いよいよ開幕が目前に迫っているUEFAチャンピオンズリーグ(CL)本大会。『Goal』では、この欧州最高峰の大会でプレーした日本人選手にインタビューを実施した。今回は、アーセナルとガラタサライでCLを経験した北海道コンサドーレ札幌の稲本潤一。欧州移籍を意識することになったキッカケやプレミアリーグ時代、そしてJリーグや日本代表での戦いについてなどを含め、『Goal』だけに語ってくれた。
インタビュー=斉藤宏則
■「全てが違った」最強時代のアーセナル
(C)Getty Images――稲本選手ご自身が欧州でのプレーを意識したのは、いつ頃だったのでしょうか?
やはり1999年にナイジェリアで開催されたワールドユース(現在の呼称はFIFA U-20ワールドカップ)の決勝でスペインに大敗したときですね。スペインには(元スペイン代表MF)シャビら有力な選手が何人もいて、僕らも頑張って決勝までたどりついたけど、彼らとの差はあまりにも大きいと痛感させられました。そこで、「彼らのレベルに近づくには、どうしたらええんやろ…」と考えたときに、欧州でのプレーというものが頭をよぎったんです。加えて当時は今ほど日本人選手の欧州移籍が活発ではありませんでした。ですが、そのなかで中田英寿さんや名波浩さんがすでにイタリアでプレーをしていたり、城彰二さんがスペインに渡ったりしたタイミングでもあったので、「自分もそういう環境で成長したい」と強く思うようになりましたね。また、その後に自分は幸いにも世代別代表から五輪代表、そしてフル代表へとトントン拍子にステップアップすることができたのですが、「これで満足してしまってはアカン」とも感じ、より厳しい環境に身を置きたかったというのもありました。
――そして2001年にアーセナルへと移籍をしたわけですが、それ以外にもオファーがあったのでしょうか?
確かアーセナルと、イタリアのクラブがひとつ。いくつも話があったわけではありませんでした。ちょうどその年のコンフェデレーションズカップ(日韓大会)をアーセン・ヴェンゲルさんが見に来ていて、それで目をつけてくれたみたいですね。数少ないオファーのなかのひとつがアーセナルだったというのは、ものすごくありがたいことでした。
――当時のアーセナルにはティエリ・アンリやパトリック・ヴィエラ、デニス・ベルカンプなど、そうそうたるメンバーが揃っていました。レンタル移籍で在籍していた2001-02シーズンはプレミアリーグも制しています。彼らと共にトレーニングをして感じたことなどは?
それはもう、全部ですね。何からなにまで全部が違う。それに尽きますね。身体的なスピードもそうだし、判断のスピードもそう。何からなにまでスピードが全然違ったので、驚きましたよ。衝撃的でした。
――なかでも印象に残っている選手は?
そうやなあ…。当時のチームはフランス人選手が多くて、アンリやヴィエラに(ロベール・)ピレス、(シルヴァン・)ヴィルトールといったように現役のフランス代表がいて、彼らはやはりすごかったですね。誰が、というよりも、全員ですよね。
――そのアーセナルではなかなか出場機会に恵まれませんでした。そのなかで成長できたことであったり、葛藤したことなどはありますか?
ネガティブな要素はまったくなかったです。行って良かったと心から思っています。アーセナルに移籍できるチャンスなんて、そうあるものではないですし、若いうちにハイレベルで厳しい環境に身を置けたことはその後の財産になりました。ただし、あまりにも周囲がハイレベル過ぎて「自分が試合に出られないのは当然だ」という感情が芽生えてしまったところもあったのは確かですね。その意味で、僕が本当に彼らとシビアな競争ができていたかというと、そうではなかったと思います。そうした時間を過ごしてしまったという意識があったので、もう1年、アーセナルに残ることもできたのですが、それをせずに出場機会を得られるチームを探しました。
■様々な国を渡り歩いた経験
(C)Getty Images――アーセナルでの1シーズンを終えたタイミングで日韓ワールドカップを迎えました。そこで2得点を挙げ、日本代表のワールドカップ初勝利や決勝トーナメント進出を果たしたわけですが、欧州で得た経験が生きた部分はありましたか。
それは、かなりあったと思いますよ。アーセナルでは毎日、欧州各国の代表選手とトレーニングをしていましたし、体をぶつけ合ってきた。そうしたものが自信にもなっていましたし、自分がどのくらいやれるのかということを肌で知ったうえでワールドカップに挑むことができましたから。仮に日本国内で頑張って同じくらいのプレーレベルに到達していたとしても、果たしてそれが世界のなかではどのくらいのものなのかがわからなければ、自信を持ってワールドカップに挑むことはできていなかったでしょうから。要するに欧州でプレーをしていたことで、自分がどれだけやれるのかという、確かな根拠を得ることができたということですよね。日韓大会で対戦したロシアやベルギーなども確かに強豪ではありましたけれど、僕が日常的に接している選手に比べるとレベル的には低いわけで。その意味で、いわゆる“名前負け”することがなくなりました。
――その大会後には、アーセナルからフラムへと移籍をします。そこではコンスタントな試合出場を果たすようになりましたが、そこでの手ごたえなどはいかがでしたか。
フラムでは僕がイングランドでもある程度やれることを証明することができたと思っていますし、プラスして、自分がこの世界でどのように生きていくべきか、そこをしっかり意識して欧州でサッカーをプレーすることができるようになりましたよね。試合に出るだけでなく、その後のことも考えられるようになったということです。
ただ、ここでひとつのポイントに気づくことになるんです。ワールドカップで2点取ったことも影響したのかもしれませんが、自分が“攻撃的な選手”という見方をされていたのです。実際にフラムに移籍した直後は結構、得点を取ることができていたりもして。そのなかで「自分のプレースタイルというのは、どうあるべきなのか?」という疑問が生まれてきましたね。気が付いたらトップ下で起用されることもあったりして、「あれ? 本来、オレはこのポジションではないのに…」と思いながらプレーをしていましたから。プレー自体に迷いはありませんでしたが、自分がどういった選手として生きていくべきなのか、という部分での迷いはありましたね。とはいえ、それも試合に出場して結果も出せたから、生まれてきた迷いでもあったので、必ずしもネガティブに捉えてはいませんでしたが、難しいものですよね。
――その後はウェスト・ブロムウィッチやガラタサライ(トルコ)、フランクフルト(ドイツ)など複数の国に移籍をしていますが、これは意図してそうした移籍をしたのでしょうか。
いえ、完全に結果論です(笑)。届いたオファーに対して、動いていった感じでしたね。なにしろ、ガラタサライに移籍したときは移籍ウインドーの最終日にいきなり電話がかかってきて、締め切りの数時間前にサインをしたほどでしたから。その辺は、比較的柔軟に構えていたというか、まあ、それも含めて結果論ですね(笑)。
■今季のCL、注目のクラブと選手は…
(C)Getty Images――ここからはUEFAチャンピオンズリーグ(CL)についてもお聞きしたいと思います。アーセナル、ガラタサライ所属時に経験をされていますが、稲本選手にとってはどのような大会だったのでしょうか。ガラタサライ所属時の2006年、ボルドー戦では得点も記録しています。
正直に振り返ると、アーセナルのときはとにかく試合に出たいという気持ちのほうが上回り過ぎていて、それがCLだということをしっかりと実感することはあまりなかったんですよね。出場時間も短かったですし、CLを実感する余裕がなかったというのが正しい表現かもしれません。日々のポジション争いがメチャクチャ厳しかったということも背景にあったとは思いますが。
その意味で言えば、ガラタサライでプレーをしていたときはいつもスタメンで使ってもらっていましたから、結構、余裕も出てきたので、CLのアンセムを聞いて自分のテンションがもの凄く高まっていったのを記憶しています。もしかしたら、ワールドカップよりもレベルの高い大会である可能性もあるわけですから。プレーしていて本当に楽しかったですね。
そして、僕の大きな夢として、トヨタカップ(FIFAクラブワールドカップ)に凱旋するというのがあったので、当時は欧州王者と南米王者が日本で対決する大会方式だったので、欧州王者の一員として日本で試合をしたいという意味で、CLへの位置づけは自分のなかで非常に強かったです。もちろん、欧州に移籍したばかりのころはそんなところまで考える余裕はなかったですから、あらためてCLをプレーヤーとして楽しむにも、時間がかかるものですよね。
――今季のチャンピオンズリーグで注目しているクラブはありますか?
欧州を離れて時間が経っているので情報不足なところはありますが、やはり最初に足を踏み入れたのがイングランドということもあって、プレミアリーグのクラブに注目しがちですね。もっと言うと、やっているサッカーが僕がいたときとは全然違っていて、当時はいわゆる「キック&ラッシュ」だったのが、今はしっかりとボールを動かしながらゲームをするスタイルになっていて、新たな見応えも感じているところです。そのなかでもマンチェスター・シティやリヴァプールはどうなっていくのかな? というのは興味があって、それ以外の国でいうとユヴェントスも面白そうやし、いよいよ欧州も世代交代のタイミングが来ている感じもあって、どこが台頭してくるのか? というところが楽しみではありますね。
――注目している選手はいますか?
最近、注目しているのはライプツィヒからリヴァプールに移籍をしてきたナビ・ケイタですね。ギニア代表選手で、アフリカ人らしい身体能力があるだけでなく、中盤の中央で好守のバランスを見ながら、時折、思い切った攻撃参加をする。僕とポジションが近いから気になるというのもあるとは思うのですが、ハイレベルな選手やと思いますよ。ハイレベル、という一般的な言葉では表せないかもしれないですね。試合を見ていて「すげえな!」と心底思いましたから。
――実現してほしいカードはありますか?
マンチェスター・シティ対バルセロナかなあ…。面白そうですよね? グアルディオラとバルセロナがどのような戦いを演じるのかは、興味深いですね。
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