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わが街クラブが見せる醒めない「夢」…不変の愛に支えられるビジャレアル、神殿アンフィールドへ

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フアン・ロマン・リケルメのPKから、クラブ史上最も有名なPK失敗から16年の月日が経ち、フットボールはビジャレアルにまた新たなチャンスを与えた。

以下に続く

ここビラ=レアルの町では今、“スブマリーノ・アマリージョ(イエローサブマリン)”の愛称で知られるクラブのサポーターたちが、あの素晴らしかった日々を今一度思い出している。フットボールシーンにおいて自分たちのクラブが称賛の的となり、自分たちが住む町が全世界に知れ渡ったことを。

あのチャンピオンズリーグ準決勝のアーセナル戦、あの終了間際のPKが決まって延長戦に突入していたとしたら、きっとパリで行われた決勝にも到達していたに違いない。ビラ=レアルの大多数の人々は、あのアーセナルとのセカンドレグ(※05-06シーズン準決勝:0-0)が行われる前から、チャンピオンズ決勝のチケットを握りしめていた。彼らにとって決勝の舞台に立つチームを見届けられないなど絶対にあり得ず、だからこそ預言者を自負して事前にチケットを購入していたのだ。結局、決勝はバルセロナとアーセナルで行われたわけだが、あの幻となったチケットを今なお大切にしているサポーターは少なくない。チャンピオンズ決勝でビジャレアルを見られるチャンスが再び訪れるなんてことは、どうしても考えづらかったために。

16年間はずいぶんと長く、また、あまりに短いものでもある。それぞれが、どう生きたか次第だろう。とはいえ振り返ってみれば、忘れるなんてあり得ない多くの出来事があったのも、また確かだ。車を変えた。住む家が変わった。子供が生まれて父親(母親)になった。深刻な病が身近な人々を襲った。愛する人を失った……。人間とその人を取り巻くものは、内的と外的な要因によって刻一刻と変化していく。だがしかし、それでも絶対に変わらないものがある。

愛を捧げるフットボールクラブだ。

人生のパートナーや、音楽の趣味は変わることだってある。だが愛するクラブは決して変わらない。もしかしたら自クラブの成功を狂喜乱舞で喜んだあの情熱が、時の流れとともに冷めていくことはあるかもしれない。それでも「好きなクラブは?」との問いかけに、答えが変わることなどあり得ない。少なくとも、ビラ=レアルの人々はそうなのだ。彼らはあれから16年間、変わることなく一つのクラブを愛し続け、信じ続けて、また新たな喜びを享受している。昨季、マンチェスター・ユナイテッドを決勝で下してヨーロッパリーグ優勝(1-1:PK戦11-10)、クラブ史上初のタイトル獲得を成し遂げたときには、もうこれ以上のことはないとも思えた。だが幸運にも、その思い込みはすぐさま否定されたのだった。

フットボールが好きな人たちにとって、今、ビラ=レアルに生きることは特権以外の何物でもない。ここでは今、我が町のクラブがチャンピオンズで優勝する夢以外、話題に上がらない。カフェテリアでは年配者たちが、ウナイ・エメリがリヴァプールにどう立ち向かうべきか意見を戦わせており、子供たちは黄色いユニフォームを着て学校へ向かう。彼らがふと上を見上げれば、各家庭のバルコニーにクラブフラッグがたなびく。26日、もし自分がリヴァプールに行かないとしても、家族、友人の誰かが必ず、アンフィールドで声を張り上げている。

信念

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私は仕事柄、アンフィールドで試合に立ち会える幸運に恵まれた一人だ。トリノでユヴェントスを、ミュンヘンでバイエルンを打ち破ったときのように、ラジオを通してその場で起こることをリポートしていく。ただ、ここで白状してしまうが、ビジャレアルがあの2試合で偉業を成し遂げたとき、私はジャーナリズムの規範を則ってはいなかった。事実のみを淡々と伝えていく……そんな仕事ぶりからは程遠く、プロ失格だったと言ってもいい。

目の前に広がっていた光景は、私の感情と情熱を制限なく解放してしまい、記者としての私をダメにしてしまった。あれだけ軽蔑していた、一クラブのファンを名乗って商売をする記者と何ら変わらない言動を取ってしまったのだ。時に、心は頭以上に声を出したがる。ビラ=レアルの人間、ビジャレアルの人間として、私は叫ばずにはいられなかった。

火曜日、私はまたリヴァプールに赴く。アンフィールドで試合を見届けるのはこれが人生で2度目のことで、私と同じように3000人の黄色いサポーターがスタジアムに駆けつける。このスタジアムに集う“レッズ”は5万3000人と、ビラ=レアルの人口5万1000人よりも上だ。私たちが初めてこのフットボールの神殿を訪れたのは6シーズン前のヨーロッパリーグ準決勝で、そのときはリヴァプールがビジャレアルを敗退に追いやっている(15-16シーズン:2戦合計1-3)。会場の雰囲気は凄まじく、『You'll Never Walk Alone』が歌われたときから、私たちは負けていた。だが今回は違うはず、と私たちは信じている。ユナイテッド相手に初タイトルを獲得して、トリノとミュンヘンから勝利を持ち帰り、ウナイ・エメリという勝者の監督が率いる今回は……。私たちは今一度、チャンピオンズ決勝の舞台に立つ夢を見ているのだ。

夢の中

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思い返すと、私たちはずっと夢の中にいるのかもしれない。地域リーグで、地元のライバルとプレーしている頃から見続けてきたビジャレアルは、私たちを夢から醒ますことがなく、あり得ないような偶然を連鎖させている。これから臨むのは6年前に敗れたリヴァプールとのリベンジマッチであり、前回のチャンピオンズ準決勝の対戦もイングランドのチーム(アーセナル)だった。加えて私たちが到達するに値した決勝の会場はパリと、今季と同じだ……。分かっている。そうした偶然の連鎖が、何の役にも立たないことは。それでも私たちの情熱、感情、もっと言えば童心は、そうしたことに期待を膨らませてしまう。まるで横断歩道の縞々の白だけを踏むことが、幸運をもたらしてくれると信じるように。

ここで、もう一つ白状してしまおう。16年前、チャンピオンズ決勝のチケットを事前に買っていた一人が、この私であったことを。今回は、どうしてもパリに行きたい。私にとってあの都市は世界で最も美しい、ずっと憧れてきた都市なのである。きっと私たちの田舎町ビラ=レアルは、それと比べて世界で最も美しい町にはなり得ないだろう。だが、もしパリにまでたどり着けるのであれば、そう胸を張ってもいいように思える。

私たちはフットボールを通じて、世界をてっぺんから見下ろすのだ。

文=ビクトール・フランク/スペイン『オンダ・セロ』『マルカ』ビジャレアル番(ツイッター:@VictorFranch)

翻訳=江間慎一郎(ツイッター:@ema1108madrid)

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