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「サッカー人生が終わる」重圧を乗り越えた細谷真大。思わぬスランプからの脱出行

■所属の柏でも無得点

 太陽王のストライカーが長い長いトンネルを抜け出した。

 AFC U23アジアカップ準々決勝・カタール戦。負ければ終わりのシチュエーションで迎えた延長前半。101分にして、待望の決勝ゴールが生まれた。

 MF荒木遼太郎(FC東京)の絶妙のスルーパスから抜け出したFW細谷真大が相手DFに体をぶつけながらのファースタッチ、そして右足シュートでゴールネットを揺らし、喜びを爆発させた。

以下に続く

「チーム全員が自分のゴールを待っているのは感じていましたし、その中で取れていなかったので」

 そう語ったように、今大会ここまで細谷はノーゴール。チーム結成当初からエースとして期待されてきた男は、思わぬスランプに陥っていた。

 今季は所属の柏でも無得点。昨季はチームの総得点の40%以上にあたる14得点を一人で叩き出して得点ランク5位につけ、A代表のアジアカップにも招集を受けたストライカーの、まさかの不振だった。

 動きが悪いわけではない。チャンスには絡んでいる。ただ、シュートが入らない。それはU-23日本代表でも同じだった。

 それだけにゴールの味は特別だった。

「今日決めなかったら本当に自分の価値も下がると思っていましたし、本当にいろいろと苦しいシーズンだったので、自分の価値っていうところを今日また証明できたのかな」

 殊勲のFWは、そう言って安堵の笑みを浮かべた。

■決められないエース、仲間たちの思い

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 細谷については、チームメイトも気遣い続けていた。前日にはDF大畑歩夢(浦和レッズ)が「自分が細谷に点を取らせたい」と意気込んでいたし、柏の先輩であるGK小久保玲央ブライアン(ベンフィカ)も、たびたび後輩を気遣うコメントを残している。

 この日の先制点を突き刺したMF山田楓喜(東京ヴェルディ)は「いやあ、うれしかったですね」と笑いつつ、「苦しんでいるのわかっていたし、いろいろなんか言われていましたけど、俺らは信じていたんで」と言い切った。

 柏の僚友であるDF関根大輝も、細谷のゴールについて「めちゃくちゃ嬉しかった!」とした上で、こう語る。

「(細谷は)兄貴分的な存在なので。レイソルで苦しんでいるのを間近で見てきたし、そんな真大くんが目の前で決めてくれて、僕もめちゃくちゃ嬉しくて、すぐ飛び付きにいきました」

 頼れる“兄貴”の苦しみを感じていたからこそ、余計にそのゴールには心震えるものがあった。

「弱いところを見せない選手ですけど、韓国戦が終わった後とか、ちょっと何かいつもの感じじゃないなっていうのはやはり思いました。そういうのを本当に感じたからこそ、僕もアシストしたいと思っていました。今日本当に1本報われて、本当に僕もすごく嬉しかったです」

 大岩剛監督も「周りの選手が一番喜んでましたよね」と笑いつつ、こう語る。

「FWってそういうもんじゃないすか。しっかりと待ってあげることも重要」

 実力・実績ともにこの年代のストライカーとしては頭一つ抜ける存在だった。それだけに、その不振は指揮官にとって大きな誤算だったはずだが、この大一番でも信頼してきたエースに賭けた。その決断が報われる形となった。

■最後の覚悟

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 無得点が続いていた細谷の心中は決して穏やかではなかった。

「自分を含め、今大会でいろいろ言われてきた選手もいました。試合に入る前に(佐藤)恵允(ブレーメン)とも『今日は俺たちが決めよう』っていう話はしていました」

 準々決勝でも、松木玖生(FC東京)のクロスからの決定機でシュートを押し込みきれない場面もあったが、気持ちは切り替えていたと言う。献身的にボールを追う姿勢は変わらず、相手GKを退場に追い込むプレーでもチームに貢献はした。ただ、やはりFWが求めるのはゴールである。

 延長前半に入り、ベンチでFW内野航太郎(筑波大学)が準備し、自分の番号が入った交代ボードが用意されていたことにも気付いていたと言う。

「心の中で、何ていうか、『ここで終わったら、サッカー人生も終わるな』っていう思いがあった」

 そこまで追い込まれていたが、まさに交代直前のラストチャンス、巡ってきたチャンスを逃すことなく仕留めてみせた。

「試合を重ねるたびに悔しい思いというのは強くなっていました。その中で自分はやり続けるしかないなというのも思ってやっていた」

 長いトンネルを抜けたエースについて、仲間たちからは「ここからどんどん決めてくれるはず」と期待の声ばかりが聞こえてきた。本人も1得点で終わる気は毛頭ない。そしてもちろん、次の試合が肝心なのもわかっている。

「次も勝たないと、カタール戦の勝利も意味がなくなる。しっかり勝ってパリ出場を決めたいです」

 U-23世代を代表する太陽王のストライカー。長い夜は終わり、晴れ晴れとした日の出がやってきた。

◎取材・文=川端暁彦

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