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「だから私は、レアル・マドリーが大嫌いなのだ」バルセロナ出身記者が綴る悲哀と“宿敵の本当の偉大さ”

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レアル・マドリーは1日、ウェンブリー・スタジアムでドルトムントとのチャンピオンズリーグ決勝戦に挑む。ここ10年間で6回目の決勝進出、史上最多記録を更新する15回目の優勝をかけた大一番を戦うことになる。ここ数年を見ただけでも、欧州サッカーで最も成功したクラブと言っていいだろう。

そんなマドリーの成功に、宿敵バルセロナの現地サポーターは何を感じ、何を思うのだろうか。今季のファイナルをどう見るのだろうか? カタルーニャ出身で、スペインで唯一無二の存在感を放つフットボールカルチャーマガジン『パネンカ』のルジェー・シュリアク氏が「大嫌い」な宿敵への思いを綴る。

以下に続く

文=ルジェー・シュリアク/Roger Xuriach(スペイン『パネンカ』誌)

翻訳=江間慎一郎

■レアル・マドリーが大嫌いだ

私はレアル・マドリーが大嫌いだ。その感情はバルセロナを愛するカタルーニャ人として抱えるものだが、しかしここ最近の“レアル・マドリー”の在り方には本当に苛立ちを覚える。彼らはただスター選手のかき集めるだけのクラブであり、バルセロナと比べれば、フットボールの哲学など伝承されていくものがまったくないように思われた。だからこそ、ここ10年間の彼らには心底、嫌気が差している。

■嘘つきの会長

perez madrid(C)Getty Images

そもそも、フロレンティーノ・ペレスは嘘つきだ。

今世紀の始まり、まるでメシアのようにマドリーの会長となった彼は、以降スター選手を獲得する度に、決まって「彼はマドリーでプレーするために生まれてきた」と口にしてきた。

フロレンティーノのその言葉を何回耳にしてきたのか、正確な回数は覚えていないが、最初にそう言ったときのことははっきり覚えている。あれは第一次政権発足直後の2000年夏のことだ。彼はフットボール史上最大の裏切り行為を引き起こした後、その宿命論について初めて語っている。

あの夏、フロレンティーノは宿敵バルセロナのエースだったルイス・フィーゴを強奪。移籍が決定した直後、報道陣に囲まれたポルトガル人MFはどこか怯えたような表情を浮かべていたが、その横を歩くマドリー会長はタバコをふかしながら、余裕たっぷりにこう言い放ったのだった。

「金が獲得の決め手だった? そうではない。フィーゴが今ここにいるのは、彼がマドリーでプレーするために生まれてきたからだ」

フロレンティーノはその後も、憧れの会長サンティアゴ・ベルナベウのやり方を踏襲して、クラブに富をもたらすスター選手の獲得戦略を続けていった。ジネディーヌ・ジダン、デイヴィット・ベッカム、2人のロナウド、カリム・ベンゼマ、カカ、ギャレス・ベイル、エデン・アザール……etc。だが、その度に繰り返し続けたあの言葉は嘘だった。結果的には大嘘だった。フロレンティーノは、本当に嘘つきだ。

■「マドリーでプレーするために生まれてきた」

Joselu(C)Getty Images

ホセルはドイツで生まれて、スペイン北部のガリシアで育った。地元クラブのセルタからマドリーの下部組織に渡った彼は、2010-11シーズンのラ・リーガ最終節でトップチームデビュー。84分にベンゼマとの交代で出場すると、それから2分後に初得点を決めている。

「あいつは良いストライカーだな」。ホセルについてそう考える人は少なくなったが、ラウール以降の下部組織出身FWの行く末は、誰もが知るところだった。つまりはスター選手の控えになるか、荷物をまとめて出て行くか、だ。例えばホセルの下部時代のチームメート、アルバロ・モラタならばその二つを経験して、最後にはアトレティコに行きついている。

ホセルはマドリーからセルタに貸し出され、その次にドイツに戻った……まるで自分のルーツを遡る旅のように。ブンデスリーガではホッフェンハイム、フランクフルト、ハノーファーのユニフォームに袖を通し、それからプレミアリーグまで足を伸ばしてストーク・シティ、ニューカッスルでプレーした。ゴールを決めるための牙と本能を持ち、戦うことを決して止めない選手こそがホセル。現代フットボールでは“シンプル過ぎる”と揶揄されもする、クラシックなストライカーである。

ホセルは29歳でスペインに戻ったが、その後に経験したのは2回の2部降格だった。まずアラベス、その次にエスパニョール……。エスパニョールではチームの中でも際立った活躍を見せたものの、コンスタントに決めるゴールは降格を回避させるまでには至らなかった。そして2回目の降格直後、失意に暮れる彼の前に姿を現したのが、マドリーだった。

白いクラブはすでにベテランとなっていたホセルを、完全移籍ではなく1年レンタルで獲得。多数のマドリーサポーターにとっては魅力的とは言えない補強で、SNS上では「失敗だ」という主旨の意見があふれた。入団発表で、長旅を終えて古巣に戻ってきたホセルは感極まって涙を流していたが、そのときでさえ、キリアン・エンバペの獲得が声高に叫ばれ続けていた。「ホセルはマドリーでプレーするために生まれてきた」と言う人間など、フロレンティーノを含めて、その当時には誰もいなかったのだった。

■一世代でバルサの優勝回数を上回るなんて…

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だが、蓋を開けてみればどうだ。今季のマドリーが、ホセルなしでデシモキンタ(15回目のチャンピオンズリーグ優勝)の可能性をつかむなど、絶対にあり得なかった。準決勝バイエルン戦の2ndレグ、今年3月で34歳となった彼は、89分と91分にネットを揺らして2-1の逆転勝利を導いたのである。マドリーにとってはこれで、ここ10年間で6回目の決勝進出……。もしドルトムントを破って優勝を果たせば、ホセルの義兄弟ダニ・カルバハル(※彼らの妻は双子の姉妹)、加えてルカ・モドリッチ、ナチョ、トニ・クロースの4選手は、あのパコ・ヘントと並びチャンピオンズの歴代最多優勝選手となる。彼らはたった一世代でバルセロナの通算優勝回数を上回ることになるのだ……そんなことが許されていいのか?

……少し逸れた話を戻そうか。マドリー加入で期待よりも失望を感じさせたホセルは今季、ベンゼマが抜けた穴をサポーターに感じさせることがなかった。加えてフリーだったためにマドリーが獲得したアントニオ・リュディガーは、長期離脱を強いられたエデル・ミリトンとダヴィド・アラバの穴を埋めるどころか、世界最高レベルのDFとして活躍した。そしてリュディガーとコンビを組んだナチョについては、もう何を言えばいいのか……。彼は今季のマンチェスター・シティ戦だけでもラファエル・ヴァランが3シーズンかけて見せてきた以上の好守を披露し、PK戦ではまるでクリスティアーノのような冷静さでシュートを決め切った……そう、チャンピオンズ3連覇の最たる主役クリスティアーノが退団したとき、その後もマドリーが同じ勢いで勝ち続けていくと、一体誰に予想ができただろうか?

■伝染するメンタリティ

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この夏、マドリーがエンバペの入団セレモニーを行うとき、フロレンティーノは再び「彼はマドリーでプレーするために生まれてきた」と言って私たちを混乱させるのだろう。だが、そんなのは嘘でしかない。彼はマドリーの本当の偉大さを隠している。

レアル・マドリーでプレーするために生まれた選手など、いない。“レアル・マドリー”はホセルの頭の中、ナチョの心の中、もしくはフェデ・バルベルデのつま先に宿るものなのだ。

2014年のチャンピオンズ決勝アトレティコ戦で、彼らは92分48秒にセルヒオ・ラモスが1-1の同点弾を決め、逆転勝利でデシマ(10回目のチャンピオンズ優勝)を成し遂げた。彼らはそこから勝者のメンタリティを、マドリディスモ(レアル・マドリー主義)の根幹たる不撓不屈の精神を、まるで伝染性の真菌のように培養して、成長させていったのである。

マドリーの選手たちはその伝染から逃れることができず、誰もがあきらめを知らないヒーローとなる。極限の競争心、不屈の心、最後の1秒までゴールを決められるという自信を持ち、選手としての能力も限界以上に引き上げられる。嘘だと思うのならば、ルーカス・バスケス、アンドリー・ルニン、フェルラン・メンディらに聞いてみればいい。

ゼネラルダイレクターのホセ・アンヘル・サンチェス、チーフスカウトのジュニ・カラファトを中心としたマドリーの補強戦略は、間違いなく功を奏した。それにしたって、今のマドリーには本当に際限がない。この10年間、どれだけ選手が入れ代わろうとも、彼らは全員が一つの精神でつながれているかのように、ずっと勝ち続けている。

クリスティアーノが去ればベンゼマの存在感が増大し、カセミロが去ればオーレリアン・チュアメニが現れ、マルセロが去れば魔法のプレーこそないもののメンディがあらゆるウィングの突破を止め、モドリッチが存在感を失えばエドゥアルド・カマヴィンガが台頭し(無論モドリッチは途中出場からでも重要な存在だ)、そしてベンゼマが去ればホセルが劇的弾を決めるのだ。

フロレンティーノのマドリーは第一次政権でガラクティコス(銀河系軍団)を形成したが、現在の銀河はどこまでも膨張しているかのようだ。最新のスター選手ジュード・ベリンガムも、少年期からマドリーの逆転勝利に親しみ、その白いユニフォームを泥だらけにすれば最後にはスコアをひっくり返していると信じて止まない。ヴィニシウス・ジュニオールにしたってそうだ。マドリーに到着したとき、その向こう見ずのプレーや決定力の乏しさによって滑稽な選手と扱われてきたブラジル人FWは、フロレンティーノが現在の世界最高の選手と目されるエンバペを「マドリーでプレーするために生まれてきた」と紹介するときには、おそらく23歳にしてチャンピオンズに2回優勝した選手になっているはずである。“レアル・マドリー”はヴィニシウスのために生まれてきたのであり、決してその逆ではないのだ。

■だから私は、彼らが大嫌いなのだ

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バルセロナを愛する私をはじめ、“大切なのは勝つことではなく、どう勝つかにほかならない”と信じる人々は多い。だがマドリーは違う。彼らは“どう勝つか”ではなく“何がなんでも最後には勝つ”ことを信条とする、本当におぞましいチームだ。いや、こだわらないのは“どう勝つか”だけではない。彼らは“どの選手を擁して勝つか”にも興味がないのである。

……だから嫌いなのだ。バルセロナは今季3回あったクラシコに全敗し、リーガの2試合ではどちらも劇的な逆転勝ちを許した。マドリーを代表するチャント「バモス・レアル(行くぞレアル)! アスタ・フィナル(最後まで)!」は、最後まであきらめないことを意味しているのではない。どんなプレースタイルでも、誰がプレーしていても、マドリディスモに伝染する連中が、試合が終わるまでには相手を叩き潰しているという予言にほかならないのだ。まったくもって、忌々しい。私はマドリーが決勝で負けることを心底願っているが、当事者たる彼らはたとえビハインドを負っても、そんなこと露ほどにも信じていないのだろう……だから私は、彼らが大嫌いなのだ。

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