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5万人の町がどこよりも大きかった「あの日」…ビジャレアルの大冒険とサッカークラブがもたらす帰属意識

歴史に刻まれたリヴァプール戦

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今日は嫌な日だ。どうにも受け入れ難い。私にとってもビラ=レアルの全住人にとってもそうだ。

夢に見たチャンピオンズリーグ決勝の舞台に到達できなかった悲しみと、世界有数のチームたちを相手にして臆することなく真っ向から戦った誇り……その二つの感情を天秤にかけたとして、一体どちらに傾くのだろうか。今回のリヴァプール戦でも、ビジャレアルがこれ以上ない印象を全世界に与えたことは分かっている。それでも、やはり悲しみは残るのだ。私たちは欧州最高峰の場所に立つチャンスを、またも逃してしまったのだから。

以下に続く

あまりにも強烈なシーズンだった。極限かつ特別な瞬間が何度となくあった。激しい喜びを分かち合った。フットボールは皆を一つにするものと言われるが、これだけそう思えるシーズンはいまだかつてなかった。現在のビラ=レアルの人々は、一人ひとりであり、一つである。道で誰かとすれ違ったとしても、目が合うだけでコミュニケーションが成立してしまう。まるで、テレパシーでも使っているみたいに。笑みを浮かべる人とすれ違えば、それは我が町のチームに胸を張っているからだ。反対に悲しい表情を浮かべていれば……、私たちはその感情を共有することができる。知り合いかどうかなんて関係ない。3~4秒見つめ合えば、私たちをもう十分に語らい合っているのだ。「あとちょっとだったな、ちくしょう!」

もちろん人口5万人のビラ=レアルで、2万5000人がビジャレアルの本拠地ラ・セラミカ(エル・マドリガル)に通っているとしても、住人が一人残らずフットボールを好きなわけではない。私にも試合観戦の経験が一度もない身内がいる。バルで隣にジェラール・モレノやジオヴァニ・ロ・チェルソがいたとしても、彼らが気づくことはないだろう。それでも私たち全員が、何かしらの形でビジャレアルを自分のものだと感じていることも、また確かなのだ。それは部族的な帰属意識。私たちは今季、ビジャレアルとともに笑い、ともに泣いたのである。

例えば、私の友人はリヴァプールとの試合が終わったとき、涙があふれて止まらなくなってしまったそうだ。大切な何かを失ったような悲しみ、喪失感に襲われたとのことだが、彼自身にとっても説明がつかない出来事だったという。その友人はフットボールがまったく好きではなく、スタジアムに足を運んだことも一度としてない。しかし、ビラ=レアルの人間なのである。

道程

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ビジャレアルはウナイ・エメリが指揮を執るようになって2シーズン目を迎えている。クラブは勝者のメンタリティーを持つ監督としてセビージャ、PSG、アーセナルでキャリアを進めてきた彼のことを招へいしたわけだが、ここまでの日々はこれ以上ない(言わずもがな、これ以上もあったが……)ものとなっている。1シーズン目は決勝でマンチェスター・ユナイテッドを下してビジャレアル史上初のタイトル、ヨーロッパリーグを獲得。2シーズン目となる今季はUEFAスーパーカップでチェルシーを打ち破る寸前まで行き、そしてチャンピオンズで4倍以上の予算をつけるチームたちと渡り合い、決勝まであと一歩のところまで迫った。

エメリがビジャレアルの入団会見に臨んだ日、私は彼にインタビューをする機会に恵まれ、クラブがタイトルを獲得する可能性について質問した。彼の返答は「道を楽しもうじゃないか」というものだった。成功は刹那のものでほんのわずかな時間しか続かない。祝勝会がどんなものだったかなど数年後には忘れてしまう。だが、目標までの道程はいつまでも覚えているものなのだ、と……。そんな彼の哲学を聞いてから、もうすぐ2年が経つが、今の私には彼に一つ答えられることがある。「最高の道程だったよ。だから最後の敗戦は、悲しくとも、鈍い痛みを伴わないんだ」

ビジャレアルの軌跡は誇るべきものだった。私たちは子供の頃に聞かされていた物語の中に飛び込んだのだ。田舎町の人間がある日、巨人たちと戦うことになって、ばったばったと彼らをなぎ倒していく。巨万の富を持つマンチェスター・ユナイテッド、イタリアの老貴婦人ユヴェントス、ドイツの盟主バイエルン・ミュンヘン……。一人を打ち破る度にお祭り騒ぎはさらに大きなものとなり、夜空には花火まで咲き乱れて町の人々は夜遅く、朝早くまで祝い続けた。私たちはその次のリヴァプールにも勝てると思えたし、実際的にその近くまで行ったのだ。

永遠

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フットボールを愛する者なら絶対に訪れなければならない神殿、アンフィールドの雰囲気はやはり素晴らしかった。神殿でのファーストレグを0-2敗戦で終えた私たちは、セカンドレグの前半に2ゴールを決めて、一時的にリヴァプールに追いついている。道は、そこまで続いていた。

ジェラール・モレノがケガをおして出場し、同じく負傷していたダンジュマが間に合わず、ほかの選手たちも満身創痍の中で、ビジャレアルは夢に向かって懸命に泳いだ。泳いで、岸にたどり着いて、息絶えている。前半に2ゴール目が決まったとき、私たちは抱き合って喜んだが、物語の結末はそのときに予感していたものとは180度違っていた。悲劇こそが美しい物語とは言うものの、ビジャレアルの運命は今度こそ決勝にたどり着くこと、ビッグイアーを掲げることではなかった。

それでも私たちは道を目一杯楽しんだ。残りの人生、何回だって思い出そうじゃないか。あの頃、5万人の私たちはどんな都市の人々よりも誇らしかった。どこよりも、大きかったのだ。

文=ビクトール・フランク/スペイン『オンダ・セロ』『マルカ』ビジャレアル番(ツイッター:@VictorFranch)

翻訳=江間慎一郎(ツイッター:@ema1108madrid)

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