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Real Madrid Campeón UCLGetty Images

“欧州最高”ではなく“欧州最強”:運ではない「レアル・マドリー神話」を徹底分析

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チャンピオンズリーグ2023-24決勝
ドルトムント vs レアル・マドリー
2024年6月2日(日)午前4時00分キックオフ

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2日に聖地ウェンブリー・スタジアムで行われた2023-24シーズンのチャンピオンズリーグ決勝戦。ここ10年間で6回目の決勝進出を果たしたレアル・マドリーは、ブンデスリーガの雄ドルトムントと対戦した。

試合は前半はドルトムントペースで続き、レアル・マドリーは劣勢を強いられることに。それでもピンチをことごとくGKティボー・クルトワがストップすると、後半から主導権を握り始める。そして74分にダニ・カルバハル、83分にヴィニシウス・ジュニオールがネットを揺らし、2-0で勝利。ビッグイヤーを掲げた。

以下に続く

これで自らの持つ史上最多記録を更新、15回目の欧州制覇を達成したレアル・マドリー。ヨーロッパの覇権を握る彼らだが、今大会も完全に主導権を握って勝った試合は多くない。それでも最後には勝利を手にし、タイトルまで手にしている。

そんなレアル・マドリーの「神話」について、スペイン大手紙『as』の副編集長を務めるハビ・シジェス氏は「もうどうにかできるような存在ではない」と表現する。スペインメディア屈指の分析担当が、“欧州最強”チームを紐解いていく。

文=ハビ・シジェス/スペイン紙『as』副編集長

翻訳=江間慎一郎

■「レアル・マドリー神話」は不滅

レアル・マドリーはどうにかできるような存在ではない。今季チャンピオンズズリーグ決勝で待ち受けている運命は、誰もが知っていることだった。

このフットボール界で、マドリー以上に責任のあるチームはない。彼らはここ40年間、チャンピオンズカップ/リーグ決勝でただの一回も負けていないのだから。それなのにボルシア・ドルトムントに敗戦するなどあっていいわけがない……たとえ彼らがどれだけ素晴らしいプレーを見せ、もっと良い結果に間違いなく値していようとも。

マドリーは自分たちの歴史に忠実である。ここまでに69回開催された欧州最高峰の舞台で15回も王者となったのは、決して偶然ではない。レアル・マドリーは勝利そのものであり、どうにかできる存在ではないのだ。

■“欧州最高”ではなく“欧州最強”

real madrid1(C)Getty Images

フットボール的な観点で言えば、レアル・マドリーはチームとしてのパフォーマンスではなく、選手たちの自信と才能によって勝利をつかむことが異常に多い。ゆえにパフォーマンスの質をベースとした“欧州最高”という形容を、ジョゼップ・グアルディオラ率いるマンチェスター・シティに譲っているのだろう。

そう、マドリーはその勝利が偶然の産物とみなされるなど、いつも過小評価の対象となってきた。確かにその伝説からは超自然的な現象をいくつも確認でき、それが彼らの強さの説明を難しくしている。しかし細かく分析していけば、この白いチームが運によって“欧州最強”に君臨しているわけではないことは、はっきりと分かる。

今季のマドリーはれっきとした王者だ。彼らはダヴィド・アラバ、エデル・ミリトン、ティボー・クルトワが長期離脱を強いられ、エドゥアルド・カマヴィンガ、オーレリアン・チュアメニ、ヴィニシウス・ジュニオールらが不在の時期もあった逆境のシーズンを乗り越えた。クラブやカルロ・アンチェロッティによって練られた陣容と、その生かし方は見事と言うほかない。レギュラーの選手たちが活躍できなければ、ルーカス・バスケス、ブラヒム・ディアス、ホセルが大役を担って試合の解決策となった。チャンピオンズであれば、クルトワの穴をアンドリー・ルニンが準決勝まで埋めている……というよりも、彼の活躍なしで決勝進出は果たせなかった。

マドリーの選手たちにはフィジカル、技術、野心、そして、それらを結果に変えるための忍耐と冷静さを持ち合わせる。なぜならば、ジュード・ベリンガムら少しの例外を除いて、彼らは少なからず批判に晒された経験があるからだ。マドリーとのそのサポーターは世界で最も要求が厳しく、ときに議論の余地すらないことにまで口を出してくる。しかし、だからこそ選手たちは個人としても集団としても鍛え上げられ、敗北を絶対的に拒絶して勝利への道を追求するのである。

■“どう勝つか”ではなく“勝つ”こと

ancelotti(C)Getty Images

レアル・マドリーの強さを表すのは、そのありとあらゆる勝利の仕方である。彼らはどんな類の試合だって物にしてしまう。マンチェスター・シティ戦やドルトムント戦など相手に主導権を握られる展開であれば、トランジションや極めて効果性の高いプレー&フィニッシュから勝利して、相手に理不尽さを感じさせる。反対にバイエルン・ミュンヘン戦のようにこちらが主導権を握る場合、相手がまるで自分たちのように理不尽なゴールを決めても、動揺することなく攻め続けて結局最後には勝利をもぎ取る。マドリーは攻撃的にも守備的にも振る舞え、そのどちらでも強いのだ。

アンチェロッティのチームは明確なプレースタイルを持っていない。一つだけに絞る必要がないためだ。彼らの唯一無二の目的は“勝つ”ことであり、“どう勝つか”にはこだわらない。もっと言えば、どうプレーしても勝つことができる選手たちを揃えている。

マドリーはポジショショナルな攻撃ではピッチをワイドに使い、サイドチェンジを用いながらペナルティーエリア内でフィニッシュを仕掛けられるよう選手を配置する。トランジションではヴィニシウスとロドリゴの2発の弾丸が強力な貫通力を見せる。彼らを放つ引き金となる、トニ・クロースの正確無比なスルーパスがもう見られなくなってしまうことは、フットボール界にとって大き過ぎる損失だ。

次に守備面について、トランジションの際にはフェデ・バルベルデの大きなストライドを生かしたカバーリングが、今季マドリーの生命線となった。そして中央やや下り目で、各ラインを狭めて形成する守備ブロックはまさに堅牢そのものだ。危険度が高まる状況では、ダニ・カルバハルとアントニオ・リュディガーが積極的かつ的確な判断で相手の攻撃を潰している。

■CL決勝を分析

vinicius(C)Getty Images

ウェンブリーでの決勝は、レアル・マドリーの比類なき個性が存分に発揮された。エディン・テルジッチ率いるドルトムントはパフォーマンスだけで言えば彼らを上回っていたが、しかし勝敗は別だったのだ。

ドルトムントはイアン・マートセンを内に絞り、エムレ・ジャンをセンターバックの中央に配するビルドアップでマドリーのプレッシングを混乱させた。そしてユリアン・ブラントがDFとMFのライン間に位置し、カリム・アデイェミ&ジェイドン・サンチョがクルトワと1対1になれるような状況をつくり出している。マドリーはカマヴィンガ&クロースのプレスのタイミングが悪く簡単に背後を取られてしまい、加えてベリンガム&ヴィニシウスが撤退守備で彷徨ったような動きを見せて、ユリアン・リエルソンを自由にしてしまっていた。またボールを持ってもクロースが封じられたことで円滑にビルドアップできず、攻撃手段はヴィニシウスの突破のみに限られている。だがしかし、それでも生き延びてしまうのがマドリーであり、なおかつクルトワの超絶セーブがあれば、事はより簡単に運ぶのだ。

後半に入ると、アンチェロッティがシステムを1-4-4-2から1-4-5-1(スペインのフォーメーションはGKから表記する)に変更。バルベルデが右サイドの守備に専念するとブラントの存在感が一気に減少し、試合は均衡を見た。ドルトムントはこの時点で、もっと言えば前半にあれだけ決定機を外した時点で、勝負に負けることを予感していたはずだ。彼らをダウンさせる一撃を見舞ったのは、カルバハル。そのゴール方法がヘディングシュートだったのは意外だったが(174センチとチームで一番身長が低い)、この右サイドバック以上にマドリーの在り方を体現する選手もいない。

マドリーはさらに、ヴィニシウスが決着をつける2ゴール目を容赦なく記録。彼らのゴールを決め切る力は、本当に常軌を逸している。そうやってライプツィヒを、シティを、バイエルンを、ドルトムントを葬ったのである。

■伝統

 kroos(C)Getty Images

現在のレアル・マドリーが好調でも普通でも不調でも負けないことは、今季を通して証明された。彼らが土をつけられたのはアトレティコ・デ・マドリーとの2試合だけ。その内の一戦はコパ・デル・レイで、クラブ史上初の三冠を逃す敗戦となってしまったが、そこまで悔やむことでもないだろう。マドリーの勝利の伝統は間違いなく、しっかりと息づいているのだから。

今夏にキリアン・エンバペまで加わるマドリーは、フットボールシーンをこれからもずっと席巻しそうな気配がある。彼らに唯一対抗できるのは、前述したグアルディオラのシティだけだろう。ここ4シーズンでシティはマドリーを2回チャンピオンズから敗退させた。だが、マドリーはたとえ劣勢であっても誇り、不屈の心、断固たる決意といった違うベクトルの強さでもって、こちらも2回シティを敗退に追いやっている。

シティは知っている。たとえ自分たちが“世界最高”と称されるようなパフォーマンスを見せていても、それが“世界最強”である証明にはならないことを。どこの世界でも問答無用で勝ち続ける存在がいる。フットボールでは、レアル・マドリーこそがそれなのだ。

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