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なぜEURO2024は“退屈”だったのか?現代サッカーを支配する「保守と恐怖心」、ファンの心をつかむスペイン

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■EURO2024は退屈?

スペイン代表の史上最多4度目の優勝で幕を閉じたEURO2024。7戦全勝、15得点4失点、クロアチア、イタリア、ドイツ、フランス、イングランドといった強豪を次々に撃破したラ・ロハは「今大会最高のチーム」と評価されるにふさわしく、タイトルを掲げるのは必然だったのかもしれない。

しかしスペインの躍動とは反対に、期待を裏切ったチームも数多く存在する。優勝候補筆頭とされたフランスは流れの中からたった1ゴールしか奪えず(計4点:オウンゴール2つとPK1つ)、前回王者イタリアは見せ場なくラウンド16で敗退。決勝に進んだイングランドも低調なプレーが続いたことで容赦ないブーイングとプレッシャーにさらされている。

以下に続く

スペイン大手紙『as』で副編集長を務めるハビ・シジェス氏は、そんなEURO2024を「楽観視することはできない」と危惧している。母国の優勝を称えつつも、「創意工夫より堅実さを重視する傾向は、EURO、ひいてはフットボールのエンターテインメント性を大きく削いでしまった」と断言する。その理由はどこにあるのだろうか?

文=ハビ・シジェス/スペイン紙『as』副編集長

翻訳=江間慎一郎

■“何でもない成功”ではなく…

スペインの4度目のEURO制覇は“何でもない成功”ではない。それはスペイン国内でも、国際的にも、だ。彼らはこれまで保ってきたスタイルの本質を変えることなく、しかし、それをアップデートさせることで再び成功をつかんでいる。

スペインの“ティキ=タカ”は垂直性、縦の速さというこれまでとは別ベクトルのエネルギーを加えることで、再びサポーターの心をつかむとともに、フットボールシーンに新たなメッセージを発信した。眠気と危機感を覚えるようなパフォーマンスに終始したフランスやイングランドとの相対性に鑑みても、彼らの優勝には確かな意義があったのだ。

■「保守の波」

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フットボールの面白さ、未来の明暗という観点において、今後のEUROがどうなっていくのかは分からない。しかし今大会を振り返ると、スペインに続くようなチームが現れない限り、楽観視することはできなそうだ。

世界を飲み込もうとしている「保守の波」は、フットボールにまで到達している。選手たちはフットボーラーというよりもアスリートとしての特徴が強調されるようになり、戦術はより閉じられたものになった。今回のEUROで、スペイン以外で勇敢さや創造性を発揮したのはオーストリア、トルコ、ドイツなど、ごくわずか。彼らは“異なるフットボール”がまだ失われていないことを示したが、しかしながら、全体を見渡せば未来は決して明るくはならないように感じる。

創意工夫より堅実さを重視する傾向は、EURO、ひいてはフットボールのエンターテインメント性を大きく削いでしまった。今は何よりも、恐怖心がこの世界を覆っているのだ。多数のチームが敗北を恐れて、その感情がゲームプランやスタメンを味気ないものにしてしまっている。

ディディエ・デシャンのフランスが、準決勝スペイン戦で中盤にオーレリアン・チュアメニ、エンゴロ・カンテ、アドリアン・ラビオを並べて敗れたのは、彼らが一体どういうチームかを(悪い意味で)物語っている。ガレス・サウスゲートのイングランドがフィジカルと慎重さを重視するあまり、アレクサンダー=アーノルドやコビー・メイヌーの起用を優先し、デクラン・ライス&ベリンガムを並列させてコール・パーマーを使わなかったこともそうだ。両チームはこの時代のフットボールの輪郭を見事なまでに浮き彫りにした。

つまるところ現在のフットボールは、「クリエーション(創造性)」よりも「トランジション」と「リアクション」に大きく傾いているのだ。求められる選手像についても個々のクオリティーは二の次となり、スピードと体の強さに優れ、何度も繰り返し走ることができるかが良し悪しの基準になりつつある。

■娯楽としての魅力

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この潮流の真っ只中で、中盤はプレーを創造する場ではなく、フィジカルとフィジカルがぶつかり合う場と化している。今回のEUROで、スペインなどを除けばボールは中盤をほぼ経由することなくDFとFWのラインを行き来していたが、そこには2つの理由が見受けられた。一つはトルコやオーストリアのように素早く、直接的にアタッキングサードにボールを届けるため。もう一つは後方からボールをつなごうとしても、相手のフィジカルの壁に阻まれてつなぐことができない(つなぐアイデアがない)ためだ。後者に当てはまったのはポルトガルやオランダ、そしてイングランドである。

問題が大きくなるのは、DFラインからほとんどボールを前に出せないか、攻撃の意思が見せかけだけのときだ。前に進むことができなければ、ポゼッションをしている意味などない。ありとあらゆるチームが積極性を忘れて、消極性をプレーの基軸にするならば、もうこのスポーツはおしまいだろう。今回のEUROはそんなチームばかりで、チャンスを生むためにリスクを冒す意思や試みは、ほとんど見られなかった。

すべてのチームが保守に傾くのはよくない。試合の流れに関係なく、自らの意思でそれを選択するならば、なおさらだ。フランスやイングランドは世界中がそのプレーを楽しみにしているチームであり、勝利や成功だけですべてを正当化できるわけではない。なぜなら、フットボールに必要なのは娯楽としての魅力であり、つまらないプレーではないからだ。結果を手にすることは常に魅力的だが、面白いと感じられるプレーがなければ人は退屈して、心が動かなくなってしまう。誰もリスクを冒さなければスペースはなく、すべてがより見え透いた、味気ない試合しか展開されない。

選手の才能の発現にしたってそうだ。フットボールは学術的に進化を果たしており、プレーモデルの構造がさらにがっしりしているから、個の才能を発揮するのは難しい。発揮できるのは散発的であり、継続性はほぼ持つことができない。子供が憧れる選手も、真似したいプレーも失われていく。

■“フットボール”

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今回のEUROは大まかに言えば、興奮する試合が少ない、しみったれた大会だった(日本から見守った人にとってはより眠気を誘うものだったろう)。とはいえ、より多彩なプレーを見せられるチームの方が、優勝の可能性が高いと気づかせる大会にもなっている。

ボールを持って主導権を握り、プレッシングを一切怠ることなく、カウンターなど縦に速い攻撃も強みとするチーム。創造性と垂直性を混ぜ合わせ、あらゆる意味でコレクティブで、喜びのためにプレーする多様性のチーム……。今回のEUROではほんのわずか、少数ではあるものの、現代フットボールのモデルケースとなるべき存在が姿を現している。

面白みのないEUROではあったが、正当な王者を持った大会でもあった。王者は、スペイン以外にあり得なかったのだ。彼らはどこよりも“フットボール”をプレーしていた。誰よりも上手くプレーしていた。それだけでなく問題の解決能力、成熟ぶりも文句の付けようがなかった。フットボールでもどんな勝負でも、勝利は必ずしも正しさを証明するものではない。しかし正しさが報われることもあると、今回のスペイン優勝は教えてくれたのだ。

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