022シーズンは、J1リーグ戦31試合に出場しうち28試合に先発した。シーズンが終了してみると、明らかに進化した19歳がそこにいた。カタルーニャ人監督の指導のもと磨き続けた戦術眼とスキル。代表での国際試合含め、多くの経験を重ねた松木玖生のプロ1年目の成長を振り返る。【取材・文=河治良幸】
■アルベル東京のカギとなった1年目
Hiroto Taniyama“三冠”を獲得した青森山田高校のキャプテンとして、シーズン前から話題と期待を集めていたが、それでも高卒ルーキーのMFが“多摩川クラシコ”での開幕スタメン、しかもリーグ戦28試合にスタメンで起用されて、2433分もプレーすると予想できた人は、どれだけいるだろうか。
プロ初年度の2022年、松木はFC東京で経験を積みながら、パリ五輪を目指す大岩剛監督のU-21日本代表に“飛び級”で選ばれており、来年のU-20ワールドカップを目指す冨樫剛一監督のU-19日本代表にも招集されている。そうした環境で同世代や少し上の世代、国際試合での刺激も受けながら、成長を感じさせる1年となったのではないか。
フィジカル的な強さと状況を打開していく行動力には目を見張るものがあったが、シーズン当初は粗削りな部分も見られた。やはり高卒ルーキーの選手をいきなり中盤の主力として起用するには指揮官の英断が必要だろう。アルベル監督の言及も踏まえて、松木がここまでの時間プレーした理由は大きく二つあると考えられる。
一つは当然ながらアルベル監督が松木の才能を高く買っており、現時点での課題を許容しつつ、試合に使いながら伸ばしていこうとしていること。もう一つは指揮官がFC東京で新しいスタイルを植え付けるプロセスで、松木の特長がチームにとって必要だということだ。
「彼を起用し続けるのは、彼には明るい未来がある。日本サッカーの将来を担う選手に育つ可能性があるからです」
そう語るアルベル監督だが、戦力としての必要性も出場時間のベースにある。アルビレックス新潟で2シーズン指導した経験もあり、いきなりポゼッションをベースに自分たちからボールを動かして攻め切るサッカーが、FC東京で実現できるという楽観視はしていなかった。そうした中で中盤のダイナミックさはチームを成長させながら、同時に勝ち点を伸ばしていくカギになったのだ。
実際、シーズン序盤から夏までは、松木と同じく機動力に優れる安部柊斗がインサイドハーフでのファーストセットとなっていた。ただ、もちろん彼らが今保持する“機動力”という強みに頼るだけではチームとしての伸びしろがない。「ボールを家族や恋人のように愛しなさい」というアルベル監督のサッカーを浸透させていく中で、松木もそのスタイルにふさわしいスキルと戦術理解を深めていく期待がセットになっての起用だったと考えられる。
■フィジカル的な要素以外のストロング
Hiroto Taniyama松木といえば、180cmのサイズがあり、高校時代から鍛えた運動量とコンタクトの強さ、左足のキック力などフィジカル的な要素に目が行きやすい。だが、もう一つのストロングは、課題認識の強さだ。U-21日本代表の大岩監督は松木についてFC東京で継続的に出場し、そこで見せているクオリティを認めながら「向上心が武器だと思う」と語っていた。
前向きに乗り越えていこうとする意識は松木自身の言葉からも感じ取ることができる。5月に行われたU-21日本代表の国内合宿で、最終日に全日本大学選抜と対戦した。35分ハーフの前半に出場した松木は4-3-3のインサイドハーフから存在感のあるプレーを見せたが、得点を奪えず。後半のメンバーが2失点して敗れた。試合後、松木は「勝ち切ることができずに悔しい」と前置きしながら、自分の明確な課題をあげた。
「自分自身は得点を重視して今季はやっていこうと決めた。攻撃のバリエーションのところで、もっと良いアクセントになれたら」
シーズン当初はコンタクトプレーが目立っていたが、試合を重ねる中でポジショニングに工夫しながら、よい位置で受けてボールを味方に通す、パス&ムーブが身に付いてきた。そうしたプレーの改善はファウルや警告の傾向にも表れている。デビュー5試合目となる4月2日のJ1第6節・横浜F・マリノス戦で2枚の警告をもらい、プロとして初めて退場処分を受けた。
アルベル監督も適切ではないプレーがあったことを認めたが、出場停止明けとなる第8節・浦和レッズ戦で復帰して以降、警告は2枚にとどまっている。もちろん局面のコンタクトの強さは武器としながらも、攻守すべてでガツガツしていたところから、メリハリが出てきている。そこからタイミング良くゴール前に飛び出して行くシーンも増えた。松木の飛び出しは対戦相手にとっても少なからず脅威だろう。
8月27日の第27節・柏レイソル戦ではFWディエゴ・オリヴェイラのクロスにファーで合わせる形からゴールを奪い、シーズン2得点目を記録した。この先制弾をきっかけに、チームは6-3で勝利したが、アルベル監督は松木の将来性を強調しながら「今日は失ってはいけないボールを3、4回失ってしまう場面があった」と苦言を呈した。
積極的にゴールを狙う姿勢を続けながら、チームの心臓として攻守にリズムと安定感をもたらしていくことが同時に求められる。非常に難しいポジションだが、だからこそやりがいもあるだろう。今季は2得点3アシストを記録したが、クロスバーに当たる惜しいシュートなどもあった。松木自身、武器である左足のミドルシュートから得点を奪えなかったことは、不満に思っているかもしれない。
19歳という年齢や高卒ルーキーとして見てしまうが、世界を見れば同じセントラルMFのジュード・ベリンガム(ボルシア・ドルトムント)がイングランド代表の主力としてカタールW杯の舞台で活躍した。来年はU-20W杯、再来年にはパリ五輪と世界での戦いも待つが、もちろん松木にとって、それらはゴールではないだろう。
素晴らしいルーキーイヤーとなったが、スタメンで起用されるとか、出場時間数が長いと言ったことは2年目の評価基準にはならない。23シーズンの松木には中盤の軸として、アルベル監督のスタイルをさらに高めて、多くの勝利に導く働きが期待される。FC東京の躍進は松木の飛躍とセットであるかもしれない。