20231111_Takaoka(C)Getty images

変化で掴んだ勝ち点3。U-17日本代表、”死の組”開幕戦の舞台裏「おまえら、3ポイント欲しくねえのか!?」【U-17W杯】

転機となった豪雨の中断

陽が落ちると共に降り始めた雨はすぐにその強さを増し、滝のような爆音を屋根と奏でるようになっていた。視界すら悪化していく豪雨に対し、ガボン人のアチョウ主審が運営サイドと相談の上で試合中断を決めた判断は賢明なものだった。

ただ、「運がないな」とも思ってしまった。何しろ試合の状況は明らかに日本優勢。次々と決定機を作り出しており、決め切れない歯がゆさのある展開だったとはいえ、ここからさらにチャンスを作れる目はあった。切り札となれるアタッカーも複数用意している。「勝てるぞ」という空気だっただけに、嫌な中断に思えたのだ。

逆に土俵際に追い詰められていた感があり、体力的な消耗も感じさせていたポーランド側からすれば、救いの雨。メンタル的にも、フィジカル的にも、そして戦術的にも立て直せる好機が巡ってきた形である。

以下に続く

「嫌な雨になるかもしれない」

そういう不安が少なからずあった。

このポーランド戦、転機となるタイミングは二つあった。一つ目はもちろん、ハーフタイムである。前半45分、日本の見せたプレーはお世辞にも褒められないもの。シンプルに言ってしまえば、「硬かった」ということだろう。

初めての世界大会に臨む独特の緊張感があり、キーマンであるMF佐藤龍之介(FC東京U-18)が体調不良で出遅れ、この試合の先発を回避していた影響もあっただろう。加えて、ポーランドの攻撃時に3−1−4−2で構え、守備時はマンツーマンで前からハメ込んでくるシステムは日本の育成年代では余り見られないもので、選手たちが戸惑った面もある。

DF本多康太郎(湘南ベルマーレU-18)は、やはり普段着でなくなっているムードを感じていたという。

「いつもどおりやれず、相手にチャンスを与えちゃう、自滅という言い方が正しいかわからないですけど、なんか自分たちの問題でやられそうになっていた感覚でした」

縦パス1本でFW井上愛簾(サンフレッチェ広島ユース)が抜け出した場面など日本にも決定機はあったが、時間の経過とともに試合のペースはポーランドに握られ、「守備に追われる流れにしてしまった」(森山佳郎監督)。

行われた”意思統一”

自然と、ハーフタイムには指揮官から活が入る。

「このサッカー、面白いか?」

晴れ舞台での萎縮したプレーに対し、まず「勇気を持って攻めようよ」というメッセージを送った指揮官の言葉で、「メンタリティを入れ替え直してもらった」(DF小杉啓太=湘南ベルマーレU-18)。距離感の修正など具体的な指示も入り、佐藤と同じくコンディション不良で出遅れていたMF山本丈偉(東京ヴェルディユース)が途中出場で中盤中央に入ったことでボールの動きも良化。後半は大幅な内容改善となり、そして冒頭の中断へと至った。 

 ただ、この中断期間、まったく暗いムードはなかったと言う。

「おまえら、3ポイント欲しくねえのか!?」

森山監督が煽り、選手たちもそれに応える。次々と前向きな言葉が飛び交い、むしろ盛り上がるくらいだった 

「チャンスのある中で中断になっちゃって、そこはみんな嫌だったと思うんですけど、でも『嫌だな』という雰囲気は一切出さず、すごくポジティブな声が出ていた。『この試合、勝ちゲームだぞ!』『絶対に点を取れるぞ!』といった声しかなくて、やっぱりそれが良かったのかなと思います」(本多)

中断明けに、森山監督はFW道脇豊(熊本)とFW高岡伶颯(日章学園高校)の2名を途中出場で送り出す。エースとジョーカーの同時投入によって、「より苛烈に点を取りにいくぞ。引き分けは要らねえ!」というメッセージを強烈に打ち出した。

意思統一は明確で、中断によって勢いは衰えるどころか増して開始からポーランドを完全に呑み込んだ。76分に道脇のアシストから生まれた高岡の決勝点は偶発的なものではなかった。

苦しみながらも掴んだ初戦の勝点3。主将を務めるDF小杉啓太(湘南ベルマーレU-18)は「後半にやれたということは自信を持ってやればできるということ」と話し、「前半にやれなかったことは課題になりましたけど、次に向けてという意味では(後半に改善できたことが)収穫になったと思う。そこをしっかり意識してやっていきたい」と総括する。

森山監督は「1試合ごとに成長していきたい」とあらためて語りつつ、チームの変化で掴んだ勝ち点3に確かな手応えも感じた様子だった。

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