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まさに才能の宝庫…混沌のチェルシーが昇華させるべきもの。「ビジョン2030」計画とは?

数時間前にチャンピオンズリーグ優勝を果たしたチェルシー選手たちがポルトのホテルに戻ると、クラブのホームグロウン選手たちが特に2人のコーチを熱心に祝い始めた。

アカデミーの指導者であるニール・バスとジム・フレイザーの二人はポルトガルに滞在し、リース・ジェームズとメイソン・マウントのプレーを見に来ていた。この二人はブルーズで突出した輝きを放ち、クラブを史上2度目のCL制覇に導いた。

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チェルシーのユース組織にとって、これは最高の瞬間であった。年代別チームが成功し続けたことでトップチームの優勝につながったという確たる証拠なのだ。

ジェームズやマウントの他にも、たとえばタミー・エイブラハム、カラム・ハドソン=オドイ、フィカヨ・トモリ、ビリー・ギルモアらがここ2年間で台頭していた。この選手たちはトーマス・トゥヘルがチームを引き継ぐ前からフランク・ランパード政権下でチャンスを得ていた。

チェルシーのトップチームにはアカデミー出身選手が多く、ここ最近の数シーズンで、チームとクラブのファンの間に絆が育まれている。

だが、ブルーズはユース育成に関して、最近の成果にあぐらをかくつもりはない。特に現在、スタンフォード・ブリッジを取り巻く不確実な状況があるからなおさらだ。

チェルシーとオーナーのロマン・アブラモビッチが袂を分かったことで、クラブ全体が中途半端な状態になってしまっている。特にアカデミーの成功はこのロシア人実業家がウェストロンドンに19年にわたって巨額の資金を投入し続けたことによるところが大きい。

だが、クラブの財政状況いかんに依らず、チェルシーは最近の成功にあぐらをかくことなく、現在のユースの勢いを維持したいと強く思っている。

マンチェスター・シティとリヴァプールはユースカテゴリーでチェルシーに肉薄し始めている。マンチェスター・ユナイテッドはここ数年、元の勢いを取り戻すことに躍起だ。

ビジョン2030

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一方のチェルシーは、「ビジョン2030」を始めるところだ。

「この計画には経営陣とオーナーが関わっており、次の5年から10年に向けて動き出せるような、革新的かつ創造性に富んだアイデアを聞きたいと強く願っています」

昨年6月、バスはこう説明している。

「『ユース出身選手をCLでの成功に関わらせた』という成功体験に満足することはないと断言できます」

「短期で進めていることに取り組むことも大事ですが、長期のビジョンを持ち、将来アカデミーのあるべき方向性を描くことも大切なのです。ここにいつでも焦点をあてるべきなのです」

前述のオーナーは変わってしまったが、クラブのアカデミーの方向性は変わることはない。

「ビジョン2030」は、コブハムで行われるアカデミーでの活動を包括的かつ徹底的に評価する取り組みだ。この計画にはスカウト、栄養士、アナリスト、技術部も含まれている。

この計画は変わりゆく英国サッカー界の状況に対応することを目指すものだ。下部リーグやアマチュアカテゴリーの質が向上する一方で、ブレグジットによってプレミアリーグのクラブは若手を海外から獲得することを中止してしまっている。

そして、この計画はすでに実行に移されている。

チェルシーはアマチュアリーグから選手を積極的に引き抜いている。今冬にはFWメイソン・バーストウと契約した。メイドストーン・ユナイテッドFC所属時にコブハムでトライアルを受け、チャールトンFCでのプレーでクラブに活躍を印象づけたのだ。

また、英国の他のクラブに所属する、ポテンシャルの高い若手選手を探し続けている。WBAの二人、レオ・カルドソとキアノ・ダイアーは昨年にチェルシー移籍を果たしている。

この二人は共にイングランドユース代表だ。カルドソはすでにポルトガル代表としての出場経験があるが、15歳という年齢は、まだチェルシーのコーチ陣が修正を施せる年齢だ。

現在のチェルシーにとって主な挑戦は、「トップチームへの道がまだ開かれている」ということを示すことだ。というのも、トゥヘル就任以降はトップチームに加入したユース出身選手はトレヴォ・チャロバーしかいないのだ。

エイブラハムとフィカヨ・トモリはドイツ人監督に余剰人員と判断され、セリエAに高額移籍することとなったが、マーク・グエーイ、ティノ・リヴラメント、ルイス・ベイトといった2021年夏にクラブを離れたユース出身選手たちは、スタンフォード・ブリッジで輝きを見せる機会すら与えられなかった。

だが、グエーイとリヴラメントの二人は今シーズンのプレミアリーグでブレークを果たした。特にグエーイは最近、イングランド代表にも招集された。

近年では、タリク・ランプティ、ジャマル・ムシアラといった他の選手も、デビューを果たすことなくクラブを後にしていった。ムシアラは、バイエルン・ミュンヘンで活躍していることから、世界で活躍する若手選手のリスト『NXGN2022』で4位に輝いている。

未来を担う若手

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ブルーズはアルマンド・ブロヤ、コナー・ギャラガー、そしてこの中で唯一NXGNに選出されたリヴァイ・コルウィルといった2021-22年にレンタル移籍した選手たちが、同じ道をたどらないように戦わなくてはいけない。

イングランド代表のギャラガーはクリスタル・パレスで素晴らしい能力を見せており、チェルシーに戻ってファーストチームでの競争を選ぶと予想されている。だがブロヤに関しては、ローン先のサウサンプトンや、ウェスト・ハムがこのストライカーと契約したがっており、争奪戦に勝たなくてはならない。

一方のコルウィルは、1月にレスターが狙っていた。ハダースフィールド・タウンへのローン移籍中に彼を獲得しようと目論んでいたが、フォクシーズの申し入れをチェルシーは拒否したのだった。

こういった選手たちや、まだ主にユースでプレーしている選手たちは、ブレグジット後の縮小傾向にあるマーケットで自分の価値が高まっていることを分かっている。17歳で結ばれる3年のプロ契約を蹴ってでもトップチームへの道を切り拓こうとしているのだ。

今シーズン序盤にトップチームデビューを果たしたザビエル・シモンズは、クラブを離れる可能性が最近出てきた選手だ。プレミアリーグのクラブが多数、契約が切れかかっている彼の状況を注視し続けており、一方でクラブはU-23チームのスター、ハーヴェイ・ヴェイルが1年以内に他の若手に続かないようと必死だ。

トゥヘルはアカデミーとの関係を保とうと動き回っており、バスらに定期的に連絡を取り、彼が手を付けられそうな若手選手について助言を求めている。

元パリ・サンジェルマン監督のトゥヘルは、できるだけ多くアカデミーの試合を観戦しようとしており、今後の数年を共にするかもしれない選手を自身の目で確認しようとしている。

「ドアはいつでも開かれている」

アカデミーとの関係についてトゥヘルはこう語っている。

「私はアカデミーが好きだ。サポーターも愛してくれていると信じているよ。海外から来たビッグネーム、強い個性を持つ選手、有名選手、そこにアカデミー出身選手がミックスされればクラブは特別なものになる」

「CLでトロフィーを掲げたときの写真を見れば、アカデミーからやってきた選手がたくさん写っているだろう。それは本当に特別なことだが、まさにそうあるべきことだ。常にこのミックスが必要なんだ」

そのため「ビジョン2030」のなすべきことは、タレントを続々と生み出し、チームに必要なものを供給し続けることだ。

そして今、チェルシーはおそらくこれまで以上に、アカデミーを発展させ続ける必要があるのだ。

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