20220330 Andrea Pirlo PanenkaGetty Images

サッカーのパネンカとは?歴史や成功した名手たち、蹴り方を紹介

パネンカは巧妙な技だが、実にシンプルなペナルティキックの蹴り方の1つで、相手ゴールキーパーを嘲笑うかの如くゴール正面にボールをチップキックする方法だ。

この蹴り方は、チェコスロヴァキアの名手アントニーン・パネンカがEURO1976ファイナルの西ドイツ戦で、ドイツとバイエルン・ミュンヘンのレジェンドゴールキーパーであるゼップ・マイヤーを相手に披露した。この一戦で2-0のリードを追いつかれたチェコスロヴァキアだったが、PK戦に入ると両チームの選手が成功する中、西ドイツの4番手を務めたウリ・ヘーネスが外し、直後にキッカーを務めたパネンカがチップキックで冷静に沈めて母国を優勝に導いた。

右に飛んだマイヤーの意表を突くゴール中央に軽く浮かしたパネンカのチップキックは、フットボール界において新たな技術が生まれた瞬間だった。ペレに“天才か狂人のどちらか”と表現させた一方で、パネンカへはヨーロッパの最高舞台の1つでスタンドプレーに走ったことに対しての非難が集中していたが、同選手はこのキックを選んだ理由を後に『UEFA.com』で説明していた。

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「マイヤーが私の名前を耳にするのをとても嫌っているのではないかと思う。決して彼を愚か者に見せようという考えはなかった。その一方で、これが得点するために最も簡単で、最もシンプルな方法であると気付いたから、私はこの蹴り方を選択した。とても単純なキックだ」

これまでにパネンカを使用した選手は?

1976年に初めて披露されて以降、複数の大舞台で数々の名プレーヤーたちがパネンカを使用してきた。

最も有名なパネンカと言えば、やはり2006年ワールドカップ決勝でジネディーヌ・ジダンがジャンルイジ・ブッフォンの守るゴールからフランスにリードをもたらしたキックだ。残念なことに、ジズーにとってこの試合は大きな失望とともに終わり、司令塔を失ったフランスはPK戦の末にイタリアに敗れた。それでも、ジダンのペナルティキックはこの試合の伝説の一幕として歴史に刻み込まれている。

アンドレア・ピルロも大舞台で見事パネンカを成功させた1人。EURO2012のイングランドとのPK戦でのキックは大きな注目を集めた。ピルロはパネンカを選んだ理由について「ジョー・ハートの姿を見たとき、すぐに決断した」と話して説明を続けた。

「助走を取ったとき、まだどのように蹴るか決めていなかった。そして、彼が動いたのを見て、決心した。すべてが即興で、計画的ではなかった。得点を決めるチャンスを100%に近づけることだけがその理由だった」

近年では、元バルセロナで現在パリ・サンジェルマンでプレーするリオネル・メッシが複数回このスキルを披露し、その他にもエデン・アザールやメンフィス・デバイ、ラヒーム・スターリングもパネンカを使用してきた。特に、この蹴り方を得意とする選手と言えばやはり元レアル・マドリーで現在パリ・サンジェルマンでプレーするセルヒオ・ラモス。

パネンカはラモスがセルタ戦でチップキックでペナルティを沈めた後に『アス』に対して「ラモスは間違いなく世界最高のキッカーの1人だ。彼が一番最初にやったものはとても美しいわけではなったが、彼はすべてを決めている。これが何よりも重要なことだ。今回のキックは私が見てきた中で最もエレガントなパネンカ・ペナルティの1つだった。とても楽しめたし、称賛に値する。間違いなく、最高のゴールだ」と絶賛していた。

セバスティアン・アブレウはおそらくパネンカを最も多用した選手の1人で、想定通り“狂人”のニックネームで知られた。2010年ワールドカップでウクライナがPK戦の末にガーナを下した際にもこのキックを使用し、試合後には「ジダンのペナルティを表現するときにどの形容詞を使用する?クレイジーか?いや、あれはマジックだ。だからアブレウのもマジックだろう?」と話していた。

2011年当時ボタフォゴに所属していたアブレウは、敵地でフルミネンセに3-2で逆転勝利した一戦で2度にわたりパネンカを行い、いずれも成功させていた。

もちろん、技術に加え、極度のプレッシャーが掛かる状況の中でパネンカを選択することには危険性がはらんでおり、試みた全員がラモスのように成功してきたわけではない。

モンテネグロ戦でチップキックが高くなりすぎてペナルティキックを失敗したセルビアのアレクサンダル・ミトロヴィッチは「昨日、メンフィス・デバイがパネンカで得点を決めたのを見て、直前にこのように蹴ろうと決めた。僕は何て愚かなんだ」と嘆いていた。

ガリー・リネカーもパネンカを失敗した選手の1人。1992年のブラジルとの親善試合で、当時のイングランド代表得点記録に並ぶチャンスがあったペナルティの場面で選択したチップキックは簡単に相手ゴールキーパーのセーブに遭った。

中でも一番の失敗は、カーディフ・シティ相手の2010年プレーオフでパネンカを試みたレスター・シティのヤン・ケルモルガン。チームのプレミアリーグ昇格が懸かる中、ケルモルガンのキックは高さもパワーも不十分で、カーディフ守護神のデイヴィッド・マーシャルに簡単に止められてしまった。

パネンカの蹴り方は?

ゴールキーパーを左ないし右にダイブさせるためのテクニックを持つことが大前提で、パネンカを成功させるためには相手に悟られないことが最も重要だ。それゆえ、通常のキックの助走とパネンカを試みる際の助走に違いがないことが大切な要素。ボールを蹴る瞬間のみ、その違いが明白になる。

足の親指の内側の辺りにボールを当てることがポイント。こうすることでこのテクニックをトライする際に脚をまっすぐ保つことを助けてくれ、またボールを浮かすためにわずかにのけぞることも大切だ。もちろん、緊張せずにリラックスする必要もあり、そうすることで大舞台でこのキックを実施することがさらに印象的なものになる。

すべてのことと同様に、このキックを完璧にするためには練習が必要で、そのうちにこのトリッキーなキックは自分のものになるはずだ。

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