ドイツにあるレーゲンスブルクとヘルツォーゲンアウラハは、ともに知名度が非常に低い街だが、2つの街は100kmほどしか離れていない。前者は20万人ほどの人が住むユネスコの世界遺産に登録された街だが、スポーツに関する歴史は非常に少ない。後者は世界最大級のスポーツウェアブランド、アディダスの本拠地だ。
そして2015年、アディダスの有力者たちはレーゲンスブルクまで足を運び、この街の最も才能ある住人との契約を熱望した。
10歳にして、ケナン・ユルディズはスポーツブランドと契約した最年少のサッカー選手となった。
それから7年が経ち、アディダスが彼の成長を待てなかった理由が明らかになりつつある。
ユルディズはアディダスと契約する前に、バイエルン・ミュンヘンで3年間活動している。巧みなコントロールと簡単に相手を抜き去る能力で、スカウトの注目を集めていた。
ゲームメイクのできる10番として自身の立ち位置を築いたユルディズは、メスト・エジルにたとえられた。ユルディズがトルコにルーツを持つことも、エジルと比較される一つの理由だ。
バイエルンでは、ユルディズは前線の後ろで2005年生まれのトリオの一角を担っており、他の欧州トップクラブがうらやむほどであった。トリオの一員であるパウル・ヴァナーはすでにトップチームに入っており、アリヨン・イブラヒモヴィッチもまたすぐに加わるとみられていた。
だが、ユルディズは他の道を選んだ。2022年初頭、ユルディズがバイエルンでプロ契約を結ばないことが明らかになると、欧州最大級のクラブが次々と群がり始めた。
バルセロナは何か月間もユルディズと契約を結ぼうと追っていたが、ユヴェントスが最後の瞬間にオファーを出し、結局この17歳は7月初旬にトリノへと向かうことを決断した。
ユルディズ移籍について、バイエルンアカデミーの責任者であるヨヘン・ザウアー氏は「私たちが袂を分かったのは、金銭的な理由からです」と明かす。
「ケナンがトップチームやチャンピオンズリーグでプレーするのを見れば、私たちは彼のことを誇りに思うでしょう。私たちがアカデミーでやってきたことが素晴らしい形で認められ、称賛されたことになるのですから」
外面的にはそう言うものの、バイエルンはトップレベルの若き才能を欧州のライバルに獲られてしまい、ひどく打ちのめされているに違いない。
この17歳にとっては、いくらかの問題が足かせになっていたのかもしれない。早い段階で成長期を迎えたため新しい体型に慣れなければならなかったり、コーチ陣の一人が人種差別的な言葉をユルディズに投げかけたことが告発されたりした。それでもユルディズは2021-22シーズンのバイエルンユースにおいて重要な選手だった。
ユルディズはこのシーズンをU-17でスタートしたが、最初の8試合で4得点5アシストを記録すると、16歳にしてU-19に昇格することになった。
少なくとも今シーズン当初はこのレベルに留まる可能性が高かったことが、ユルディズがバイエルンを去ることを決断したことにつながったと思われる。そして、移籍先のユーヴェでは完璧な形でキャリアをスタートさせている。
スイスで行われたFC AeschトーナメントでU-19チームの一員としてプレーし、ユルディズは大会最優秀選手に選出。バレンシアとの決勝戦では度肝を抜くハットトリックを記録した。
現在の目標はユーヴェのトップチームに加わることだ。だが、アカデミーの選手が他にどれほど待っているかを考えれば、それは今シーズン中には実現しそうにないことは理解できる。
だが、ユーヴェがユルディズと契約するために払った労力と、打ち負かしたクラブのことを考慮すれば、このクラブは明らかに、そう遠くない将来にトップレベルで違いを作れる選手を獲得したと信じているのだろう。
アディダスは、2015年にはその確信があったはずだ。そして今、なぜ彼らがそこまでしてケナン・ユルディズと契約しにいったのか、世界中の人たちがすぐに知ることになるだろう。