2022シーズンのJリーグがいよいよ開幕する。今年11月にカタール・ワールドカップが開催される関係で、カレンダーが全体的に前倒しとなる中、一番手を飾るのは、2月18日の“金J”多摩川クラシコだ。
昨シーズン、主力を海外移籍で欠きながらも連覇を果たした絶対王者・川崎フロンターレの独走を、今シーズンからアルベル監督が指揮を執るFC東京は止められるのか。新しい東京の屋台骨を支える中盤となりそうな東慶悟と安部柊斗が今シーズンの変化から開幕戦展望についてまでを語る。(聞き手=後藤 勝)
■アルベル監督がもたらした変化
2018年から4シーズン、チームを率いた長谷川健太元監督(現・名古屋グランパス監督)から、スペイン・カタルーニャ出身のアルベル監督への指揮官交代。監督が変わればサッカーも変わる。1月中旬の始動からキャンプを経たいま、選手自身はどんな変化を感じているのだろうか?
東「今シーズン一番変わったのは、ボールを大事にするところだと思いますね。長谷川健太前監督の4シーズンでファストブレイク、縦に速いサッカーをやってきましたが、アルベル監督はどちらかというとボールの保持率を上げて守備の時間を減らすというスタイルなので、真逆といえば真逆です」
安部「監督は『ボールを愛する』という表現をよくされていて、試合の7割はボールを持ちたいとおっしゃっている。でもやっぱり勝ちにはすごくこだわっているので、ボールを回すだけじゃなくて前に進めようということも言っています。ポゼッションだけじゃなくて、ゴールを狙うポゼッションをしていくという感じですね」
東「監督の考えとしては、外回しをしながらでも相手の陣形は崩れるので、それで徐々に押し込んでいこうと。無理したパスというよりは、相手を走らせて外回しでもボールを回す。今はそうやって『ボールを取られない』ところをまず意識してやっています」
アルベル監督ならではの、独特のこだわりがある。監督が重視するツボがなんなのか、それによってどういうサッカーになっていくのか、選手たちはそこに気づきはじめているところだ。
Getty Images安部「今までサッカーをやってきたなかで、練習中に(プレーを)止めて指導されるという経験をしてきませんでした。そこも昨シーズンまでとは大きく違います。アルベル監督は僕がプロになって3人目の監督ですが、これまでは全体を流しながらのトレーニングが結構多かったので、そこも新鮮です。一回一回止めて、しっかり細かいところまでこだわる監督なんだな、ということをキャンプに入ってから感じています。勝負にこだわる、勝つためにはそういった細かいところからやっていくことが必要なんだと、あらためて感じています」
東「やっていることはシンプルなんですけれど、そこに監督のこだわりがあるんです。8対8や、8対8プラス3、7対7プラス3というメニューをトレーニングでやるんですが、普通にやれば多分、ボールは回るんです。でも、その中でもテンポの良さが求められますし、そのことによりダイレクトのパスが増えたりします。要求が高いので、そうすると難易度も高くなる。それをみんなができるようになれば、本当にすごくいいチームになると思うし、個人の技術も上がると思います」
安部「監督が(プレーを)どこで止めるか、どういうプレーをしてはいけないのかというのも大体は分かってきました。(足元で)コネたりするのは本当に嫌いで、『ワンタッチですぐつけろ』と言われます。テンポをすごく大事にする監督です」
東「たとえ選手が通したパスがつながったとしても、監督にとっては『そこのゾーンでのそのパスは、チームとしてはミスだよね』という場面が結構多いんです。そういった、ポゼッションからスタートすることにあたってのルール、あとはテンポもそうですし、パススピードについてはかなり厳しく言われます。そこで違いを見せて相手を圧倒したいのだと思います。ただ、そこはまだまだ時間がかかりますし、試合では相手もいることなので、それを上回れるようにトレーニングを積んでいくだけだと思います」
安部「きれいに崩して展開するシーンはまだそこまで多く出せていません。『ああ、この崩し楽しいな』と感じられることはまだ少ないです。でも、みんなでどうやって回していくかを統一して剥がすことができれば、楽しくなってくるサッカーなんだというのは感じます」
■今季に懸けるそれぞれの覚悟
Hiroto Taniyama新たなサッカーに取り組むチームの中で、昨シーズンまでキャプテンを務めた東が、いち選手としての輝きを取り戻しつつあることは朗報だ。今年で32歳。アルベル監督も「10番」の資質を持った選手として東を認めている。ただ、ここに至るには多くの葛藤があった。
東「僕が初めてキャプテンになったときはすごく新鮮でした。もともと僕はそういうタイプじゃなかったので。でも、そんな僕がチームのためにやる姿、それがみんなにとっていい刺激になってくれたらいいなと思って3シーズン務めてきました。でも、それは3シーズンも経つと当たり前になりますし、それによる刺激もなくなっていることも感じていました。また、新たな監督になったときに、僕もいち選手として、いろいろチャレンジしたいという想いもありました。だからシーズンが始まる前に監督に呼ばれて『キャプテンを代えたい、チームとして新しい刺激を入れたい』と言われたときには素直に受け入れることができました」
チーム自体が苦しんだ昨季はキャプテンとして矢面に立ち、多くの批判を一身に受け止めた。辛いことではある。しかしそこまで含めてやり切ったことで、FC東京も、東自身も次のステージに向かうことができる。そしてベテランの魂は、新しい世代に受け継がれていく。
東「批判を受けることも含めてキャプテンだと思います。チームの調子が悪ければそういうふうに言われますし、逆にチームがいいと『キャプテンいいな』と、やっぱり言われて(笑)。優勝争いをしているときには『キャプテンがいいからあそこまで行った』とか、よく言われていました。でもそんなことはなくて……。そんなふうに、よくも悪くもキャプテンとして立つことが僕を成長させてくれていると思っていました。キャプテンを3シーズンやって本当にいろんな経験をしたので、ぜひ柊斗にもほかの選手のお手本となるよう頑張ってほしい。チームを引っ張る立場になるとまた違った景色が見えて、選手としても人としてもすごく成長できると思う。今年25歳?」
安部「今年25歳です」
東「さらに成長するために、そういう刺激もあれば。もちろんプレッシャーにもなるし、いろいろと大変な想いもするでしょうけど……。今はキャプテンを森重選手がやっていますが、もっともっと若い選手が出てきてチームを引っ張っていくことがすごくチームにとっても刺激になると思います。期待したいですよね」
安部「下からの突き上げと言いますか、そういう若い力の、先輩たちを追い越すようなプレーであったり、行動であったりというのはチームにとっても必要になってくると思います。自分もしっかりと責任感を持って、日々行動していきたいと思います」
■王者・フロンターレにいかに戦うか
Getty Images生まれ変わった東京。自分たちがまだ変革を始めたばかりで未熟であることは十分分かっている。そして川崎FはJリーグ史上かつてない隆盛を誇っている。それでも勝負を諦めてはいない。開幕“金J”に懸ける想いとは。
東「僕たちは今、練習試合をやっている中でも、ボールを奪われた後の素早い切り替え、ショートカウンターというこれまでの4シーズンで身につけた攻撃で点を取れていることが多い。そこを活かしながら保持率も上げていくということに今チャレンジしていて、そこはフロンターレ相手でもかなりやれるんじゃないかなと思っています」
安部「球際、局面で勝つ自信、ボールを奪い切れる自信はあります。でも川崎はうまいので、せっかく球際の局面を作ってもそこで負けてしまうと、また剥がされて前に運ばれてしまいます。しっかりと局面では勝ちたい、勝たなきゃいけないと思っています。フロンターレはやりたいサッカーを統一していて、誰が出ても勝てるというのは強さの証だと思う。(明治大学の同期で今季横浜FCから川崎Fに移籍した瀬古)樹もすごくいい。川崎らしい、川崎に行って活躍できると思うようなプレースタイルを持っています。もし自分も出て、樹も出るなら、すごく楽しみなマッチアップになると思います」
東「東京ファンも含め、見ている人は『今年の東京はどういうサッカーをするの?』という視点で、しかも開幕戦で注目していると思います。そこで『今年の東京、いいね』と思ってもらえるような試合にしたいですし、そこがポイントなのかなと。一方でフロンターレ戦がすべてでもありません。東京は今、首都・東京らしいサッカー、魅力的なサッカーをめざしています。その第一歩が多少なりともいい方向に行ってほしいなと思っています」
安部「そうですね。川崎に勝てればすごくいい一歩を踏み出せると思うんですけれど、勝負事なので勝つか負けるかは分からない。でも、負けたとしても悪くない方向には持っていきたいです。今年は連戦で、すぐ次の試合が来るので、一歩一歩、歩んでいくしかない。みんながいい一歩を切れるようにやっていきたいですね」
【試合情報】
2022明治安田生命J1リーグ開幕戦
川崎フロンターレ vsFC東京(等々力陸上競技場)
2022年2月18日(金)19時キックオフ/DAZNにて独占ライブ配信