■多くの金字塔を打ち立てた伝説のチーム
最強チームとして称揚したいのは、2012-13シーズンのバイエルンだ。前シーズンにブンデスリーガ2位、DFBポカールとチャンピオンズリーグ(CL)準優勝という“準3冠”に終わっていたドイツの盟主は、その悔しさを糧にして隙のないグループを作り上げた。国内リーグでは開幕から一度も首位の座を譲らずに、3シーズンぶりの覇権奪還に成功。DFBポカールでは決勝でシュツットガルトに3-2の勝利を収めた。そして、CLでは並み居る強豪を寄せ付けない快進撃を謳歌。見事に12シーズンぶりの欧州制覇を成し遂げた。
圧倒的な強さを裏付ける金字塔は少なくない。ドイツ国内では当時の最速優勝(第28節終了時点)をはじめ、最多勝点(91)、最多勝利(29)、最少失点(18)などのリーグレコードを更新。CLではその無双ぶりを上回るインパクトを残した。グループステージで伏兵のBATEボリソフ、ラウンド16のセカンドレグでアーセナルに黒星を喫したものの、準々決勝でユヴェントスにホームとアウェーでそれぞれ2-0の完勝。そして、なによりバルセロナとの準決勝だ。ホームで4-0、アウェーで3-0の大勝を収め、優勝候補の筆頭を完膚なきまでに叩きのめしたのだ。現行のCLにおいて、準決勝で7点差の勝利を収めたチームなど他に存在しない。12-13シーズンのバイエルンを「最強」に推す大きな理由の一つだ。
史上初のドイツ勢対決となった決勝では、ドルトムントとハイレベルな攻防を繰り広げた末に2-1と競り勝ち、聖地ウェンブリーでビッグイヤーを掲げた。この歴史的な一戦で値千金の決勝点を奪ったのはアリエン・ロッベンだが、悲願の3冠達成に最も貢献した選手を挙げるなら、フランク・リベリを置いてほかにいないだろう。当時30歳と脂が乗り切っていた稀代のウインガーは、抜群のキープでタメを作れば、鋭いドリブル突破を仕掛けるなどして攻撃を牽引。独りよがりなプレーには走らずに、周囲を活かしながら自らも輝いた。13年のバロンドールに選ばれなかったのは不運でしかない(従来の記者投票だけなら1位だったが、各国代表の監督と主将による票がメッシやC・ロナウドに集まった)。
■攻撃パターンは多彩
チームに話を戻せば、圧倒的な強さを誇るようになった一因はリベリとロッベンの変容にある。名将ユップ・ハインケスが「チーム全体の守備がなによりも大事だ」と口を酸っぱく言い続け、それまで典型的なソリストだった“ロベリー”が真のチームプレーヤーへと変貌。身を粉にしたディフェンスを見せるようになったのだ。前線でプレスに奔走、相手のパスコースを切る、そういった範疇に留まる話ではない。試合終盤でもフルスプリントで自陣の最深部まで戻っては、鬼気迫る表情でボールホルダーに襲い掛かっていた。ハインケスのマネジメント力、そしてタイトルへの渇望がリベリやロッベンを変えたのだ。
ロベリーの献身が象徴であり、CFマリオ・マンジュキッチのフォアチェックから始まる場合が多かったチームの守備は面白いように機能。前述のユヴェントス戦では司令塔アンドレア・ピルロを完璧に封じ込め、バルセロナ戦では相手にボールを委ねながらも鉄壁の守備で攻撃をことごとく跳ね返した。プレーのインテンシティーを極めて高く保っていただけでなく、選手全員が「どこでプレスを強めるか、だれを標的にするか」といった狙いを共有。疲労が蓄積する終盤戦も守備の秩序は乱れず、その機能性は落ちなかった。
Getty Imagesフルパワーで守備をこなしていたにもかかわらず、攻撃陣の足が止まらなかった点も特筆に値する。リベリやロッベンはあれほど走りながら、どうして攻撃時のキレや力強さを失わなかったのか。「自分がボールキープしている時に休んでいたのかと」とは、シュトゥットガルト所属時に話してくれた酒井高徳の分析だ。ちなみに、ジョゼップ・グアルディオラのバイエルンとも対戦経験がある酒井は、ハインケスが率いた頃のチームを「あれは正直、勝てないなって思いました。相手が13、14人いる感覚でした」と回想してもいる。
攻撃のクオリティー、引き出しの多さも申し分がなかった。敵陣でも素早く正確なショートパスをつなぎ、バスティアン・シュバインシュタイガーやトニ・クロース(後者は4月に負傷離脱)のサイドチェンジも織り交ぜながら、リトリート戦術でスペースを消してくるチームを翻弄。ショートパスだけで崩し切ろうとするバルセロナとは異なり、マンジュキッチ目がけたクロスなども頻繁に活用し、相手に的を絞らせなかった。さらには守護神マヌエル・ノイアーの強肩やロベリーの快足を活かすカウンターも切れ味が抜群。いずれの攻撃パターンにおいてもトーマス・ミュラーが絶妙なアクセントをつけていた。
パワー、スピード、テクニックの全てを高次元に備え、攻撃も守備も戦術的な不備はなし。選手たちには組織的なメカニズムの中で機能しようとするチームファーストのメンタリティーが宿っていた。戦いぶりは柔軟そのもので、どんなタイプの相手とも五分以上に渡り合った。12-13シーズンのバイエルンほど隙がなかったチームは他に思いつかない。
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「※」は提携サイト『 Sporting News』の提供記事です