■セルビアは守備的な布陣
「今回の2試合(ジャマイカ戦と日本戦)はどんな結果が出るかはさほど重視していませんでした」とドラガン・ストイコビッチ監督。半分はプライドもあるかもしれないが、吉田麻也や大迫勇也などを欠く日本に比べても、セルビアは選手層の底上げが目的になる布陣だった。
ジャマイカ戦と異なるのは前半から3バック(守備時は事実上の5バック)で守備を固めてきたこと。意外だったのが攻守の要であるネマニャ・グデリのポジションで、配給役が右のウイングバックに入ることで、4-2-3-1の左サイドを担う南野拓実を守備で難しい状況にさせていた。
守備は前半から「縦に深いボールを、パスを出させないよう」と言う監督の指示通り、リベロのステファン・ミトロビッチを軸に横パス、バックパスを多めに出させていたが、攻撃で主力を欠くFWは植田直通と谷口彰悟のCBコンビに跳ね返されるシーンが多く、なかなか有効な起点になれなかった。シュート4本という結果の通り、守備面より攻撃面で物足りなさの残る試合だった。
しかし、ストイコビッチ監督は「今回のこの試合で代表デビューだった選手が何人かいたことです。そういう若手にチャンスを与えることができた」と収穫を挙げている。
■日本の課題は攻撃の精度
(C)Getty images日本は5バックのセルビアに対して高い支配率を記録したが、効果的な縦パスがほとんど通らず、裏でもらおうとするFW古橋亨梧へのロングボールも合わないか、ファーストコントロールが大きくなってボールロストしてしまった。
セルビアが効果的な縦パスを入れさせないことを目的とした守備陣形を敷いていたこともあるが、CBからボランチ、ボランチからトップ下の南野拓実と鎌田大地のところに入らず、ボランチの外側でボールを受ける形から何度か起点はできるものの、中央の3バックが動いてくれないので、最後は強引に点で合わせにいくしかない攻撃になってしまった。
相手の5-4-1という布陣の中で守田英正、橋本拳人、鎌田に左の南野拓実を加えた4人のところで数的優位は作りやすい状況だった。そこでフリーになる選手がうまく前向きにボールを持って右サイドの奥で伊東純也に通す、あるいは右側に相手の守備を引きつけてから左のオープンスペースに長友佑都を走らせるようなシーンを作っていければ、結果的に中央を開ける流れを作れたかもしれない。
後半は前線にオナイウ阿道、中盤に川辺駿を投入して攻撃の意図が明確になり、前めに起点を作って厚みのある攻撃が何度も生まれた。伊東純也の決勝点となったCKを取ったのは、川辺からボールを受けた室屋の仕掛けからであり、勢いがそのままゴールとなって表れた。
ただ、オナイウのゴールがオフサイドの判定に泣いたシーンがあったものの、後半明らかに攻撃の流れが良くなった中でもう2つ3つは決定的なシーンを生み出したかった。前半よりも意図が感じられた攻撃の中でも精度はもっと上げていく必要がある。
■アピールに成功した4人の選手
(C)Getty images今回の収穫は国内組から谷口、川辺、オナイウという最終予選でも重要な戦力になりうる複数の選手がアピールしたこと。谷口は一対一を含めて守備面でほぼ危なげなく、得意のビルドアップも安定していた。おまけにCKからニアでフリックして伊東のゴールをアシスト。J1の首位を走る川崎フロンターレのDFリーダーの面目躍如だった。
決勝点つながるCK獲得の起点になった川辺は初スタメンだったタジキスタン戦よりも、明確な狙いを持って入れたこともあり、中盤の底から積極的に前向きなパスを通してセルビアの守備を押し下げた。目を見張るのは正確なサイドチェンジで、兄貴分の青山敏弘を彷彿とさせる軌道と精度のボールを通すことで味方が前を向いて持てる状況を作り出していた。これは日本のボランチに不足していた要素で、欧州組が主力を占めるボランチに割って入るだけの資質は示した。
もう一人、評価したいのが追加招集のオナイウだ。森保監督も「トップでボールを収めてくれたり、背後に出てくれたり、横浜F・マリノスでもやっている守備の部分も普段から彼がやっていることを代表の中でも自然と出してくれた」と高評価するように、相手を背負いながらボールを収めたり、迫力あるチェイシングでセルビアのパスミスを誘ったりとチームを前向きにさせてくれた。
速攻から伊東とともに抜け出してゴールネットを揺らすも、オフサイドの判定で取り消されたことは残念だが、Jリーグで自信を付けて臨んだことプラス、追加招集という失うものが無い立場から突き上げを示してくれた。最終予選で大迫勇也が前線の大黒柱であることに変わりはないが、浅野拓磨や古橋に加えて鈴木武蔵、鈴木優磨など、国内外に多くのライバルがいる中でも森保監督を良い意味で悩ませる材料を与えたのではないだろうか。
また、海外組では決勝点の伊東純也や鎌田大地はアピールという意味では今さら挙げるまでもないが、右SBで先発した室屋成は前半のあまり良くない流れの中でも右サイドから伊東とともにチャンスを生み出し、後半にはゴールにつながるCKを獲得。さらに評価したいのは守備の強度で、攻撃のキーマンである左WBのアレクサ・テルジッチにほぼ何もさせなかった。また、ミスから植田が裏を取られたシーンでも迅速なカバーで救うなど、特筆に値する出来だった。
取材・文=河治良幸