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内田篤人の変化と葛藤。親から子へ紡ぐ継承の物語

内田篤人が引退する。鹿島との契約は31日で終了。来る23日の明治安田生命J1リーグ第12節・ ガンバ大阪戦が現役ラストマッチとなる。Jリーグで、ドイツで、日本代表で、そして鹿島で。確かな足跡を残してきたフットボーラーがスパイクを脱ぐ。【文=池田博一/記事提供:DAZN NEWS

■10代後半。先輩の背中を追った

 

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以下に続く

 お父さん、お母さん、お兄ちゃんのような存在がいた。普段から若手にも気遣ってくれるお母さんのような存在の本山雅志がいて、プレーは背中でピッチ外ではいたずら好きのお父さんのような小笠原満男がどっしり構える。

 おかしなことがあれば正してくれる曽ヶ端準。何かあれば間に入って相談に乗ってくれる優しいお兄ちゃんのような中田浩二。いつもはいじられてばかりだけど、いざとなればそっと胸にしまっておきたくなる大事な言葉をかけてくれる新井場徹。ピッチ内ではすぐ左隣に一つひとつを口すっぱく指摘してプレーを正してくれる岩政大樹がいた。

 みんなの背中が何より頼もしかった。

「子はときに親に教わり、親はときに子に教わる」。親子関係において使われるフレーズの一つだ。在籍した最初のアントラーズでの3年半は、ときに厳しくも温かい家族のような雰囲気があった。

 まるで家族のような雰囲気とはいえ、そこはプロの世界。ピッチでは妥協がない厳しい競争があった。2006年に鹿島へ加入してからというもの、先輩の背中を必死で追いかけた。チームのことよりも自分のことで精いっぱいだった。そんな内田篤人がガムシャラに走り続けて学び、感じたことがある。

「アントラーズでは、勝たないと何も意味がない。どんなにうまくても、勝てる選手でなければ評価されない。だから、まずはチームが勝つために何ができるかを考える。それをとにかく徹底する。チーム全員が同じ方向を見て、それぞれがしっかり働かないと勝てないことは分かっている。だから新加入の選手を始め、チームメートに誰もが手を差し伸べるんです。だってみんな優勝するためにやっているんだから」

 2006年にクラブ初の高卒新人で開幕先発出場。17歳11カ月で決めたゴールはクラブ最年少記録であり、今も破られていない。2007年にリーグ戦と天皇杯、2008年と2009年でリーグ戦でタイトル獲得。史上初のリーグ3連覇を成し遂げた。翌4年目の2010年7月にはドイツのシャルケ04へと移籍。2010-11シーズンのUEFAチャンピオンズリーグではベスト4入りするなど、世界のトップレベルでもまれた。

「海外で経験を積んで、帰ってきてチームに経験を伝える。それが最高の恩返し」と話していた内田は2018年、鹿島へと戻ってきた。

■年齢を重ね、変化した立ち位置

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 7年半ぶりのチームは、かつてと同じ練習場、クラブハウス、ロッカールーム。だが、アントラーズというファミリーにおいて、年齢を重ね、ヨーロッパで経験を積んだ彼の立ち位置は大きく変わっていた。

 プライベートでは家庭を持ち、子を授かった。見る映画のジャンルが、家族ものを選ぶようになった。「自分も子どもができて感性が変わってきているのかも」と、父親となった後の変化を楽しんでいる姿もあった。

 気づけば、公私ともに親の目線になっていた。若かりし頃の自分と重ね合わせ、若い後輩選手たちを見るようになった。そこには学びもあった。

「昔よりも練習が楽しいんですよね。若い選手と練習するのがうれしい。みんなから刺激を受けるし、何よりかわいくって。こいつはいいものを持っているな、今は悩んでいるけど考えさせたほうがいいかな、とか。俺も年を取りましたから。自分は周りの人に恵まれた。岩政さん、野沢(拓也)さん、満男さん……。入ったばかりの頃は、周りの人に助けられた。自分たちもそういう役割をしなければって」

 先輩についてプレーしていた姿から一変、大声で練習を盛り上げ、若手にアドバイスを送るようになった。

 後輩との距離感も、当初は「なんか自分からは言えないんですよね」と出過ぎない控えめさを持ちつつだったが、周りが放っておかない。初めは遠慮がちだった若い選手たちが、だんだんと意見を求めてくるようになった。「聞かれれば答える」という距離が、だんだんと「ご飯に連れて行ってください」と言われるようになり、「それも含めて楽しい」と頬をゆるめた。

 だが、次に出てくる選手たちの成長を見る楽しみが大きくなっていく裏側で、自身のプレーや責任の葛藤も生まれていた。

 2015年の右ひざ手術で復帰まで1年9カ月を要した影響が残り、ケガを繰り返して思うようなプレーができず、一人のサッカー選手としては苦しい時期が続いた。さらに2018シーズン終了後、これまでチームを牽引してきた小笠原満男が引退。翌2019シーズンはキャプテンという重責を担い、伝統の継承を心に誓った。

■この空気感や伝統を終わらせたくない

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「これだけ選手の入れ替わりが激しくなっている中、アントラーズであり続けたのは満男さんやソガさんがいたから。俺もそういう存在にならないといけない。この空気感や伝統を終わらせたくないという思いがある。アントラーズの伝統をつないでいくことの必要性はヒシヒシと感じるし、しっかり受け止めています。だから、その意味では立場や責任が今の自分を奮い立たせてくれている」

 アントラーズ復帰後、「あいつらはもっとやれる選手だよ」と繰り返し期待を口にしていた鈴木優磨、安西幸輝、安部裕葵は、内田から多くを吸収して成長を積み重ね、海外へと羽ばたいていった。

 そして今シーズンから加入したルーキーが、早くも飛躍を遂げつつある。プロ1年目の荒木遼太郎、松村優太、染野唯月がすでに公式戦でゴールを記録。チームでも戦力として計算できるようになってきた。10代の選手が一年目からこれだけの存在感を見せるのは、まさに内田以来のことだ。

「伝えられることは伝えておきたい」。コロナ禍で機会が限定される中でも、気になったことは練習中に呼び止めて声を掛け続けた。プロとして長く続けるための取り組み、体を強くする大切さ、キックの種類、立ち位置で守る方法……。シーズン当初に長くリハビリをともにした染野は、内田から「プロのサッカー選手として体の大切さを学んだ」という。

 子が親となり、その血を受け継いだ子たちがまた大きく羽ばたこうとしている。

 8月20日、突然の引退発表が世界中を駆け巡った。ラストマッチとなる8月23日のガンバ大阪戦後には引退セレモニーも予定されている。どんな最後になるかは分からない。でも、彼の目標は変わらないはずだ。

「すべては勝利のために」

 そんな覚悟で最終戦に臨むであろう彼の最後の勇姿を見届けたいと思う。アントラーズの未来につながる、内田篤人の薫陶を受けた若手選手たちの活躍とともに――。

文=池田博一/記事提供:DAZN NEWS

◎内田篤人の思考を知る。インタビュー「葛藤と発見の先に見据える完全復活への道」はこちら

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「※」は提携サイト『 Sporting News 』の提供記事です
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