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片野坂知宏という人物。大分の危機を救い、従来の概念を覆す革新的な戦術でJ1昇格

■『地方の星』大分復権の道のり

大分トリニータのJ1昇格決定から一夜明けた11月18日夕、大分銀行ドームで行われたJ1昇格報告会の場で、片野坂知宏監督の来季続投が発表されると、スタンドに詰めかけたファン・サポーターからは大歓声と拍手が湧き起こった。

かつてはJ1でJリーグナビスコカップ(現JリーグYBCルヴァンカップ)優勝まで成し遂げ『地方の星』と呼ばれた大分が、まさかのJ3にまで転落したのは2015年。降格の責任を取って青野浩志社長が辞任し、シーズン途中から監督を務めた柳田伸明強化部長もクラブを去った。

09年に深刻な経営危機が明るみに出た後、リーグや地元企業や行政からさまざまな支援を受けながら立て直してきたなかでの不覚。1年でJ2復帰しなくてはクラブの存続も危ういとささやかれる中で、新たな指揮官に就任したのが片野坂監督だった。現役時代に大分でプレーし、引退後もクラブに残って強化やアカデミー指導に携わると、指導者S級ライセンスも大分で取得。「その恩を返すときが来ました」と、古巣の危機を救うために駆けつけた。

以下に続く

監督キャリア初年度の16年でJ3優勝を遂げ、見事に1年でJ2に復帰すると、J2残留を目標に戦った17年は、J1昇格プレーオフ圏まで勝点4差の9位。そして18年、指揮3年目にしてJ1自動昇格を果たし、Jリーグ史上初のJ3からJ1への二段階昇格に導いた。そのスピード感もまばゆいが、何よりも指揮官の有能さを物語るのは、大分トリニータというブランドの堅実な再構築ぶりだ。

■独自の戦術構築、“片野坂流”とは

就任当初はいきなり自身の理想を注入することを避けた。前年までの4-4-2システムを継続しつつ、後方からビルドアップする攻撃的サッカーを徐々に意識づけし始める。1年でのJ2復帰というノルマに向けて夏以降は現実路線へとシフトしたが、その公約を果たすと翌シーズンは『いざ、片野坂大分元年』とばかりに、サンフレッチェ広島でミハイロ・ペトロヴィッチ監督がベースを築いた3-4-2-1を基本とする可変システムを導入。独自の戦術構築へと着手した。

ビルドアップ時にはボランチの1枚が落ちて4-1-4-1になるなど広島のスタイルを踏襲してスタートしたが、試合を重ねながら課題を修正する中で、対症療法的にアレンジが施された。ペトロヴィッチから森保一が受け継いだ“ミシャ式”に、ガンバ大阪時代に西野朗、長谷川健太らの下で学んだエッセンスを織り交ぜながら、“片野坂流”が培われていく。

コーチとしても経験したことのなかったJ2で指揮3年目を迎えた今季は、国内で最もタフと言われるリーグを乗り切るために、実力や経験値の伯仲したプレーヤーを集めてポジション争いを激化させることで、全体の底上げを図り、対戦相手の特徴によって戦力を使い分けることで戦法のニュアンスを変化させた。

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今季を終えてみれば、ゴール数はリーグ最多の76得点。そのほとんどが流れからの得点で、4名の二桁得点者(馬場賢治12、藤本憲明12、三平和司10、後藤優介10)を中心にフィニッシュには多彩な選手が絡んでいることからも、組織的要素の強い傾向が見て取れる。

多額の強化費を望めない地方の小さなクラブでは、絶対的存在となれるストライカーを獲得することは難しい。だが、それを逆手に取ったように、GKを起点に相手を崩すスタイルが、この特徴的なデータを生んだ。

予算の少ないクラブでは、継続性を維持することも困難だ。育って活躍した選手は次々にステップアップしていく。かつて指揮官として長く大分を率いたペリクレス・シャムスカや田坂和昭も、シーズンごとに戦力が大幅に入れ替わる問題に頭を抱え、工夫を凝らしながら戦ってきた。

だが、片野坂体制以後は、指揮官と同じタイミングで強化部長に就任した西山哲平の手堅い手腕もあって、一貫した戦術の継続性が保たれている。シャムスカ時代の『カメナチオ』に象徴されるように、長年、堅守速攻スタイルを踏襲してきた大分が、まったく新しいスタイルへと舵を切ることができたのも、それがあってのことだ。“弱者のサッカー”という従来の概念を覆すエポックメイキングのひとつとも言える。

■J1を戦ううえで必要なこと

来季はいよいよJ1でのチャレンジ。J2との違いについて片野坂監督は「まず、スピードが違う。判断やクオリティーも全く違うし、少しのミスも許されない。今季はリーグ最多得点となりましたが、決定機はもっとあって、そこで決めきれる力などが必要になってくると思います」と捉える。

連係が生命線の戦術においてコミュニケーションを重視した結果、これまでは外国籍選手の起用が少なかったが、J1での戦いはどうなるのか。

「今季は4人の選手が二桁得点しましたし、いろんな選手が出て得点してくれた。それはすごくいいことなんですが、やはり個の力というか、得点王になれるような一人の選手の力が必要なときもある。そういった選手を、うちが補強で取れるかどうか。でも逆にそういう選手を獲得しなくても、チーム内から出てくる可能性もあります。二桁得点した既存の選手4人のような選手が来季も残って、さらに力を発揮してくれれば、そういったことにもなるんじゃないかと思います」

新たなステージでの挑戦で何を継続し、何を刷新していくのか。今季のチームは18日をもって解散し、指揮官は来季に向けての準備に取りかかる。

(文中敬称略)

■PROFILE

ひぐらしひなつ
サッカーライター。九州を拠点に育成年代からトップまで幅広く取材。大分トリニータのオフィシャル誌などに執筆、エルゴラッソ大分担当。新著『監督の異常な愛情』をはじめ著書『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』、『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』他。

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