「ルイスを信じよう」
NBAのレジェンド、チャールズ・バークレーがワールドカップのベスト16でアメリカは「大穴をあける」と言ったとき、シンプルな返答はオランダ陣営の楽観的なムードを物語っていた。
ルイス・ファン・ハール監督率いるチームは期待を裏切ることなく、カウンターのスタイルを披露し、アメリカに3-1の勝利を収め、準々決勝でアルゼンチンとの対戦を決定させた。オランイェは、リオネル・メッシ率いるアルビセレストに対して劣勢であるが、彼らを破滅に導くことができるとすれば、それはファン・ハールであろう。
71歳の彼は、フランク・デ・ブール監督時代のEURO2020での大失敗の後、3度目の指揮を執ることになったが、典型的な確実な方法でオランダを安定させた。
ファン・ハール監督復帰後、チームは19試合負けなし、アメリカ戦の勝利により、監督としてワールドカップ11試合負けなし、これは大会史上2番目の記録である。
Getty/GOALこうした結果にもかかわらず、ファン・ハールのアプローチは母国では多くの批判を受けている。実際、ハーフタイムでアメリカ相手に2-0とリードしていたとき、オランダのレジェンド、マルコ・ファン・バステンはチームのスタイルを痛烈に批判したのだ。
「私たちは全く何もしていない。ゴールにつながった2つの瞬間以外は、全く何も起こらなかった。主体性もなく、何もなかった」
ファン・ハール監督はアヤックス、バルセロナ、バイエルン・ミュンヘンなどで、国内リーグやチャンピオンズリーグで数々のタイトルを獲得し、その実戦的なプレースタイルでよく知られている。
マンチェスター・ユナイテッドでは、彼の哲学が豊かな報酬を得られなかった数少ない例のひとつであり、彼の評判は落ちてしまったが、ワールドカップは彼にうってつけの大会である。
現在のオランダ代表はアリエン・ロッベン、ロビン・ファン・ペルシー、ウェスレイ・スナイデルのような選手たちはいないし、個々の輝きによって違いを生み出していた時代のようなスター性を誇っているわけではない。
Getty/GOALファン・ハールはその代わりに、30年のキャリアを通じて享受してきた成功を支えるコアバリューに固執させることで、現チームの潜在能力を最大限に引き出している。彼らは、相手がどんなにタフな相手であっても、一発勝負の試合に勝つために完璧にセットされている。
グループステージ最終戦でホスト国のカタールに2-0で勝利したことからもわかるように、ボールを保持しているときの忍耐と、ボールを持たずにいるときの規律が重要な原則である。しかし、ファン・バステンと同じような懸念を抱いているある記者は、彼らのパフォーマンスは「歯ぎしり」のようだと言い、ファン・ハールもそれを快く思っていない。
その記者に対して、指揮官は「君は僕とは違う視点を持っていると思う。なぜ、ひどく退屈だと書かないんだ!つまらないと思うなら、家に帰ったらどうだ?」と返した。
ファン・ハールのメディアとのやり取りは、FaceTimeで最終メンバーを決める際に「裸の選手」を暴露したり、トレーニング中にカメラに向かって妻に愛を伝えたりと、大会を通して大きなエンターテインメントの源となってきた。
デンゼル・ダンフリースはアメリカ戦後の記者会見で、2アシストを記録して得点に貢献したご褒美に、監督から「ビッグ・ファット・キス」をもらったこともある。
ファン・ハール監督がいかに中立的なファンや選手たちに愛されているかを示す最も明確な例は、チームがベスト16で勝利を収めた後、ホテルに戻ったときだった。
メンフィス・デパイ、ヴィルヒル・ファン・ダイク、そしてダンフリースは、シャキーラの2010年の大会アンセム「Waka Waka」をバックにエントランスで踊り、ファン・ハールもスマホ片手に満面の笑みを浮かべていた。
サッカー界最後の偉大な変わり者の一人であるファン・ハールは、批判的な人たちのことなど気にも留めない。彼は私たちに忘れられない白鳥の歌声を聞かせてくれるし、誰のためにも自分のやり方を変えることはないだろう。前立腺癌と闘った後、まだ回復途中であるという事実が、オランイェの復活をより一層際立たせている。
しかし、ファン・ハールは4月、25回の放射線治療が「効果を発揮した」と明かし、そのすべてを明らかにした。
ダレイ・ブリントは監督の診断がドレッシングルームに与えた影響について、「彼はそれを隠すためにできる限りのことをした。彼は、自分が経験していることをチームに見せないよう、夜中に病院に行ったりもしていた」と話す。
「彼が今、この病気とどのように向き合っているのか、僕らはとても尊敬しているんだ。彼はいつもと同じようにシャープだ。彼はルイス・ファン・ハールであり、決して変わることはない。素晴らしい人格者であり、僕たちはは一緒にいてくれることをとても嬉しく思っている」
「彼は常に選手を鼓舞する方法を知っている。頭の片隅にはあるけれど、余計なモチベーションは必要ない。僕らは毎試合勝ちたいし、監督のためにプレーしたいし、できる限り遠くまで行きたいんだ」
Getty/GOALファン・ハール監督は、2014年の準決勝でPK戦の末に敗れたアルゼンチンへのリベンジを果たすべく、チーム一丸となった戦いに臨むだろう。
もし、選手たちが再び彼のゲームプランを効果的に実行することができれば、アップセットが待っているかもしれない。リオネル・メッシでさえも、オランダ守備網を突破するのは簡単ではないし、メンフィス・デパイ、コディ・ガクポ、フレンキー・デ・ヨングが血の匂いを嗅ぎつけ、奪ってからの即時カウンターを狙いに来るだろう。
ファン・ハールのメッセージは明快だ。「私は1年前から、我々は世界チャンピオンになれると語ってきた。なれるとは限らない、でもなれるんだ」
オランダは必ずしもファンが見たくなるチームとは言えないが、ファン・ハール監督のイメージ通りに作られており、それが彼らの大きな武器となっている。