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三笘薫は相手を“ぶち破る”ドリブルだけじゃない!「日本人選手の定説を覆した」世界屈指のWGを徹底分析

三笘薫にとって、ブライトンでの3シーズン目は上々のスタートを切ったと言っていいだろう。

31歳のファビアン・ヒュルツェラー新監督の下でプレミアリーグ開幕戦のスタメンに抜擢され、エヴァートン戦(3-0)でクラブのオープニングゴールを決めただけでなく、アシュリー・ヤングの退場も誘発。続くマンチェスター・ユナイテッド戦(2-1)でも先制点をアシストし、強豪の撃破に大きく貢献した。開幕2試合で1ゴール1アシスト。得意のドリブルはもちろんだが、ピッチ上でより試合を決める存在に成長しつつある。

そんな27歳の日本代表ウィンガーについて、これまで長年にわたって海外で活躍する日本人選手や日本代表チームを分析してきたスペイン『as』副編集長のハビ・シジェス氏は、「日本人選手の定説を完全に覆してしまった」と手放しで絶賛する。三笘が開幕2試合で見せた進化、そして「ドリブルだけじゃない」プレーの本質の部分を紐解いていく。

以下に続く

文=ハビ・シジェス/スペイン紙『as』副編集長

翻訳=江間慎一郎

■この日本人は、すごい

まだ第2節を終えた段階で早計と思われるかもしれない。しかしブライトンは間違いなく、今季のプレミアリーグでもサプライズチームとなるだろう。

彼らがマンチェスター・シティ、アーセナル、リヴァプールと首位の座を分け合っているのは、もちろん2億5000万ユーロを超える今夏の選手補強のおかげでもあるが、それにしても彼らのプレーはシーズンを追うごとに着実に魅力を増している。若き才能を集めて実践するその攻撃的スタイルは、まさに見応え十分。とりわけ三笘薫のような選手にとってブライトンはまさに理想的な居場所であり、逆に三笘薫のような選手によってブライトンはその価値をさらに引き上げている。

ケガとアジカップの影響によって、昨季後半戦は姿を消した三笘だが、今季はこれ以上ないスタートを切った。この日本人は、すごい。華々しく、努力を惜しまず、あきらめず、単独でも試合を解決してしまえる力がある。エヴァートンとマンチェスター・ユナイテッドとの対戦では、三笘のそうした特徴と成長が反映されていた。

■“ドリブルキング”と“オフ・ザ・ボールキング”

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三笘を分析するときに焦点が当てられるのは、いつだってそのドリブル突破である……まあ、無理もないことだろう。現在のフットボールシーンを見渡して、彼ほどの突破力を有する選手はほとんどいないのだから。三笘はボールを止めたところからでもパスに走り込んでも、抜群の緩急と卓越したテクニックでもって、相手の守備網を言葉通り“ぶち破る”のだ。

以上のようなの長所は、三笘の分析で必ずと言っていいほど記されることだが、しかし彼はドリブル突破だけの選手ではない。現在のフットボールシーンを見渡して、彼ほどにオフ・ザ・ボールの動きが素晴らしい選手もほとんどいないのだから。こちらの長所についても、決して軽んじてはならない。自分が立つべき位置、マークを外すべき位置を理解するセンスと嗅覚は、ほかの選手が存在すら知らない扉を開く鍵であり、現にエヴァートンとユナイテッドはその扉を自由に出入りする三笘に苦しめられたのだった。

プレミア開幕からの2試合で、三笘が与えた衝撃は凄まじかった。別にプレーの関与数が多かったというわけではないが、散発的ながら誰よりも決定的な存在だったのだ。

エヴァートン戦では集中力と注意力を発揮して、右サイドからのクロスボールを押し込んで今季初得点を記録している。ボールを持ち上がって攻撃の起点にもなった彼は、右サイドにパスを出した後も前へ走り続けて、ペナルティーエリア内左にきっちりと詰めていた。またユナイテッド戦でも同様に、三笘はボールが流れてくれば相手にとって致命的となるペナルティーエリア内左にポジションを取り、実際流れてきたボールを折り返してダニー・ウェルベックのゴールをお膳立てしている。

三笘の洗練された動きのレパートリーは、得点シーンのものだけにとどまらない。エヴァートン戦ではヤングの退場を誘発したが、その動きも格別だった。ヤングが胸トラップしたボールを一瞬の加速で奪うと、そのままゴール方向へ。ああなっては三笘を止めることはできず、39歳のDFには引っ張る以外の選択肢がなかった。

三笘はそのほか、サイドに開く、後方に下がってパスを受ける、ビリー・ギルモアやマッツ・ウィーファーと向かい合い連係する、ジャック・ヒンシェルウッドがオーバーラップするスペースを空ける……といった動きやタスクを常に意識しており、なおかつジョアン・ペドロやウェルベックと動きが重ならないようにも気を配っている。単純なことで言えば「外に張る or 内に切れ込む」、「味方を生かす or 個人技を駆使する」という判断が素晴らしく、ブライトンにとってはどこまで行っても“プラス”や“ポジティブ”でしかない存在だ。

“ドリブルキング”であるだけでなく、“オフ・ザ・ボールキング”でもある三笘は、対戦相手にとって極めて対応が難しい選手だ。その広範なプレーレパートリーによって、一体何をするのか、まったく予測ができない。たとえ逆サイドでプレーが展開されていても、彼は自分の出番を虎視眈々と待つことができる。ユナイテッド戦のように、ボールが届けば相手にとって致命的となる場所を感知し、そこでどんなボールにも対応できるよう心構えをしている。加えて、数少ない弱みと言えた守備の改善も素晴らしい。エヴァートン戦のゴールについても、三笘自身がハリソンからボールを奪って、カウンターの機会をつくっていた。

■世界のフットボールの頂に立つために

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三笘は成功をつかんでいるブライトンの原動力と言える存在だが、ビッグクラブに所属していてもその重要性が変わることはないだろう。現在のフットボールシーンにおいて、ウィングの存在は大切だ。それはEURO2024優勝を果たしたスペイン代表にラミン・ヤマル&ニコ・ウィリアムズ、ラ・リーガとチャンピオンズリーグの二冠を達成したレアル・マドリーにヴィニシウス・ジュニオールがいることからも理解できるだろう。そしてヤマル、ニコ、ヴィニシウス、そして三笘のようなレベルのウィングは、世界を見渡してもそうはいないのだ。

三笘は彼個人で名声を獲得しているのと同時に、日本人選手全体にも名声をもたらしている。そう遠くない過去を振り返ると、欧州のクラブは日本人選手には競争力がないとみなして、獲得するのを躊躇していたものだ。ボールを扱う技術(と金を呼び込む力)はあっても、フィジカルや性格・意思の強さが足りていない、と……。しかし三笘のような選手が、そうした定説を完全に覆してしまった。

ドリブルを止めるのが難しく、クロスの質も素晴らしく、ペナルティーエリアでは常に危険……。それが三笘という選手であることは間違いない。が、彼は決してそれだけの存在ではない。

現代フットボールでは、ボールの有無に関係なく戦術的なタスクもこなす必要がある。ボールを持っていない選手も動かなければ、相手にすべてを予測されてしまい、勝利への道は固く閉ざされてしまう。

しかし、三笘は動いている。この日本人は知っているのだ。自身の成長のためには、日本のフットボールのためには、世界のフットボールの頂に立つためには、絶対に歩を止めてはならないことを。

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