複数のクラブからオファーがあったという。しかし、「いつかはプレミアで」との思いから、昇格組のルートン・タウンに今年2月に電撃移籍。23-24シーズン4人目のプレミアリーグで戦う日本人選手となった。
浦和レッズからベルギーのシント=トロイデンに移籍したのが2021年の冬。ベルギーで3年を過ごした後のことだった。世界最高峰とされるリーグで、しかも残留争いという特殊な状況のなか、この数か月で何を経験しどんな変化があったのか。橋岡大樹に話を聞いた。【前編】
■オウンゴールは気にしていない
——プレミアリーグの印象を教えてください。
試合のペースがめちゃくちゃ早いところですね。チャンスを作ったと思っても、すぐ切り替わって向こうのチャンスになる。そういうのばかりで休む時間がなくて、頭を休める時間がないんです。
——ベルギーとも違う?
全然違います。ベルギーの時は「すごい選手もいる」という中でプレーをしていて、自分もできるなと思っていた部分があります。でも、プレミアリーグはその「すごい選手」がほとんどでした。強度、個々の能力の平均のレベルがもう断然違うと感じました。その中で通用することもありましたし、 もっとやらなきゃいけないところもありました。
——ルートンではリーグ戦10試合、FAカップ1試合に出場。ディフェンスラインすべてのポジションをこなされたと思います。難しくなかったですか。
だいぶ難しかったですね。プレミアリーグのデビューはやったことがない左のセンターバックでした。でも、(ロブ・エドワーズ)監督から「お前はどこでもできるからやれ」と。右のCBもやりましたし、右のウイングバックもやりましたね。いろんなところで使ってもらえたのは、すごく嬉しかったですけど、難しい部分もありました。
——加入時のプランではどのポジションだったのですか?
「後ろもできるし、ウイングもできるよね」と言われていましたから、CBをやる可能性もあるなとは思っていました。(一番難しかったのは)やはり右のCB。ちょっと特殊な戦術でしたし。ただ、監督にも直接言われましたが、アグレッシブなところは評価されていたのかなと思います。
——ルートンはマンマークですごく走るチームでした。エドワーズ監督の指導の特徴は?
僕に指導というよりも、守備の部分で全員指導…というか確認が主でしたね。「相手がこう来るからこういう風について、ここまではマンツーマンで」といった。自分が今までやってこなかった戦術なので、難しい部分もありましたが、面白かったです。
Getty Images——4月13日の第33節・マンチェスター・シティ戦でハーランド選手のマークを担当。オウンゴールを与えてしまいました。
みんなに言われるんですけど、正直全く気にしていないです。「大丈夫だったのか?」みたいな感じで聞かれるのですが、あれは「不運」なので。あそこでどうにもできなかったですし、僕が気にする必要もない。その後もハーランド選手にはずっとついていて、思ったように仕事をさせていなかったと思うので。
試合は負けましたが、自分のプレーは良かったと思います。オウンゴールが衝撃的過ぎて、その印象が残っているようですが、本当にあれはもうどうしようもできないことで、 特に何にも思うことはないですね。
守備の部分では、ゴール前でシュートブロックすることもあったし、裏に抜け出すハーランド選手の飛び出しを防いだところもあった。中に入って来るクロスボールの時にハーランド選手をマークしてクロスからのゴールを防ぐとか、そういったところはうまくできていたと思いますし、自分としては手応えを感じました。
——逆に「差」はありませんでしたか?
チームとしての差は感じました。個人としての差もあるとは思いますが、試合をやっていく中で「めっちゃうまい」とは思いつつも、「差」をめちゃくちゃ感じたわけじゃないんです。ハーランド選手だけではなく、そのほかの選手ともそこまでの差は感じなかったです。ハーランド選手は確かにパワーの部分での差は少しあったしオウンゴールにはなりましたけど、決定的な仕事はさせませんでしたから。
——プレミアリーグで対峙して、一番イヤだった選手はいますか?
ボーンマスのアントワーヌ・セメニョ選手ですね。プレミアリーグで初先発したのが(3月14日の)ボーンマス戦で、マンマークについたんです。でも、3-0で勝っていたのに追いつかれて3-4で負けてしまった。「ドリブラーでいい選手だ」と言われていて警戒していたのに、追いつかれる3点目のシーンで決められました。「この選手イヤだなって」本当に思いました。右も左もあってドリブルがキレキレで。僕は左のCBをやっていたんですけど、左のウイングの選手が前に行くとセメニョ選手とめちゃくちゃでかいスペースで1対1になってしまって。カットされてシュートを決められてしまいました。
——衝撃を受けた選手はいますか?
ロス・バークリー選手(元イングランド代表、エヴァートン、チェルシーなどでプレー)ですね。ルートンのチームメイトで僕たちの6番なんですけど、中盤で本当にボールを奪われないんです。最初に見た時に「この選手うまっ!」って衝撃を受けました。
■プレーヤー人生初の残留争い
Getty Images——プレミア昇格に導いた戦術家の監督のもとチームはシーズンを戦いましたが、残留できませんでした。
僕は「残留争い」をしたことがあまりありませんでした。あそこまでの残留争いは初めてだったので、 メンタル的にキツかったです。上に行く争いも難しいですけど、やはり下のほうが難しいことを身に染みて感じました。みんな「ミスしたら良くない」っていう雰囲気になって、試合中も自信なさげにプレーするようになってしまう。「自分のミスじゃない」と周りのせいにするような雰囲気も出てきてしまいました。
——そういった残留争いに身を投じて、あらためて気づいた点や成長した点はありますか?
自信は大事だなっていうことですね。試合に勝てないなかで、途中から加入した選手が僕1人でプレッシャーになっていた部分もあったんです。失点にも絡んでしまって。それで「俺のせいで落としているのかも…」とか「自分、大丈夫かな?」とか不安になって、メンタル的にも弱気になっていた部分がありました。
でも、そうじゃない。強気に何も考えずに「俺はできるんだ」っていう自信を持つことにして「チームでも中心の選手だ」っていう、わけがわからないくらいの根拠のない自信を持ちながらやったらいいプレーができることに気づけたんです。練習でもすごくコンディションが良くて、プレッシャーから解かれたっていうのもありますけど、最後のほうの試合は今までよりいいプレーができたのかなと思いました。
——誰かに相談したとかではなく、自分で気づいたのですか?
自分の気持ちを整理しながら、いろんな人…本当に仲のよい人に話しました。自分の中の状況を整理して「こうだよね、こうだよね」といろいろまとめていった結果の心境ですね。
【後編「日本代表・自身のキャリアについて」に続く】
◎聞き手:吉村美千代/撮影:長尾優輝(GOAL編集部)