思うんだ」とマイスター監督。さらに、こうも続ける。
そう語るのはU-17代表監督を務めるマルク=パトリック・マイスター氏だ。『GOAL』のインタビューでこのように語ってくれた。
「10番としてプレーするトムは、特に持ち前のパスで試合のスピードを上げてくれる」
「パウル(ヴァナー)はもっと豪快なタイプの選手だ。タイトなボールコントロールとスピードに乗ったドリブルが武器だ。ボールを足下に収めてダイナミズムをもたらしてくれる」
「だが、トムはスルーパスや、決定的なプレーをするスペースをファイナルサードで見つけることでダイナミズムをもたらすんだ」
だが、10番的な役割でプレーメイクするだけでは昨今は十分ではない。モダンサッカーにおいてはこのポジションは廃れてきており、4-3-3や3-4-3のワイドな位置に配置されたFWが創造性を発揮するようになっている。
だが、ビショフは創造性以上のものをチームにもたらすことができる。得点機会を作るだけでなく、自身もゴールを狙うことができる。2021-22シーズンはホッフェンハイムU-19チームで7アシストとともに8得点を記録した。さらに、少し深い位置でボックス・トゥ・ボックスの8番としての役割を担った経験もある。
ビショフは憧れの選手として、リオネル・メッシやケヴィン・デ・ブライネの他にヨシュア・キミッヒを挙げている。この27歳が現在プレーする深い位置ではまだプレーしたことがないが、似た点があると感じているそうだ。
だが長期的には、相手ゴール前を漂うことが多くなると予想される。
「だが、そうは言っても彼はチーム全体に均等に貢献したいと考えているね。彼は絶対に思い上がったりしない。チームのために身を投じているからだ。パスの行く先を封じて、ボールを取り戻したらいつでもカウンタープレスをかけるメンバーの一人だ」
ビショフには今後取り組むべき側面もある。自身も認めるように、運動能力や柔軟性、栄養の摂り方などの改善に注力しているというが、サッカー界の頂点に立つために必要なものを持ち合わせていることも明らかだ。
■ビッグクラブも興味
ドイツ屈指の名将であるユリアン・ナーゲルスマンもまたビショフの才能には気づいている。
RBライプツィヒ在籍時に2度獲得しようとしており、2021年夏にバイエルンの監督に就いてからもビショフへの興味を持ち続けている。
ボルシア・ドルトムントもこのティーンエージャーに興味を持っているが、ホッフェンハイムは1月にビショフの契約を2025年まで延長し、当面の間は残留させることに成功した。マイスター監督はビショフの将来について明るい見通しを持っている。
「別のクラブへステップアップできるだろうという声も少なくない。だが向こう数年はホッフェンハイムでプレーすることになった。トムはすべてを持ち合わせているし、次のレベルに到達するために必要なことをやっていくと思うよ」
短期的には、現在のブンデスリーガでの出場時間を増やすこと、長期的にはバイエルンや他の無数のエリートクラブからオファーを得るため、地に足をつけて取り組むことがビショフにとって助けになることは間違いないだろう。
ゲッツェは病気により調子を崩し、ドイツ代表は結局ゲッツェの100%の状態を見ることはできなかった。だがビショフを得たことで再びチャンスに恵まれるかもしれない。
トリッキーな10番の時代は、「ディー・マンシャフト」ではまだ終わっていない。